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絵本を編集したことのないふたりが、愛だけで本を作ってみた話【shimizuさん×担当編集者】
小説の編集者が絵本を担当してはいけないのか?
編集者といっても会社員なので、所属する部署(編集部)があります。基本的にジャンルやレーベルごとに編集部がわかれており、ほかのことをやってはいけないということではないのですが、現実的になかなか提案することができなかったりします。
私は普段、児童文庫(キミノベル)の編集をしています。でも、せっかくポプラ社にいるのなら、絵本も担当してみたい……という欲が出てしまい。
申し遅れましたが、簡単な自己紹介です👇
松田拓也
新卒で入社した出版社で文芸書を約80冊担当。19年にポプラ社に転職。児童文庫レーベル・キミノベルの立ち上げに参加。ポプラ社では、キミノベルを中心に30冊ほど担当。
ツイッターで「この人の絵、好きだなあ」とただ眺めていた人がいました。でも「僕は小説の編集者だからなあ」といつものように思って終わり。そしたら、別部署の後輩の水野くんが声をかけてくれました。
「何かおもしろいことを一緒にやりません?」と。
水野廉
2018年入社。宣伝部を経て、現在は映像化・商品化などのライセンス業務や新規キャラクター開発を行うIP事業グループに所属。
彼は主に新規IP開発を担っている部署に所属しています。なので、本来はがっつり本を編集するという立場ではありません。ただ、なにか新しいことをしたくてうずうずしている者同士がアイディアを出しあってチャレンジしてみたら、何か面白いこと起こるかもしれない、と言ってくれたのです。そっか、別に縛られなくてもいいんだ。
そう思うことができて、生まれたのが――。
shimizuさん作、『まねまねどうぶつ』です!
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「そうなるの!?」が止まらない!SNSで話題の著者による、発想型絵本!
2021年8月末に発売され、即重版! 注目の絵本はどのようにしてできたのか。絵本の編集をまったくしたことのないふたりが、shimizuさんとの本づくりを紐解きます。
『まねまねどうぶつ』ができるまで
松田 とういわけで、本日は『まねまねどうぶつ』をご執筆いただいたshimizuさんと担当編集二人で鼎談! ……になる予定だったのですが、のっぴきならない事情で水野くんが欠席ということで、僕との対談になってしまいました(汗)。
shimizu こればっかりはしょうがないですね。
◉shimizu
静岡県出身。イラストレーター、絵本作家。ひとくせあるイラストで、広告のデザインやグッズ展開など多岐にわたって活動中。
Twitter:@shiroiinu432
松田 shimizuさんといえば、ツイッターで発表されているイラストが評判ですが、絵本の執筆依頼が届いたとき、どう思われましたか?
かくれねこ pic.twitter.com/pkNcDTN87z
— shimizu (@shiroiinu432) August 15, 2022
shimizu 僕、絵本が一番やりたかったことなんですよ。
松田 ほんとですか!? それはよかった。ずっとそういう気持ちはありましたか?
shimizu そうですね、やっぱり本という形になるのが好きなので。ネットは流れていっちゃうので、紙として残るといいですよね。
松田 最初お会いした時も、いろんな絵本を読まれてるんだなという印象を受けました。
shimizu はい。小さい頃から好きでした。まさにポプラ社さんのゾロリは内容を覚えるくらい読んでいて、水野さんがゾロリの宣伝を担当されているというお話を聞いてテンションが上がりました(笑)。あともっと小さい頃はバムとケロがお気に入りで、繰り返し見ていた記憶があります。
松田 そのお話をお聞きして、「ただ自分の作品を本にしたいってだけじゃなくって、絵本そのものに対する愛がある人なんだ」って思いました。この方となら、おもしろいものが作れそうって。
shimizu そう思ってもらえたなら、よかったです! さっきも言いましたが、絵本は残るのがいいですよね。今の読者だけじゃなく、未来の人にも届く可能性があるので。誰かに手紙を書くみたいな感じかもしれません。
松田 実際、水野くんといっしょに担当させていただくことになると、もう次から次へとアイディアを出してくださって。
shimizu 量で勝負しました(笑)
松田 いやいやいや! ほんとすごいなって思いました。ひとつひとつがラフのレベルじゃなかったじゃないですか。似たテーマの本があったためお蔵入りしてしまいましたけど、ボツ案もすごく好きでした。
shimizu なんで『まねまねどうぶつ』に落ち着いたんでしたっけ?(笑)
松田 たぶんshimizuさんがツイッターに上げてらっしゃるような動物の探し絵を、それぞれの動物に分解して、順番を逆にしたら面白いのでは? と、水野くんから提案させていただいたのがきっかけですかね?
shimizu そうでした! おもちゃとかカードみたいな感じでも面白いのでは、って最初提案してもらったんですよね。で、それを「ものまね大会」として落とし込もうとしたんですけど、ちょっと上手くいかなくて……(笑)。もっとそぎ落として、ラフを仕上げていきました。
松田 そうでしたね。最初は、それぞれのものまねに対し、審査員が点数をつけるという案があり、今より要素がもりもりの予定でした。その辺をそぎ落として。
shimizu そぎ落としたなんて、物は言いようですが(笑)。めちゃめちゃシンプルになりましたね。
松田 でもこのシンプルさが楽しいし、子どもに伝わりやすくなったかなと思います。ただ、シンプルさゆえ、見せ方が難しく、そこからどうブラッシュアップするか、ぶつかることも多かったですよね。ぜひ今日はそのあたりを腹割って話せたらと……(笑)
shimizu 今日、水野さんにいてほしかったですね。ぶつかった話をいないところでするのは、あんまりよくないですよ(笑)。
松田 そうなんですが……(笑)。でも、shimizuさんだからこそ言いたいってところは二人ともあったと思います。というか、二人だからこそ言えたのかもしれません。なんというか、そもそもの完成度が高いからこそ、「もうちょっとこうすればもっとよくなる!」っていう……。
shimizu その……完璧を目指したいってことですよね?(笑)
松田 それに絶対、応えてくださるだろうっていう信頼感があったので!
――完璧な本を目指すためには様々な議論がありました。それは今思うと、作家と編集者がお互いの本気の想いをぶつけ合う、必要不可欠なバトルだったのではないか、と。ここで、そのバトルの数々を振り返ってみることに。
作家×編集者のバトルぼっ発!?
【ラウンド1】2段階ものまねを見せて!
松田 『まねまねどうぶつ』は、どうぶつたちが何かのものまねをする構成になっていますが、もう一段階別のものまねをしているところを見たいというリクエストもさせていただきましたよね。最強に思えたフリーザも「まだ変身を残してる」なんて言い出すから、みんなびっくりするんだと(笑)。最初は難しいと言われたのですが、どうにかやってみてほしくて、お呼び立てしてみんなでアイディアを出しあいました。
shimizu あんなふうに追い詰められるとは(笑)。でも、そうすることで、アイディアが出る場合もあるんですね。たぶん言われなければできなかったと思います。
松田 みんなで好き勝手言わせていただき……。最終的に、くまとへびがホットケーキになった後、ソフトクリームになれるのでは!? ってアイディアが自然と生まれました。そしたら、ほんとうにできるかどうか、その場で描いてくださいまいしたよね。
shimizu 家に帰ったらやらないと思ったので(笑)。これ、僕もすごい気に入ってますね。
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松田 うん、すごいかわいいです。
shimizu 入れてよかったですね。なんで最初に難色を示したかというと、めくった時に気持ちいい動きにしたかったんですよね。本とはいえ、動画的な感覚で読めるようにしたいと思ってたので。パラパラ漫画みたいな。一匹一匹がどう動いてるか、ペラペラしながら見てもらえたら楽しいかなって思ってたので、それを2段階にするってのが難しいなと思って。
松田 なるほど。でも、くまとへびがホットケーキからソフトクリームになる瞬間、このバターが飛ぶ感じとかすごく映像的ですよね。「あ、こう変わって飛んだんだな」ってなります。
shimizu はい、2段階でも「こう動いてるのかな」って想像してもらえるものにできたので、達成感がありました!
松田 ほかにもピザは映像的な感じがします。
shimizu ピザが一番その動きが想像しやすいですね。
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松田 ね。キリンが首を曲げて、犬がぺってくっついたって感じが(笑)
shimizu そうそう、ダイレクトにきますね(笑)
【ラウンド2】最初に出てきたやつを後でもう一回出して!
松田 ワンアイディアで進めると、一つ一つのアイディアがいくら面白くても、どうしても変化がほしくなってしまって……。ページ数も厚めなので、最初に出てきたやつが、後でも出てくる展開をお願いしました。
shimizu ちょっとどうしようかなって思ったんですけど(笑)。
松田 これもなかなか難産でしたよね……。
shimizu 無理だと思ってました(笑)。でも、最初の車があとに出てくるシチュエーションを思いついたら、意外と自然と描けました。
松田 これがあることで「あれ? 違うパターン来たぞ」っていう裏切りがあって楽しいです。それはそうと、このひょっこりしてる車が可愛いくて。
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shimizu 「いったいどういう原理で動いてるんだろう」っていうタイヤがいいですよね。自分の本なのに読み返すと、ツッコミどころが多いんですよ(笑)
松田 このペンギン回ってないですもんね。
shimizu そう!(笑) このペンギンが回転してればまだわかるんですけど、回転してないから……。
松田 よく見たら、足がちょこちょこって走ってるとか(笑)
shimizu そういうことなんですかね(笑)。ちょっと原理は謎なんですけど、この車気に入ってますね。
松田 でも逆に難易度の高さが、意外とツッコめる部分になってるのかなと思います。そこはshimizuさんのセンスですよね。
shimizu 穴というか、変な部分が面白いっていうのはありますね。読んでくれた人から「そうはならんだろ」みたいなツッコミがありました(笑)
松田 それも面白さのひとつになっていると思います!
【ラウンド3】カバー案、再考お願いします!
松田 一番紛糾したのはカバーじゃないでしょうか。
shimizu そうですね……(笑)
松田 最初shimizuさんからいただいていたのは、くまとペンギンが車のものまねをして、走っているイラストでした。それはそれで我々も気に入っていたのですが、デザイナーさんから中の絵を使ったいろんな案が出た時に、「にんじんがいい!」って思ったんですよね。「たぶんshimizuさんもいいって言うよ!」って、スケジュールも迫っていたので、その日のうちにご自宅近くに伺ってお見せしたら、shimizuさんの表情がすごい曇って。「これはヤバい!」と思って……(笑)
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shimizu そんなに曇ってないですよ!(笑) でも、けっこう前の案も気に入ってたんで、戸惑っちゃいました。大幅な変更だったので。一回、頭を整理しないとって思いましたね。「自分の中ではこれ!」っていう気持ちでカバーイラストを描いてたんで、こんなに変わっちゃって大丈夫なのかなっていう、心配もあったんですよね。
松田 段取りが悪かったな、と反省しています……。でも、デザイナーさんからあがってきたのを見て、ふたりして改めて気づいたところがあったんです。この絵本の面白さは、どうぶつたちが頑張ってものまねしているところにあるんだって。ちょっと可笑しかったり、かわいかったり。車のイラストは、けっこう力業なところが面白いのですが、カバーで見せるなら、どうぶつたちがものまねしてるってことがわかりやすい絵のほうが絶対いいと思って。それで、微妙な空気に……(笑)
shimizu 僕は自分の案がいいと思っていたし、お互いこだわってるからこそぶつかったんだと思うんです。言われたことに対して、そのまんま「まあそれでいっか」って首を縦に振ってないですもん、一回も。いい意味で。だから、摩擦があったのかなと。
松田 そうですね。でも、いい摩擦でしたよね。
shimizu すごくいい摩擦でした。それがあったからこそ、一度考え直して、お二人が言ってる意味も咀嚼できたし、結果、めちゃくちゃ納得した仕上がりになりました!
松田 よかった……。でもそれは、あの後にこちらが持っていった案をそのまま受け入れるのではなく、「その方向でいくならこういうのは?」とshimizuさんが再提案してくださったのが大きいと思います。にんじんも、新たに描きおろしてくださって。このにんじんがめちゃくちゃいいんですよね。こういう「打ち返し」の瞬間が編集者冥利に尽きるというか。好き勝手申し上げて、どう思われるか本当はこわいんですけど……(笑)。ただ、この本の面白さである「どうぶつたちが必死にまねしてる」ってことが一発で伝わるカバーになったと思っています。
shimizu ほんとですね。帯にものまねする前のどうぶつを載せるっていうのも、あんまり自分のアイデアになかったので、すごいデザインに感謝してます。
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松田 ありがとうございます。帯のキャッチも「がったい」にするか「へんしん」にするかで悩んで……結局「がったい」にしたんです。「へんしん」はわかりやすいけど、水野くんと「厳密には変身じゃないしなあ、合体だよねこれは」って。
shimizu まねまねどうぶつのラストはまさに合体ロボみたいな面白さがあると思ってるんですよ。効果音つけるなら「ガシャン」みたいな(笑)
松田 確かに! 合体は男の子のテンション爆上がりしますよ(笑)
shimizu ですよね。だから可愛い絵本だけど、意外と男の子も見てもらえるかもって思います。
描かれていないストーリーを考えてほしい
松田 様々なバトルを振り返って、本当に一冊の絵本ができるまでいろいろありましたよね。って、こんな書き方してますが、本当は三人男子校的なノリで和気あいあいとやってますが(笑)、最後に! どういう子に読んでほしいですか?
shimizu 親子で読んでほしいですね。小さい子に読み聞かせながら、大人もちょっと「あ、そんな展開!?」みたい驚きながら読んでもらえたら嬉しいです。
松田 うちの編集部の大人でも、けっこう何になるかわかってなかったです(笑)。
shimizu 一回目は普通にクイズとして読めると思います。
松田 二回目はこのキャラたちに愛着を持って、どのコンビが推しかっていうのを考えていただいて。僕はもう最初っから、あざらし&さかなに心を奪われていましたが(笑)。可愛い。
shimizu どうぶつたちのオフの姿を想像すると楽しいかもしれないですね。このあと打ち上げとか行ってんのかなみたいな(笑)
松田 「今度、俺とコンビ組まない? 俺たちだったら〇〇になれると思うんだよね」みたいな駆け引きをしてるかもしれない。
shimizu 逆に「え、俺たちでピザできるんじゃない?」みたいな出会いがあったのかなとか、想像しちゃう……(笑)
松田 たしかに、このキリンと犬は運命ですよね、サイズ感といい。
shimizu 出会ってしまった感がありますよね(笑)
松田 ほんといろんな楽しみ方ができる1冊になりましたね! たくさん読んでもらえますように。今度は水野くんも呼んで語りましょう!(笑)
shimizu そうしましょう!(笑)
編集者は作家さんと1対1で本を作ることがほとんどです。今作は、ふたりで、しかも絵本の編集者でない者同士で作るということで、とても刺激的な時間を過ごせました。
今回、絵本の発売と同時に自社オンラインショップにて、グッズの同時発売も新たな試みとして行われました。部署間を横断したからこそ生まれた、新たなチャレンジです。ぜひチェックしてみてください。
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