救急病院 妻が死にました。(2)

※だんだんと前向きになれている今、同じ自死遺族の方々に読んでいただきたいと思いnoteを始めます。死にまつわる表現がでてきますので、ココロがきつい時はムリをせず。

救急病院

気がつけば家の中は到着した救急隊で騒然としていた。いつの間に救急通報したのか憶えていない。ぼくを妻から引きはがした救急隊員が、ストレッチャーの上に乗せられた妻に力強く心臓マッサージを施していく。無線ががなり声をあげているけれど、ぼくの頭の中では意味を形作れなかった。あわただしく救急車に連れていかれるストレッチャーを追い、ぼくは帰宅した格好そのままで救急車に飛び乗ったんだ

病院から帰宅してわかったのだが、小学2年生の頃からお風呂と寝るとき以外離したことがなかったメガネが、リビングのテーブルの下に転がっていた。メガネがなくても何とかなるのか。そんなことを感じた、ような気がする。

救急車で運ばれた病院の一室で、妻はかわるがわる大勢の医師、看護師に診てもらっていた。ぼくはもう声をかけ続けることしかできない。妻が大きくせき込みながら意識を取り戻す。そんな都合のいい展開は映画の中の話で、現実には起きなかった。それでも、そんなシーンを願わずにはいられなかった。

どのくらい時間がたったのか。心臓マッサージを施してくれていた救急隊員、看護師はもう何人も交代していた。若い女性医師がぼくの名前を呼び、これ以上の心臓マッサージは意味がない、というような事を伝えてきた。

意味がない?意味がわからない。確実に聞こえている言葉が、意味を成さない。全身が震え、視界がぼやける。それでも医師はぼくに現実を伝えるのを諦めなかった。

もう心停止してからかなりの時間が経っています。脳に酸素が回っていない状態が長く続き、仮に心臓が動いたとしても脳死の状態は免れません。残念ですが、これ以上の措置は取れない状況です。

何も答えられないぼくの目をみつめた後、視線を腕時計に落としたその女性医師は、短く死亡時刻を宣言し、深く頭を下げてくれた。汗だくの看護師が女性医師にならい、処置室を出ていった。あれだけ激しく心臓マッサージを繰り返されていたのに、妻の顔はどこか穏やかだった。ぼくは妻の手を固く握ったまま、視界がどんどん暗くなっていくのを感じていた。

処置室に一人残されたぼくは、妻の顔を見ながら手を握っていた。冷たい手だった。なんでこんなに冷たいのか。目を開かない妻に話しかけられなかった。何を話せばいいのか、わからなかった。妻の顔は穏やかで綺麗だった。

ドラマや映画での話は全くあてにならない。人は、本当に、いつどの瞬間でも、いなくなってしまう可能性がある。身近な人、愛する人ほど、そんなことが起こるなんて思わない。心臓マッサージをしてくれている間、いつ妻が息をふき返すのか。ごほっっと大きな咳をして上半身をはねあげ、しばらくせき込んだ後、あれ、ここはどこなの?なんて聞いてきて。良かった、助かったよ!なんて泣きながら抱きしめて。

現実はドラマとは違う。そんな事は起こらなかった。

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