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にゃあ日記

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敬愛するマスターのロシアンブルー(元野良)の生きた証  力強く優しさに溢れ一生懸命に一途な【にゃあ】を小説にしてみました。 毎日、少しずつアップしようと思います。 駄文でお目汚…
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#小説

にゃあ日記17

にゃあ日記17

〈あのストーカーの目的はなんなのだろう〉
ストーカーなら後ろめたさから姿は簡単に見せないが、いや見せたとて卑屈さが目に余るはず。
あやつは私の帰宅をいち早く察知しては、間髪入れず顔ごと身体をすり寄せにやってくる。
実際には、衣類に多少のニャン毛がつくことも稀にはあるので用いる慣用句としてはおかしい気もするが。
抜け毛が少ないのもロシアンブルーの特徴らしい。

密度の濃い毛量から覗かせるにゃあの顔は

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にゃあ日記16

にゃあ日記16

憑き物が落ちるではないが、ガングリオンは双方にとってよからぬモノだったことは確かなようで、顎下に歪さがなくなるとマスターが身構えるほど、やたらと積極的にスキンシップを求めてきた。

 以前の様に東の畑の方角から飛んでやってくるのは、相変わらずだがマスターの足に身体を絡めて敬慕の念を示す。
「ごきげんよう!」
 それはもうマスターのことをもっとよく知りたいと努めているように見えた。

〈かわいいやな

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にゃあ日記15

にゃあ日記15

〈おひさしぶりですにゃ〉

 にゃあはどっこい生きていた。
マスターの気持ちを蔑ろにし突然姿を消した理由が消えたタマから事情が垣間見えた。

あと一つ、
あのガングリオンだと懸念したあの
悪夢のシコリも消えていて
顎先は気持ちスリムになった。
1番心配していた心配事すら消えて
マスターは安堵したことだろう。

ただ相変わらず口はうまく
閉じれないようで
マズルと呼ばれる猫の鼻口部をみると
「あぁ…

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にゃあ日記14

にゃあ日記14

ゾロ目は何か得体の知れない力
がある。

ましてや縁起が良いとされる
末広がりが二つも並ぶ

八月八日

こんな日にマスターから突然の連絡。

普段から用事がなければご様子伺いの連絡なぞ不要と言い切るマスターのアイコンに明かりが灯っていた。

それだけで胸が躍り
吉報を知らせる予感めいたものを
感じた。
予感の余韻を楽しむ時間もくれず
既読をつけずとも中身がわかる
たった一言。

ーにゃあが生きて

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にゃあ日記13

にゃあ日記13

七月

だんだんと陽射しが厳しくなり外を歩くには、日傘を絶やすことのない吸血鬼のような女が、猫が立ち寄りそうな場所を見て回る。
成果一つなく、口に出すのは憚られるもやはり脳裏には浮かぶのは
ジャレの最後。

にゃあ

にゃあの話しはしてくれるなと、
空気を介して感じ取れるようになったこの頃
こちらも努めて
ヤツの話題は口にすることは
無くなった。 

看板の灯りが灯ることのない
マスターのお店で落

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にゃあ日記12

にゃあ日記12

 六月

無糖のコーヒーの語呂合わせで
覚えていた。
六月十日は、マスターの誕生日だ。
 普段のお礼も兼ねて常連客の私からささやかながら誕生日をお祝いを申し出る。

 とは言えコロナ禍の中、営業しているお店があるわけもなくマスターのお店を借りての食事会となった。

こちらで用意した具材で鍋をすることになるが、とは言え作るのはマスターなのが恐縮だった。

話題の中心は、やはり暗雲垂れ込めるコロナ。

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にゃあ日記11

にゃあ日記11

 階段下でにゃあが佇む姿を撮影した日付は四月十五日。
 
写真フォルダのにゃあは、こちらを見てはいるようで何処か遠くを見ているよう。

 にゃあが忽然と姿を消して意気消沈する私に、今まで封じ込めが機能していたと思えたコロナは、この頃から遠慮がなくなり容赦なく生活に影を落とす。

<まさかこんなことになるとは。>
弱り目に祟り目
感染者が増えるとともに、街から人が消え電気が消え外に怪物
でも徘徊して

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にゃあ日記10

にゃあ日記10

 欧米では聖書ダコと呼ばれるガングリオン。
あの顎の違和感の忌まわしい記憶、それを懺悔という形で話してくれた。

 ジャレは亡くなったが、それでも残された生けるものは成長し
少女は大人になった。

結婚し自分の店を持ち娘を産み紆余曲折あり途中、
愛娘に押し切られハムスターを飼育したことはあるものの、
いつかのジャレが思い起こされ何かを飼ってみたいとなど
つゆほどにも思うことはなかった。
ましてや猫

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にゃあ日記9

にゃあ日記9

 ジャレは十中八九、給食センターの残飯を求めてやってきた野良が飼い主不在の合間をねらって春の繁殖期、やるだけやって産まれた猫に違いないと言う。

ジャレと同じ模様の猫が、公園にたくさんいたからというのが理由らしい。

おそらくそうだと私も思った。

 不幸の連鎖を予防するため、
今なら避妊手術となるのだろうが、ジャレは動物病院を知る事なく血気盛んな猫へ成長する。

 一方、容姿を気にしてりんごダイ

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にゃあ日記6

にゃあ日記6

 好意の施しには見向きもしないが、それでも変わらずにゃあは
顔を見せに来た。

 気がつけばマスターのコンパクトカーの排気音やヒールの足音、カバンからとり出す鍵の音など個人を特定する音を把握したようで大きな耳は、伊達でないということを知らしめた。

 マスターの自宅の鍵は、
金属の蝶の形の輪っかに全ての鍵が束ねられていて鉄琴のように音を奏でる。
私が開店時間より先にマスターのお店の前で待っていた時

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にゃあ日記8

にゃあ日記8

昭和

猫は自宅と屋外を自由に往来したとて誰も気にもとめない時代。
ジャレと過ごした少女時代、
自宅の側には春には花見客で賑わう大きな公園があった。

 公園の中心には、戦没者を祀る大きな忠霊塔があって塔を中心に展望台や立派な遊具にあずまやとおよそ公園に必要とされる設備は全て整っているので季節を問わず喧騒が絶えないところだった。

人がたくさん来るということは、よからぬ輩も集まるものでそれは人間に

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にゃあ日記7

にゃあ日記7

 臆病だけど逞しいにゃあの顔に変化が見てとれた。
 心情的な変化が顔に出てきて丸くなったみたいな事ではなく
文字通り顔のフォルムそのものが変わった。

 にゃあのアゴ下に大きなしこり
があると云う。

 たまになら少しだけ触らせてくれる関係に発展しスマホでの写真撮影も許してくれたこともあり、
マスターのお店でお酒を嗜む私に
にゃあの近状を画像を交えて話してくれた。

 ずっと以前、見せてもらった

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にゃあ日記5

にゃあ日記5

 好意のカリカリをギロりと一瞥すると匂いを嗅ぐこともなく二階共有廊下から足速に去って行った。

「にゃあ…」

 <商品のイメージキャラクターがロシアンブルーだから喜んでくれる。>

そんな意味不明の思惑は通じることもなくにゃあが立ち去った場所で1人立ち尽くす。

パッケージに転写されたモデルのロシアンブルーは瞳の色がブルー、グリーンアイズのにゃあはヘソを曲げたのかもしれない。

 この一連の出来

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にゃあ日記4

にゃあ日記4

 実際、対峙する距離が短くになるにつれ愛情や愛着も芽生え、
マスターは猫だから

【にゃあ】
と自然に呼び始めた。

「にゃあちゃーん」
チッチッチッ…

 その頃時を同じくして、
たまたま猫を飼ってみたいと口にしていた常連客の私に、定期的に顔を見せに来る謎のロシアンブルーを酒のツマミとして頂くことになる。

 気付けば私も
【にゃあ】
と呼んでいた。

「今日もにゃあ現れたか?」

「最近は玄関

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