見出し画像

有ることを喜び、無いことを喜ぶ。『少女ポリアンナ』読書感想

(A)はじめに:最も好きな小説の一つ。

本書は別記事で紹介している『モモ』とあわせ、最も好きな小説の一つだ。

作品自体を初めて読んだのは大学生の時だが、好きになる素地はもっと昔からあったのではないかと思う。
子供のころにプレイし、今でも大好きなゲームの一つ、「MOTHER」のBGMである「Pollyanna」は、本書の主人公の名前が由来である。

本書自体は大学の授業で知ったと記憶しているが、大好きなゲーム作品との意外な繋がりにとても興奮したことを覚えている。(その後作品も気に入ったことから、ゲームやネット上で使うハンドルネームは「pollyanna」を文字らせてもらっている)

(B)あらすじ

本書の主人公は、幼いころに母親を失い、また父親をも失ってしまった11歳の少女ポリアンナ。それまで親交の全くなかった叔母のミス・ポリーに引き取られることになるが、このミス・ポリーが気難しいことで有名な方である。ポリアンナを引き取ることも、常識人の義務として嫌々受け入れていた。

一方のポリアンナは、生前に父とやっていた、どんなことにも嬉しいことを見つける「嬉しい探しゲーム」を、新たな生活の中でも続けていく。「嬉しい探しゲーム」は、対象が辛いことであればあるほど成功させたときの達成感が大きい。初めてのゲームでは、人形が欲しかったにも関わらず、婦人会の慈善箱に松葉杖が入っていたことを喜ぶ、といった内容だ。一見荒唐無稽に思えるが、ポリアンナはどんなことにでも嬉しいと思えることを見つけていく。

ポリアンナは移住以降、街中の人と交流をしていく。中にはミス・ポリーに引けを取らない気難しい住人も多くいるが、持ち前の明るさと得意の「嬉しい探しゲーム」で、彼らの荒んだ心を少しづつ変えていくのだった。

物語の終盤ではポリアンナに不幸な出来事が訪れる。
流石のポリアンナでも容易に立ち直ることが出来なかったが、そんな事態を前に、ポリアンナが街中に与えていたものがどれほど素晴らしいものだったのか、ミス・ポリーは知ることとなる…

本書はとにかく心温まるヒューマンドラマである。
児童文学として子供が読むのはもちろん、言葉回しもウィットに富んだものが多いので、大人が読んでも楽しめる作品になっている。むしろ大人が読むことで、自分の心から失われていたものに改めて触れ、感動することが出来るのではないかと思う。

(C)感想:まっすぐな少女と「嬉しい探しゲーム」

本書を魅力的にしているのは、何といってもポリアンナと「嬉しい探しゲーム」だ。この「嬉しい探しゲーム」は、どんな辛いことにも半ば強引ともいえる発想の転換で、嬉しいと思える点を見つけるので、初めは作中の登場人物と同じように、納得するのに時間がかかるだろう。また、このゲームが過度に楽天的だという意味から、現実逃避や過度な楽天主義を意味する「ポリアンナ症候群」という言葉まで生んでしまっているほどだ。
しかし、こういった批判は、ポリアンナの一側面しかとらえていないのではないかと感じる。というのも、ポリアンナは決して過度な楽天主義ではないと思うからだ。
ポリアンナはこれまでにもいくつか辛い経験をしてきているが、それらをとにかく嬉しいことと捉えるようなことはしていない。むしろ、周囲や宗教的な考え方に基づいてポジティブ捉えるよう諭す周囲に対して、「何故これを嬉しいことだと思うのか」と自分の意見を持っているシーンも多く描かれている。また、辛いことの種類によっては、嬉しいことだと考えるのは良くないこともあるといい、分別をわきまえるシーンもある。
つまりポリアンナは、辛いことから決して目を背けず、他の人と同じように落ち込み、涙を流しているのだ。
では「嬉しい探しゲーム」とは一体どんなゲームなのか。それは「辛い事にばかり目を向けることで、今ある幸せを見過ごしてしまうことを避ける」ゲームだと言える。嬉しい探しゲームの応援者となったミセス・スノウは、嬉しい探しゲームをするまでは、「…ないものを願うことばかりに忙しくて、ものごとをありのままに楽しむ暇がなかったのだ」。我々も辛い現実に直面した時、そのことばかりに目が行ってしまい、日常のありふれた幸せを忘れてしまうことはないだろうか。「嬉しい探しゲーム」は、辛い出来事があるときこそ、当たり前の幸せに改めて気づくことが出来るゲームである。

(D)素敵な一節

「うわあ。会えて、嬉しい、嬉しい、嬉しいわ!」

ポリアンナが本文中で初めて嬉しがっているシーン。
嬉しく思うというのは、それだけで周りも幸せにする。

「生きてる、っていうのは、したいことをすることなの」

言われたことをただ漫然と行っている時間や、何もせずただ息をしている時間は、生きているとは言えない。皆さんは生きている時間はありますか。

「美しく、あきらめない、人の手本になれる性格は周囲への影響力が大きく、場合によってはひとつの街をまるごと変革できる…」

牧師が読んでいるマタイによる福音書の一節。
正にポリアンナを示しており、後に起こる一大ムーブメントを予告しているといえる。

(E)まとめ:有ることを喜び、無いことを喜ぶ。

有ることを喜び、無いことを喜ぶ「嬉しい探しゲーム」を通じて、知らず知らずの内に街を変革していく少女ポリアンナ。
彼女の年相応のあどけなさと、大人顔負けの前向きさに、きっと生きる元気をもらえることだろう。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?