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【読んだ本の話】「ショートケーキは背中から」を読む。孤食とか一人行動の豊かさを思う。

フードエッセイスト、平野紗季子さんの新作「ショートケーキは背中から」を読みました。

これは、なんていうジャンルなの?

エッセイ?

おいしい味と、味わう体験を求めてあちこち彷徨い歩く平野さんの忘備録のような、日記のような、深い読み物のような。

五感どころか第六感的なもの、記憶として味を貯蔵したい的な野望、さまざまな思いを宿しながら世界中を旅する食日記。

平野さんの可愛い声を聞きながら、桁外れな食べ物への執着に触れられるPodcastはおすすめです。

最近聞いておりませんが…。

でも、エッセイと音声、両方を合わせて多角的に見ていくと少しずつピースが埋まり、「この人自体がやけに面白い」ことがわかります。

膝を打ちながら「わかる!」と言いたいのは孤食の話。

ご本人は「ショートケーキは背中から」の中でも、「人を誘うのって難しい」「だからひとりごはんが多い」と書いていらっしゃいますが。

ひとりごはんって、いいと思うのです。

なぜいいのか。を強烈に表現している一節がありました。

誰に気遣うこともなく、たったひとりで、味に香りに没入するとき。自分を見張る自分が消える。孤食は私に、夢中を与えてくれるのだ。

「ショートケーキは背中から」平野紗季子/新潮社p53

孤食孤食というけれども、店で食事をするという行為自体には、孤独がつけ入る余地はあまりない。当然、店の人との関わり合いがあり、料理という情報豊かなコンテンツが目の前にあり、近くには背中合わせでも他のお客さんという気配があり。

「ショートケーキは背中から」平野紗季子/新潮社p53

などなど。

私は大変共感してしまうのでした。

だって、ひとりでいる時ほど、世界とつながりやすい瞬間はないと感じます。

ひとりだと、店の内観とか、サーブしてくれた人の顔がよく見えて、その声がよく聞こえて、お皿の隅々までよく見えて、味もはっきりとわかる。マンツーマンだから。いつも自分と世界のマンツーマン体制。

でも誰かと一緒だと、その人の表情、声、会話など情報が多すぎて、「食べたけどよくわかんなかった」事態が起こってしまうような(相手との関係性にもよる?)。どんな味だったかより、何をしゃべったかの方が大事になりがち。

関係ないハンバーガーの写真

どこかへ出かける時も、ひとりだと色々なことに気がつきます。

景色や音や香りや風のことも感じられて。
そして、ひとりでウロウロすると、そこで出会う初めての人とじっくり対話することができます。

誰かと一緒にいると、同行者が第一で、世界や、その日出会う誰かのことは二の次になってしまう(私だけ?)。

平野さんはひとりでごはんに行くのが好きっぽくて、常に、マンツーマンで世界と、料理と、味と、シェフと対話を重ねてきたのかなと思うのでした。

ただ、たまに「一人だと大皿シェアできない、色々食べられなくて悔しい」「家で友達と一緒に包む餃子ってなんておいしい」など、リア充への羨望みたいなコメントが散見されますが(そんな平野さん自身めちゃくちゃキラキラして見えるけど)。

そして、その衝動、食への執着のきっかけにあるものが「高校生でのニューヨーク留学」だったことが書かれていて、とても腑に落ちました。ニューヨークといっても都市部はごく僅かで、学校があるのは超田舎。

アメリカの寮生活のご飯のまずさが、自分の食体験に幅を持たせ、それを原動力として「おいしいものを探したい、食べたい」というポジティブなエネルギーに変えていったそう。

あとはご家族のお話。子どもの頃の家族での食事の思い出。

おいしいものを味わう経験を、体験を、思い出を、留めていきたい。その思いから始まった(多分)フードエッセイが、世界を駆け抜ける食の旅を生み出し、誰かに幸せを届ける役目を果たすようになるなんて。

この本に掲載されているおいしいものの、ほとんどを味わったことがないのですが。

同じものを食べて、私がどう感じるのかを試してみたい今日この頃。

海外のファインダイニングとか、週に数回しか開かない上に予約取り置き電話をしておかねばならない東京の焼き菓子店とか、まあ、無理目なお店もいっぱいですが。

モスの紅茶を飲んだり。
コンビニのポテチを味比べしたり。
鍋焼きうどんの餅を味わったり。

そういうのは普段からできる、おいしい体験なわけです。

あとは、喫茶店を見つけたら即座に入って、紅茶とサンドイッチをオーダーして食べてみるとか?

私は、一体何を感じられるのだろう。知らない街の喫茶店でサンドイッチを食べたことで、5ページも濃密なエッセイが書けることをひたすらに尊敬するのでした。



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ライター和田知子:CLANG CLANG クランクラン
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