電子契約SaaSって結局どこがイケてるの
”印鑑不要論”は定期的に耳目を集めているが、過日政府が出した見解というのが話題になったが、実際その見解とやらをきちんと確かめた方は少ないのではないか。法務省が出した見解、Q&Aの形をとったそれの紹介分は以下のように記載されている。
今般,テレワークの推進の障害となっていると指摘されている,民間における押印慣行について,その見直しに向けた自律的な取組が進むよう,押印についてのQ&A【PDF】を作成いたしました。
内容は実際のところ何も目新しいことはなく、現行法において押印は契約を正当化たらしめる必須要件ではないー もともとそうであると改めて強調する内容だった。
なおQ&Aの項目は下記である。
問1.契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか。
問2.押印に関する民事訴訟法のルールは、どのようなものか。
問3.本人による押印がなければ、民訴法第 228 条第4項が適用
されないため、文書が真正に成立したことを証明できないこと
になるのか。
問4.文書の成立の真正が裁判上争われた場合において、文書に
押印がありさえすれば、民訴法第 228 条第4項が適用され、証
明の負担は軽減されることになるのか。
問5.認印や企業の角印についても、実印と同様、「二段の推定」
により、文書の成立の真正について証明の負担が軽減されるの
か。
問6.文書の成立の真正を証明する手段を確保するために、どの
ようなものが考えられるか。
詳しいアンサーは実際のPDFを確認してほしいが、筆者の読み取ったポイントは「形式的証拠力」と「実質的証拠力」それに「民訴法第 230 条第1項(故意又は重過失により真実に反して文書の成立を争ったときは、過料に処せられる)」そして「二段の推定」の4つだ。
文章が真正に作成されたと推定しやすいこと、文章に記載された内容がこの場合契約内容を証明するに足りうると推定しやすいこと、そしてそれらの真正さに対して根拠なく疑義を申したてるー つまり言いがかりを予防しうる罰則規定。そして印章、印影という”アイテム”に基づく真正の推定。
竹本IT政策担当大臣が発言した「しょせんは民民の話」にも通じる原則論はこれらに立脚しているところもあるはずだ。現行法において民間企業同士あるいは企業と私人において押印そのものを強制させる定めはないのだと。
Q&Aという形で見解を出しているのは奥ゆかしい配慮であって、必ずしも押印が必要ではないと初めて示したわけではないだろうというのが筆者のとらえ方だが、皆さんはどう受け取っただろうか。
様々な前提は必要になるものの「印影」があれば真正証明しやすいといのはとてもリーズナブルかつ合理的な考え方だ。毎月お金を誰かに取られることもなく、1押印の課金発生などもせず非常に明朗である。ただ、よもや押印そのものが困難になるほどの事態が起こるとはだれも予想していなかった。
電子契約に至る道のり
国内で電子署名法が整備されたのは2001年のことである。
電子署名法が平成13年(2001年)4月1日から施行され、電子署名が手書きの署名や押印と同等に通用する法的基盤が整備されました。
この時点ですでに、契約において印鑑が必須かそうでないかとは別の理屈として、認定されている方法による電子署名であればある意味「ハンコの代わり」になることは明確になっている。確かに政府からすれば民民同士の話においては、、とっくにその結論はあったといえるだろう。
ただ問題はあった、電子署名が有効であるとはいえいったいその「電子署名」とは一体どこで売っているのだろうか。そしていくらなのだろうか。以下に示すような電子署名や電子署名たらしめるタイムスタンプなどの技術的要件は理解できるが、果たして印鑑の素材は契約を締結したい人々にとってはあまり重要そうな項目には見えない。
以下に示すのは2004年から現在までの期間における「電子署名」のトレンド推移だ。上記の法律施行から遠くない年月でトレンドは上がるどころか下降の一途をたどっていた。それがどうだろうか、2020年3月から爆発的な上昇を見せている。
そして以下に示すのが同様の条件における「電子契約」のトレンド推移。こちらは筆者の予想に反して大きく跳ねてはいなかった。どうやら現時点では電子契約という”目的”を主軸にした行動よりも、電子署名という”手段”となるキーワードのほうが一般的であるようだ。
群雄割拠する電子契約SaaS
ここまではすべて前振りである。筆者が気にしているのは今まさに戦いの真っただ中であろう電子契約SaaSサービスの中で、オーガニック流入の観点からの勝ち組はどこで、いったいどれだけの差があるのかを調べてみた。使用ツールはいつものようにAhrefsを使用している。
詳しい各サービスについてはまとめサイトを参照していただきたいので省くが今回は16サービスを調査した。結果としてはクラウドサインが桁一つ飛びぬけており断トツの流入数であった。テレビCMなどの積極展開もさることながらコンテンツメディアへの力がかなり入っており、そこへの流入があると推測できる。
大量の流入があればそれで良いとはならない。しかしホリゾンタルともいえる領域のサービスとして捉えるとオーガニックトラフィックが3桁未満になってしまうと、同チャネル内最前線からは外れた形になってしまっているのではないだろうか。
ちなみに単純計算によるキーワードあたりの流入数を割り出した順位はやや変動する。「adobe sign」というアドビブランドの強さが見える。それ以外に目を引くのは「hubble 」で、そのブランドのネームの浸透とヘルプコミュニティにおいて出てくるSlackやGmail、Chromeなどより実務的なテールワードによる流入。あとTwitter上での話題になったGMOAgreeは逆にオーガニックトラフィックに頼らない拡販チャネルがやはり強そうだな、という想像をしてしまう。
いずれにしてもBtoB向けSaaSの中でもかなり熾烈な競争状態ではないだろうか。近しいカテゴリに対してプレイヤーの数が多い印象だが、これからどういった推移を見せてくれるのか。SEO的には今後電子署名やリモートワークというところだけではなく、もっと大きな流れとしてのDX、デジタルトランスフォーメーションなどが隣接した課題、キーワードとして相応しくなるだろう。また、副業や兼業などが増加することによる企業と個人との業務委託契約などがまかれる機会が増えることに対しても活躍し、SEO的なキーワードとしてもねらい目になっていくだろう。
なお上記の電子契約SaaSを調査している段階ではピックアップできなかったが、印鑑でおなじみのシャチハタでは「電子印鑑」という切り口で類似のトラフィックを獲得しており、そのトラフィックを月次およそ19,000とGMOagreeよりは多い状況であった。
既存のワークフローに”乗せていく”もの、ワークフロー自体を電子化するもの、契約行為のみを電子化するものなど実際には各サービスごとに差異はあるがその実ユーザ側からはわかりづらい点は、むしろオーガニックトラフィックを伸ばすうえでは大事な着眼点になるはずだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?