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今日が残りの人生の最初の日

『ハッピー・デス・デイ』という映画があって、作品自体は同じ朝を繰り返して何度も死んでしまう女子高生がそのループから抜け出すために奮闘する姿が描かれた名作なのですが、その作中でいつも目覚めてしまう同級生の男の子の部屋の扉にこうしたメッセージが書かれていました。

「今日が残りの人生の最初の日」

主人公であるヒロインは(何度も同じ朝を繰り返すたびにこの扉のメッセージが目に入るので)「このメッセージ最悪」と言い放つのですが、こういった言葉が扉に貼ってあるなんて実に粋な演出だなと思います。

ループするという特別な状況に置かれてしまったヒロインの心情はともかくとして、朝起きて外出する際に必ず目にする扉にこういうメッセージが貼ってあるという演出が実にセンスがいいなぁと思うのです。

誰にとってもいつだって目覚めた朝は「今日が残りの人生の最初の日」なんですから。

それこそ悔いが残らない素敵な充実した一日にしたいところです。

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ただ一方で、本当にそんな充実した一日を過ごすことってあるでしょうか。

もちろん今まで入念に準備を続けてきてようやく迎えたその日は他と違って「特別な一日だった」と言えるかもしれません。

しかしそれはたった一日の特別な日であって、その日を迎えるまでの毎日というのはただ繰り返し積み重ねるだけのなんでもないただの努力の日々のはずです。

いくら「今日という日を大切に特別な一日にしよう」なんて思ってはいても、結局はいつもと変わらない怠惰な日曜日を過ごしてしまうのが人間なのではないでしょうか。

別に心が病んでいてただネガティブな話をしているわけではありません。

あまり気負い過ぎると「今日一日自分は何をやっていたんだ」と自身を責めてしまいそれこそ何をやっても無駄なんじゃないかって思ってしまいますので、そのへんはもうちょっと気楽に考えてもいいのではないでしょうか。

そうした虚無感に苛まれるような毎日の積み重ねがいざという日を特別な体験の一日に変えてくれるんだ、と思えば何ひとつ無駄にはなりませんよ。

一見すると無駄に見えるようなことにもちょっとずつ意味があるんじゃないかという話です。

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私は子どもの頃から『サザエさん』が嫌いでした。

正確に言うと「毎週の日曜日の夕方に家族で揃って夕飯を食べながら『サザエさん』を観るような団らんのひと時が実に平凡で退屈で大嫌い」という感情でした。

たまに友達の家で遊んでいてそのまま「夕飯もウチで食べていったら?」とご家族に言われて食べる他所(よそ)ん家の晩御飯の非日常感が嫌いじゃありませんでした。

「うわ、ウチと全然味つけが違う・友人の知らない家族と一緒に食べる晩御飯って居心地悪いな、そこそこの負荷がかかる」

なんて思いながらも、その負荷を楽しんでいるような子どもでした。

それくらい平凡というか変わらない日常というものを忌み嫌うくらいには退屈していた子どもだったのでした。

ご飯を食べ終わった後も友人の部屋でそのまま遊んで、風呂にまで入って結局友人のお父さんが運転する車で家まで送ってもらって、到着するなり自分の親から「こんなに遅くなるまで人の家にお邪魔するもんじゃない!」と怒られながら自分の布団に入って眠りにつきながら、不思議な充足感を覚えるような子どもでした。

非日常や特別な一日というものに焦がれていたのです。

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少年少女の頃というのは誰しもが同じように非日常に憧れていたのではないでしょうか。

男の子にとっては冒険心。

女の子にとっては白馬の王子様が突然現れるような展開に。

いつだって「いつかきっとそういった漫画のような展開が自分自身にも訪れる・そういう日がやって来る」なんて夢を見ていたのではないでしょうか。

退屈な日常をある日ある時に突然のように誰かがブッ壊してくれて途端に自分自身が物語の主人公として大回転する、そんな特別な物語の始まりの日って覚えてますか?

え?まだそんな日はやって来ていない?

本当に?本当にやって来ていないですか?

それはまだ自分自身が「始まっていることに気づいていないだけ」ってことは無いですか?

今回お届けするエピソードはそんなあなたに「ああ、こうして物語は始まっていたのか」と気づきを与える物語なのかもしれません。

なんでもなかったただの日常がひっくり返った瞬間に物語は始まります。

良かったらご自身の人生と照らし合わせてご覧ください。

ひょっとしたら共通点が見えてくるかもしれませんよ。

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今日が残りの人生の最初の日

「学校の裏山に魔女が住んでいる」

最初にそういった話を聞いたのは同級生からでした。

当時の私は小学4年生で既にもう10歳だったので「プッ」と思わず笑ってしまったことを覚えています。

「魔女ってなんなの?どんな能力があるの?言ってみろよ」

同級生の友人にそう問い詰めるとやはり「学校の裏山の小屋にその魔女は住んでいて杖を持っていてそれで子どもを空中に浮かせたり出来る」なんてとんでもない話が飛び出してきました。

「ありえない、バカバカしい、出来るわけ無いし魔女なんていない」

いくらそう伝えてもそこは10歳同士のただのガキです。

当然ながら「じゃあ、確かめに行こう!」となったのでした。

ちょっとした噂話ですら鋼の冒険心=好奇心に火をつけるような子どもだったのですから、そういった短絡的な思考になってしまうのは仕方がなかったのかもしれません。

とある土曜日の午後に我々は同級生3人で集まって学校の裏山に出発しました。

目的は魔女の住む小屋です。

もし本当に魔女がそこにいて杖で子どもを浮かせるような能力を持っているのなら浮かせてもらおう!と呑気にちょっとワクワクしながら出発したのでした。

我ながら小学4年生で10歳とは思えないほどの純粋(ピュア)っぷりにこうして思い出しても笑ってしまいますが、この時は単純に「もし悪い魔女だったらやっつければいい」くらいに考えていたほどガキだったので仕方がありません。

ええ、まさかこの後にあんなにも恐ろしいことが待っていたなんて思いもしなかったのです。

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学校の裏山の奥はずっと林が続いていました。

うっすらとかつての遊歩道の後のようなモノの名残は感じますが、単純に草木が生い茂るだけのただの山です。

昔は登山客などもいたのかもしれませんが今では完全に立ち入り禁止となっている区画の山なのです。(山の入り口はもちろん封鎖されてましたが簡単に飛び越えて入ってきました)

途中で拾った太めの枝を片手に振り回しながら草木をバシバシとへし折りつつどんどんと奥へ進んでいきました。

目的地である小屋には簡単に辿り着くことが出来ました。

ロッジというよりもただの廃屋民家です。

たぶん水も電気も流れていないようなボロボロの廃屋です。

それこそ草がボーボーと生い茂り建物ごと飲み込んでいるような外観です。

見た目だけの印象で言うと魔女が住んでいても決しておかしくないビジュアルでした。

3人で恐る恐る観察しながら少しずつ小屋に近づきました。

しかしどう考えても人の気配はありませんでした。

10分も経つと急に感情が冷めてきて「もう、いいや、どうせ誰もいないよ」と思ってスタスタと小屋の中に入っていきました。

小屋の中に入ると案の定、人の気配はありませんでした。

入り口の扉もボロボロでもちろんカギもかかっているはずもなく、入ってすぐの居間の畳からも草が生えまくっていて何年も放置されていたことが伺えました。

「ほらね、誰もいない」

変わらず太い枝をブンブンと振り回しながら土足で上がって部屋の奥へと進んでいきました。

すると台所らしきところに鍋とラーメンの袋が置いてありました。

「!」

一瞬「アレ?」とは思いましたがこうなるともう近づいて調べるしかありません。

「え!?ラーメンあるよ!?」

3人の誰かがそう言って警戒を促したのですがもうワクワクの方が完全に上回っています。

台所のラーメンを中心にあたりをよく観察すると水筒や鍋やフライパンなどが置いてあって、明らかに誰かが調理して食べた後があることを感じ取りました。

鍋の下にはカセットコンロが置いてありました。

恐る恐る台所に近づいて水道の蛇口をひねると水が勢いよく出てきました。

「!?水が出る!?」

そう言った直後に背後からいきなり怒鳴り声が聞こえました。

「コラァッ!」

全身がビクッとなりながら硬直しつつ振り返るとそこには煙草を咥えた髭モジャの大男が立っていたのでした。

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我々3人はその台所の部屋で問答無用で正座をさせられた状態で、その大男から説教をされていました。

「勝手に人の家に土足で上がり込んではいけない」

最初はそういった主旨のことを言っていたような気もしていたのですが、その大男も土足でした。

どうやらその小屋は大男の家で我々は勝手に入ってしまったようでした。

途中からは「キミたちは悪いことをしたんだから償いをしなければならない」ということを言われるようになりました。

とにかく目の前の大男が怖かったことを覚えています。

3人とも今にも泣きそうになりながらも正座して俯いた状態で大男の説教を聞いていましたが、ふとこんなことを言われました。

「俺の仕事を手伝って欲しい」

顔を上げると大男は工具箱を取り出して中から工具用ペンチとグルグルと巻かれた針金の束を取り出しました。

カラフルな色をした様々な針金の束が大量にありました。

「お前、名前は?」

そう聞かれましたが怖くて答えられずにいると「名前!!」と大声を出されたので仕方なく「ひろしです」と答えました。

すると大男はそのペンチと針金を使ってクイクイとリズミカルに曲げながら凄い速度で何かを作り始めました。

「Hiroshi」

アルファベットでそう綴られた針金にピンを止めて、私の上着の胸の所につけられました。

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