利己的な遺伝子<増補新装版>
"利己的な遺伝子とは何だろう?それは単に一個のDNAの物理的小片ではない。原始のスープにおいてそうであったと同様に、それは世界中に分布している、個々のDNA片の全コピーである"1976年発刊の本書は動物行動学者による世界の見方をウェットなナマモノからドライなシステムへと変えた現代の古典として、その魅力は色褪せない。
個人的にはAIやロボット、VTuberなど、人有らざるものが次々と【人らしく擬人化されていく】中、久しぶりに再読したくなって数十年ぶりに本書を手にとったのですが。
生物は遺伝子という名の利己的(自己の生存と繁殖率を高めること。と本書では定義)な存在を生き残らせるべく【盲目的にプログラムされたサバイバル・マシン】乗り物(ヴィークル)に過ぎないとして、一見して利他的に見えるミツバチや明らかに利己的に見えるペンギンやカマキリなど様々な動物の事例を次々に紹介しつつ、イマジネーション豊かなSFの様に【生物進化の基本は遺伝子の自己複製である】と(時折ユーモアを交えて)展開していく本書は、やはり専門家ではない一介の素人でも読みやすく、生物は、そして人間は決して特別な存在ではないと【世界の認識を変えてくれる面白さ】を時間を超えて感じました。
また、一方で"われわれが死後に残せるものが二つある。遺伝子とミームだ"と人間の文化、旋律や観念、キャッチフレーズ、ファッションなどを遺伝子と並ぶ【自己複製子として並列に定義し】比較して寿命や多産生、複製の正確さ、あるいは相互の関係性(例えば相対立するものとして、独身主義をあげています)を大胆に提案すると共に、人間の特性として先見性、純粋な利他主義を挙げて【遺伝子に対する反逆の可能性】を述べているのには、シンギュラリティ、あるいはデザインベイビーなどへの懸念が議論になっている現在、さながら一筋の光明の様で、私的にはホッとしたりしました。
「サピエンス全史」を読んで、更に生物について考えたい誰かへ。また知的好奇心を掻き立てられたい未読の誰かにもオススメ。