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2022年3月の記事一覧
迷宮 第四章「飛翔する魂」 Ⅰ
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――今のは
何だったのか……
旅人は我に還る
――だが
ここは――闇…
「ここが世界の最果ての地なのだ―旅人よ」
老人の声だけが世界に響き渡る
汗は涙のように溢れる
身体の震えは寒さの所為だけではないだろう
ここは森の中だと―悪寒のような木のざわめきが心を揺らす
「―あなたの世界はよく分かった…」
彼は目を閉じる
「だが―あなたは世界の全てを知らない」
闇は光を包括する
「迷宮」 第三章 Ⅲ
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Ⅲ
外の世界に一歩出ればそこは洪水
草のように乱立する雑踏を掻き分け
欲望と執着の渦巻く都市を歩む
泣き叫ぶ子どもの声を聞いたか
怒りに絶叫する大人の声を耳にしたか
もしもこの世界を浄化するのなら
それはこの世界を滅ぼすのが一番簡単なことだろう
立ち尽くす己は為す術無く
無力さに打ち拉がれる
頭を抱えて 座り込み
膝を抱えて 眼を瞑るだけでいい
手首に刃物を趨らせる人が
「迷宮」 三章「深遠の闇」 Ⅰ
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巡るのは海
闇と光
深遠と混沌
静と動の対流
巡るのは空
引き合うものと反発し合うものたち
深淵と創造
一瞬と永遠の循環
無限と有限の迷宮
神秘と真否の樹海
星は列を成し
群を造り
渦を描く
離れて 混ざり
崩壊し 新生する
夢幻をみたか
実現をしたか
星に 星が衝突する
流星群はこの星の涙
火を噴く大地はこの星の咆哮
荒れ狂う海原はこの星の断末魔
闇空に唸る閃光はこの
「迷宮」 第二章 Ⅸ
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「あなたに一つ聞きたい」
旅人の言葉は静かな大理石のように
この場にその跡を彫りつける
老人は夕闇のように静かだった
だがそれは無視ではなかった
靡く髪が 開かれた瞳が 無言の重圧が
言葉を受け止めていることを―伝えていた
「憎しみはどこへ向かうのか」
旅人はそして沈黙する―ただ言葉を待って
老人は沈黙する―ただ言葉を探して
「―我が心を照らす言葉をお前は知っているか」
「迷宮」 第二章 Ⅷ
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Ⅷ
届かない願いと知りながら
縋るしかない無力な自分を憎む
憎しみは自身の大気を焼き
いつしか命をも焼き尽くす
求めたものが叶えられない絶望は
やがて周りへの底なしの憎しみへと変わる
自身もろとも奈落の底へ
それは誰も救われない滅びの唄
Ⅸ
憎しみよ
あなたが流れ星なら堕ちればいい
その輝きに愛を見つけよう
絶望よ
あなたが轟く雷なら放たれよ
滅びの槌を下せばいい
虚無