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現代アート研究

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現代アートを学び始めた外資系IT企業のプリセールス。 難解な現代アートを探求する学びの記録。
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#ピエール・ユイグ

Pierre Huyghe Liminal

5月のはじめ、ピエール・ユイグ(Pierre・Huyghe)の大規模な個展「Liminal」をベネチアのPunta della Doganaで見てきた。ここでは展覧会を見たメモを残しておきたい。 ピエール・ユイグは展覧会の開始にあたって、そこが始まりと言う。多くのアーティストは作品制作を終えてから展覧会の初日を迎えるが、自分はそうではないという。 つまり、ピエール・ユイグの作品は展覧会が始まったタイミングで固定されているものではなく、会期中にも変化していく、どのタイミング

“Variants” by Pierre Huyghe

トップアーティストを研究することは、現代アートの理解と楽しみを得ることに非常に役に立っている。研究は、作品やアーティストへのインタビューをはじめとして、様々なメディアに掲載された批評や論文、大きな受賞とその理由とコメント等々をソースとして、深く深く潜り、自分の解釈と解釈のための勉強(哲学、科学技術など)から整理してまとめていく。そして自分の言いたいことに辿り着く。ようやく修士論文を書き上げたが、気が付いてみると、それが自分のアートを見るまなざしと思考の基準になった。 現代ア

ピエール・ユイグ 《Cerro Indio Muerto》(2016)

ピエール・ユイグの《Cerro Indio Muerto》(2016)という作品は、写真であり、縦は70cmほど、横は1mくらいであり、画面のほとんどは砂漠の地面であり、遠くに三角形の山あるいは丘が見える。画面手前の左寄りにうつ伏せになった骸骨が横たわる。砂漠といっても、石の多い場所であり、骸骨の頭蓋骨と同じくらいの大きさの石がそこかしこにある。砂漠の中には水が流れたような痕跡があり、あるいは道だったのだろうか。砂埃が立つ様子は、ここが乾燥している大地であることが想像される。

考え続けるために、アートを学んだ 続き

前回からの続き 当たり前のことを当たり前と捉える。疑問に思わない。そこに疑いの眼を差し込む。洗練されたアートには、そうしたことが組み込まれている。 ビジネス界隈で語られている教訓に”茹でガエルの法則”という言葉があります。カエルはいきなり熱い湯に放り込んだら異変に気が付いて逃げ出すが、水の温度を徐々に上げていくと危険な温度になっているにも関わらず、気が付かずに茹って死んでしまうということ。外部環境が変化しているにも関わらず、その変化に気が付けず、市場から退場することになる

考え続けるために、アートを学んだ

アートとは趣味であり、教養であり、生きる原動力であり、ビジネスである。 昨今の社会、経済情勢は、不連続の様相を呈しています。そうした予測不可能な時代にあって、現代アートを体験することが、将来を見通す助けになると考えます。私は社会人になってから30年近く、プログラマとして小さなソフトウェア会社でキャリアをスタートし、コンサルティング・ファームを経て、大手ソフトウェア企業に勤務しています。職種は色々と変わってきましたが企業の困りごとをITを使って解決するという仕事内容に一貫して

《Celebration Park》考察メモ

ピエール・ユイグの《Celebration Park》(2006) は、改修工事のために2年以上閉鎖されていたパリ市立近代美術館(ARC/Musée d'Art Moderne de la Ville de Paris)のリニューアルオープンの幕開けとなった。 ユイグは、1995年にディジョンのル・コンソーシアムで開催された「モラル・メイズ」に参加して以来、展覧会の形式や時間的な枠組みについて実験を行ってきた。自由な時間という概念によって、彼はプロジェクトを「シナリオの制作

Nicolas Bourriaud『The reversibility of the real Pierre Huyghe』読書メモ

ニコラ・ブリオーといえば、リクリット・ティラヴァニャを連想するけれど、ピエール・ユイグについてもいろいろとテキストを書いている。これはTateで見つけたテキスト。タイトルを訳すと”ピエール・ユイグの本質の裏返し”が、適切だろうか。 ユイグの作品は時間の経過を使い、認識と記憶とをハックするかのような作品であり、白昼夢を見せているような、そんな不思議な感覚がある。 The French art critic Nicholas Bourriaud examines the wa

屋上庭園コミッション

屋上に庭園を出現させる『The Roof Garden Commission』。 イムラン・クレシ(Imran Qureshi)、ダン・グラハム(Dan Graham)に続き、ピエール・ユイグはニューヨークのメトロポリタン美術館からサイト・スペシフィックな屋上シリーズの委嘱を受けた。 まるで鉱山のようにメトロポリタン美術館の屋根でユイグは瓦の一部を「発掘」し、その下にある歴史の痕跡を明らかにするために剥がした。屋上の下、つまり展示室には5,000年以上にわたる人類の創造的

オペラハウスの森《A Forest of Lines》

英語さえ乗り越えれば、世界には、いろいろな情報が溢れている。社会人向け大学院の現代アート研究、修士論文でピエール・ユイグについて書こうと考えたとき、日本語の資料は『岡山芸術交流』に関連した美術手帖の記事くらいしかなかった。ところが、英語の先行研究は山のようにあり、早々に情報収集を英語で行うことに切り替えた。本職は外資系ソフトウェア企業、そこで情報を得るのは英語のため、英語のWebクローリングは、それほど苦にはならなかった。そして、ユイグは結構インタビューに答えていることが分か

ニューヨークタイムズ『Conceptual Anarchy』の読書メモ

ニューヨーク・タイムズのピエール・ユイグに関する記事、2014年の記事で、Randy Kennedyによるもの。記事にはスタジオの様子を撮影した写真などもあり、読みごたえがある。 ユイグのスタジオの風景描写から始まるテキスト、パリのスタジオは白い机とコンピュータが数台、キッチンにはエスプレッソ・マシンが設置されていて、壁には進行中プロジェクトのリサーチ資料が張り付けられている。作品制作の際のリサーチは深く、リサーチャーを何人か雇っている。アーティストというよりも、研究者のよ

George Baker, An Interview with Pierre Huyghe, October Vol. 110, Autumn, 2004 読書メモ 《Streamside Day Follies》

美術史家 George Baker によるピエール・ユイグへ2004年5月にニューヨークで実施されたインタビュー。それが October に掲載されていた。PDFのダウンロードは有料だけど、オンラインで読むならタダでいい。 この頃はHugo Boss Prize 2002を受賞した後。 インタビューのタイミングは、ピエール・ユイグがニューヨークのDiaで展覧会を終えた後、展覧会開催の9か月前からニューヨークに滞在していた。展覧会の終了は1月、インタビューは5月に受けている

アニメのわき役キャラのライフタイム 《No Ghost Just a Shell》

1999年から2000年にかけて、アンリーを用いた作品が提示された。世界各国の展覧会で、アンリーに意味づけが行われていた。 下のリンクの写真、手に持っているセル画がオリジナル。それを持っているCGはフィリップ・パレーノによる3Dモデリング。 ヘッダーの写真はダイアテキストの06 2002/3/1の号。ここにアンリーの写真が4点ほど収録されている。 2002年12月19日にWIREDにも記事が掲載されていた。 アンリー。日本のアニメキャラクター開発企業からピエール・ユイ

スーパーオーガ二ズムとトポロジー 岡山芸術交流 2019

岡山芸術交流2019。これは思考整理のためのnote。 日程を調整して訪問しておいてよかった。しかも、ゆっくりと時間を取ったこともよかった点だと思う。 スーパーオーガ二ズム 超個体。各個体よりも群としてのコミュニティあるいは集合体が生命体としての全体を尊重する。個体が集まった集団をひとつの個体と見做すこともできる。そんなイメージのある言葉。 organisation とすると組織、organismで有機体。有機組織とも捉えられるから、同じ語を使っているものと推測する。

交流という鑑賞 岡山芸術交流2019

岡山芸術交流では、新しい現代アートの楽しみ方を見つけられたような気がする。作品を鑑賞しながらの議論、解釈を巡る交流。 リヒターを見た後、ある意味でバーンアウトしてしまっていた。 現代アートの体験が、満足する地点にまで到達してしまったのではないか。残りの大学院生活が惰性になりそうな、そんな感覚さえ起こった。 今は、現代アートというのは、リニアなものではなく、同時多発的に起こるものだと分かる。アーティストが提示した世界を鑑賞者がどのように解釈するか、鑑賞者にどう響かせるか。