にゃあ日記4
実際、対峙する距離が短くになるにつれ愛情や愛着も芽生え、
マスターは猫だから
【にゃあ】
と自然に呼び始めた。
「にゃあちゃーん」
チッチッチッ…
その頃時を同じくして、
たまたま猫を飼ってみたいと口にしていた常連客の私に、定期的に顔を見せに来る謎のロシアンブルーを酒のツマミとして頂くことになる。
気付けば私も
【にゃあ】
と呼んでいた。
「今日もにゃあ現れたか?」
「最近は玄関前で鼻先くらいなら軽く触らしてくれるんよ。他の人間の気配やら生活音がしたらすぐ走って逃げるけど」
当初は一週間と姿を見せないこともあったのに、今では毎日のように姿を現すと嬉しそうにマスターは報告してくれる。
にゃあは痩せてはいるが、骨格が立派で敵がいない時の佇まいは堂々としている。
尻尾は驚くほど長く、ピンと真っすぐ立っていてグレーの単一色がそう思わせるのかぱっとみは怖い。
写真を見た第一感想は、だいたいこんな感じだった。
マスターも第一印象は、いかつい猫だと思ったらしいが短毛で目立つからどうしてもシンボルに目が行きがちで、プリプリしたぶら下がるモノを見ていると顔とのギャップで可笑しいとマスターは笑う。
手の届く位置でマジマジと観察できる間柄になると、にゃあはどうやら口をきちんと閉じることができないようでいつも半開きの口から白い牙が見え隠れしていた。
個性的な顔立ちではあるが、
角度によっては滑稽な顔も黄緑色の瞳は美しく、鼻筋の通ったにゃあはやはり丹精で紛うことなきロシアンブルーの風格を感じさせる。
ただ他のノラと同じようにあいも変わらず外で生活しているようで首輪をしていないことが気がかりだった。
異質な存在のにゃあは、公園を縄張りとする数匹の野良グループに近寄ることもなくいつも単独行動。
にゃあは孤高の存在だった。
にゃあの境遇や特別に私だけにみせてくれる小さな好意を感じるにつれマスターも孤軍奮闘するオス猫に魅了されていったのだろう。
程なくしていつも独りのにゃあが気がかりでダメなことは重々承知の上で餌のカリカリを用意した。
「ご飯食べるう?にゃあ」
小分け包装されたシーバのキャットフードを一粒手に取ってにゃあに見せてみた。
しかしにゃあは期待とは裏腹、カリカリに関心を持たず逆に警戒心を強める結果となった。
〈僕いらないです!〉
5へつづく