にゃあ日記12
六月
無糖のコーヒーの語呂合わせで
覚えていた。
六月十日は、マスターの誕生日だ。
普段のお礼も兼ねて常連客の私からささやかながら誕生日をお祝いを申し出る。
とは言えコロナ禍の中、営業しているお店があるわけもなくマスターのお店を借りての食事会となった。
こちらで用意した具材で鍋をすることになるが、とは言え作るのはマスターなのが恐縮だった。
話題の中心は、やはり暗雲垂れ込めるコロナ。
「そうそう、こないだ給付金がやっと振り込まれたわ。ほんと助かった。」
それはよかった!
と私も胸を撫で下ろし箸も進むが〆のおじやにいきつく前に、話題は
消えたにゃあにシフトした。
「今日も畑やら普段行かへん公園も探してるねんけど居らんわ。
警戒心が強い子やから車に轢かれるような心配はしてないけど。」
「あの子、ビビりんちょやから
なんか怖い目にあんったのかもなぁ」
心配すると三人称が
あの子になるらしい。
自分のことで精一杯でもおかしくないのに、出てくる言葉は消えた
にゃあのことばかり。
マスターがあの子を思う気持ちに
胸が熱くなる。
誕生日の祝賀ムードを気持ちの雲が覆い尽くす前に、食事会は
早めのおひらきとなった。
いつもなら明朝5時までの営業で
本来なら夜はこれから。
きっちり5時まで勤め上げ、
疲れて店で仮眠をとって帰宅しても鍵束を手に階段を登ればにゃあが
現れたことを懐かしんだ。
〈ただいま〉にゃー
誕生日の今宵も二階の窓から見えるのは月の光だけ。
〈にゃあは、私の誕生日興味ないんかなあ〉
月のような目を持つにゃあは
夢にも現れず…
七月を迎える。
13へつづく
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