間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』
「旅」とは、なにも遠出をしたり観光や宿泊をしたりすることをだけを指すものではないと思っている。
家から一歩も出ずとも、記念写真を撮らずとも、誰にも会わず誰とも話さずとも、「旅」はできる。
場所や時間や感覚やいくつもの生命にもまたがって、心のなかでもって壮大な「旅」ができる、それが「読書」だ。
それを思い出させてくれたのが、この『ここはすべての夜明けまえ』だった。
実に豊かな旅であり、読書体験であった。
わたしの心のなかの景色が、本書を読む前と後とでは明らかに変わった。
読了後、うつむき気味だった顔をグッとあげられたような、ブワッと視界がひらけたような、どこからともない新しい風が顔に吹きつけてきたような、そんな爽快感と生命力で満たされる感覚があった。
触発されて、あてもなく走り出したくなるような、ともだちに会いたくなるような、日記を書きたくなるような、とりとめもなくおしゃべりしたくなるような、そんな大小さまざまな欲がふつふつと湧き上がってきたのだった。
でも、まだまだ感想を言葉にしきれない。
読了してまもなく1ヶ月経つのだけど、今でも思い出しては心に浮かんだものを表す言葉をさがしている。
これからも味わい、考えつづけてみよう。
すぐに言葉にしてしまうのはもったいない。
「ともだち」かあ。
『ここはすべての夜明けまえ』と共にたゆたう旅を、もう少し続けてみます。
心のなかで壮大な旅をする。
そんな秋。