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高尾山ノスタルジア No.3:高尾橋

高尾山の麓、甲州街道から表参道商店街に向かって案内川に架かる橋が、高尾橋です。

資料①:大正初期のころと推定される、高尾橋の写真。現在は石橋が架かっているが、この当時は鉄骨造であったことがわかる。下を流れるのは案内川。(小仏)城山の南側斜面の源流域に端を発し、国道20号線沿いを流れて浅川に合流し、その後多摩川を経て羽田から東京湾へと達する。多摩川源流のひとつ。(注1)
資料②:昭和初期の頃と推定される、高尾橋の写真。堅牢そうな石橋に架け替えられている。現在かかっている石橋とは形状と意匠がちがうので、これまでに最低もう一回架け替えられていると思われる。絵葉書には登頂記念のスタンプが押され、「頂上登山記念 武州高尾山 十二州台 曙亭」とある。「十二州台」は高尾山山頂のかつての名称、「曙亭」は現在も頂上で蕎麦屋を営む。
(注1)
現在の高尾橋。手前は国道20号線。かつて、この場所には武蔵中央電気鉄道高尾橋駅があった。橋を渡ってすぐ右側の白い3階建ての建物が琵琶屋。
資料③:昭和初期の頃と推定される、高尾橋から撮影した表参道商店街。左奥の山肌が露出しているが、ケーブルカー敷設の際に、同じ箇所の森が伐採されたことは別の写真でも確認できることから、ケーブルカー開業直後の時期か。(注1)
資料④:資料③と比較すると、橋のたもとの高尾橋元標柱がないこと、また、左奥の山の森が伐採されていないことから、資料③より少々時をさかのぼった、ケーブルカー開業(昭和2年、1927)より前のものと推定される。(注1)

京王電鉄株式会社が発行する沿線情報誌「あいぼりー」2003年12月9日発行特別号に、高尾登山電鉄株式会社元常務の久保田謙一さんによる、戦前この高尾橋を発着点とし甲州街道を走っていた路面電車に関する証言があります。以下抜粋します(*1)。

「当時(筆者注:高尾山ケーブルカーが開業した昭和2年から間もなくの頃)はもちろん京王線は通っていませんでしたが、代わりに武蔵中央電気鉄道という名の路面電車の始発駅が、今の高尾橋のところにありました。この電車は甲州街道に沿って、八王子駅近くまでを結んでいました。開業からわずか10年後の1939(昭和14年)に、乗客の減少を理由に廃線となってしまいましたが、今走っていたら案外便利でおしゃれな電車になっていたかもしれません。」

武蔵中央電気鉄道は、わずか10年しか存続しなかったため資料や記録に乏しい。また、その軌道のほぼ全てが甲州街道に敷設されたため、度重なる道路改修の結果、いまではその痕跡をみつけることはまったくできない、幻の路面電車です。その姿も、京王電鉄のサイト(*2)などにわずかに残るだけです。久保田さんがおっしゃるとおり、もしいまでも可愛い電車が走っていたらさぞかし人気者になったことでしょう。

京王線高尾山口駅開業後のこんにちにおいては、改札前からケーブルカー清滝駅前に通じる歩道が一番賑わいます。ですが、本来は高尾橋が表玄関。わざわざそちらに迂回して、高尾山を登ることもあります。

明治後期から大正初期の頃と思われる絵葉書(資料①)に映る高尾橋を見ると、この当時は鉄骨造であったことがわかります。向かって左側の甲州街道から橋を渡ってすぐ右手には、大きな建物があります。開業間もないころの、琵琶屋の建物と思われます。

高尾橋を渡って右手には現在も琵琶屋がある。

琵琶屋は、現在も同じ場所に三階建ての立派な鉄筋コンクリートの建物を構えています。琵琶屋のホームページによると(*3)創業は大正3年(1914)とのことですので、絵葉書の写真はそれから数年内に撮影されたものであると推定できます。ゆったりとしている当時と比べると、現在の案内川は両側の護岸が垂直に切り立って狭く感じます。人工物がまだあまり見えず、全体的に牧歌的な雰囲気です。

そこからちょっと時をくだって、大正7年(1918)から昭和7年(1932)の間に発行されたと推定される絵葉書の写真(資料②)では、高尾橋は石造りの堅牢そうな橋に架け替えられています。現在架かっている石橋とは形状と意匠がちがうので、これまでに最低もう一回架け替えられていると思われます。橋を渡ったすぐ右には変わらず琵琶屋の建物がありますが、他にも建物が増えている様子が確認できます。この頃と同じ頃と思われる、高尾橋から表参道を写した写真があります(資料③)。様々な状況証拠に基づき、高尾山ケーブルカーが開業した昭和2年(1927)から昭和7年(1932)の間に撮影されたものと推定されます。この頃には、もうすでに現在の商店街に近い発展ぶりであったことが伺えます。

武蔵中央電気鉄道が営業していたのが、ちょうどこの頃。この場所から、ひょいっと後ろを振り返れば、そこには路面電車の停車場があったはずなのです。写真や絵図も含めてずっとさがしているものの、それがどのような姿だったのか、残念ながら何の手がかりも見つかりません。


(*1)
「あいぼりー特別号 『京王線・井の頭線 むかし物語』総集編」、京王電鉄株式会社 広報部、2003年12月9日発行、P.32
(*2)
京王電鉄株式会社HP 電車図鑑 鉄道車両の変遷 戦前期

(*3)
琵琶屋HP 琵琶屋について

(注1)
《写真ならびに絵図に関する著作権について》
表示している写真ならびに絵図は、旧著作権法(明治32年法律第39号)及び著作権法(昭和45年5月6日法律第48号)に基づき著作権が消滅していると判断し掲載しています。
掲載している写真絵葉書は、全て著者が個人で所有するものです。
本稿掲載の著作物の使用ならびに転用の一切を禁じます。
参考資料:文化庁 著作物等の保護期間の延長に関するQ&A

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