ピリカ☆パルコ

創作活動が好きで、主に文章やイラストを描いてます。

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「猫追堂」 クロネコと電脳の城〜プロローグ〜

古びた本の匂いが好きだ。 紙からほのかに感じられる木の香りに、ややカビ臭さが混じったような独特な匂いが、心を安らかに落ち着かせてくれる。 そんな本たちがここにはたくさんある。 ここの主人はいつもどこかに出かけてしまって留守にしている。 ある時店主から、本が好きなら店番をしてほしいと頼まれ、ここで店番をするようになった。 しかし店番を始めてから今までお客さんが来たためしがない。 まあその方が邪魔されずにゆっくり本が読めるからいいのだけれども、一応本屋なんだからお客さ

    • 「ポスペとブクロ」 クロネコと電脳の城28

      ポスペはインターネットが今ほど普及する前、メールを配達するアバターとして一世を風靡したキャラクターだった。 多くのネットユーザーがポスペを利用してメールの送受信をしたものだった。 しかし時代は過ぎてインターネットが爆発的に普及し、スマートフォンなどのアプリが主流になると、パソコンのメールソフトは時代遅れとなり、その存在は忘れ去られていった。 ポスペはネット上に廃棄され、誰にも利用されないまま彷徨っていた。 レディピンクはそんなポスペを拾って自分のペットにしたのだ。 彼のメール

      • 「死闘」 クロネコと電脳の城27

        城壁や内部のデータの一部が破壊されたため、あちこちで電子音やノイズが走っていたが、電脳城の内部は不気味なほど静まりかえっていた。 「クラン、ここはどのあたりだ?」 レディピンクは自分たちが侵入した位置をクランに確認した。 「ここは電脳城の中層階ですね。ホストコンピューターがある上層階に到着するはずがずいぶん下になってしまいました」 「仕方ない、急いで上層階に登ろう」 レディピンクはそう言うと周囲を見渡し、上層階へ向かう階段に向かって走り出した。 レンたちもそれに続いたが、急に

        • 「侵入」 クロネコと電脳の城26

          激しい揺れに立っていられず、レンは跪いて体を支えるのに必死だった。 レディピンクはそれでも動じることなく、腕を組んで仁王立ちしていた。 激しい砲撃が浮島を直撃しているように見えたが、砲弾は実際浮島に当たる直前で見えない壁に当たって破裂しているようだった。 あらゆる方向からくる砲撃に対して、見えないシールドを展開して直撃を防いでいるのはクランだった。 クランはものすごいスピードでキーボードを叩いているが、おそらく砲撃を受けて弱ったシールドを秒で修復しているようだ。 砲撃を受けて

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        「猫追堂」 クロネコと電脳の城〜プロローグ〜

          「電脳城」 クロネコと電脳の城25

          ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 大きな音を立てながら浮島が旋回を始めた。 地下の機関室では、ブクロが浮島のエンジン出力を最大に上げ、左に急旋回させていた。 大きく揺れる建物内でレンは立っているのもやっとだった。 レディピンクは全く動じることなく、仁王立ちしたままモニターを凝視していた。 モニターには外の様子が映っており、同時に電脳城までのルートや距離と到着時間が地図でナビゲートされていた。 モニターの前ではクランがキーボードで何やら操作している。 レンは静かに近づいてモニターを覗き込ん

          「電脳城」 クロネコと電脳の城25

          「覚悟」 クロネコと電脳の城24

          「父さん、僕、電脳城に行くよ」 思い悩むガジェを見てレンは悟ったようにそう言った。 「レン!だめだ!お前は電脳警備隊から追われてるんだぞ。電脳城は電脳警備隊の本拠地だ。電脳城に行くということは、自ら捕まりにいくようなものだ!」 ガジェは必死でレンを止めようとした。 いずれ捕まってしまうとしても、何も自分から捕まりにいく必要なんてない。 もう少し、もう少しでいいからレンに生きていてほしい。 ガジェは心からそう願っていた。 「父さん、僕は捕まりに行くわけじゃないよ。ただどうせ消

          「覚悟」 クロネコと電脳の城24

          「願い」 クロネコと電脳の城23

          ガジェはレディピンクの話を俄には信じられなかったが、ありえない話でもないと感じていた。 「それじゃあアークナイトは『電脳世界』をVR業界でトップにするために大手3社にウイルスをばら撒いたってことなのか?」 「そうよ。こうも都合よく『電脳世界』が昇り詰めたことも、アークナイトが他のVR世界に侵入していたことも、そう考えれば全て辻褄が合うわ」 「でも証拠がないだろう。証拠もないのにテロだと言って詰め寄っても運営側は認めないだろう」 「そうね、だから電脳城に侵入して証拠を掴

          「願い」 クロネコと電脳の城23

          「犯人」 クロネコと電脳の城22

          「こう見えて私結構な有名人でね。ネットの世界じゃ有名なインフルエンサーだったのよ。 でもそれは『メタワールド』のアバターありきの人気だったから、アバターを失った私には誰も見向きもしなくなったわ。 SNSのフォロワーもみるみる減って、親しい友人だけになった。 寂しかったわ。私個人がもてはやされていると勘違いしていたけど、アバターと活躍の場を奪われた私個人には何の魅力もなかったの。 でも今さら別のVR世界でやり直す気なんて起きなかったし、こんなことなら私もって死を考えたり

          「犯人」 クロネコと電脳の城22

          「理由」 クロネコと電脳の城21

          パチパチパチパチ、 乾いた拍手がホールに響いた。 「泣ける話ね。死んだ息子を生かすために必死になる親。感動すら覚えるわ」 そう言いながらレディピンクはゆっくりレンに近づいてきた。 「あなたは現実ではもう死んでいる。でもここではこうして生きている。混乱するのも無理もないわ」 レディピンクはレンの目の前まで来てしゃがみ込み、レンに目線を合わせてきた。 「それを聞いてあなたはどうするの?」 「!?」 レンは絶句して息を呑んだ。 今自分は生死を突きつけられている。

          「理由」 クロネコと電脳の城21

          「葛藤」 クロネコと電脳の城20

          「それからしばらくはこの世界で今まで通りの生活ができていた。 現実ではお前の死が受け入れられず、俺たちは現実逃避のため毎日長時間電脳世界に入り浸っていた。 電脳世界ではレンは生きているし、会話もできる。一緒にご飯を食べたり、出かけたり遊んだりできた。 辛い現実世界より電脳世界での生活の方が幸せだったんだ。 しかしそんな生活も長くは続かなかった。 電脳世界にはアカウントのないアバターもたくさんいる。 それは電脳世界の運営が作ったNPCと呼ばれるAIアバターだ。 運

          「葛藤」 クロネコと電脳の城20

          「回顧」 クロネコと電脳の城19

          ある日ミツキがいなくなった。 正確に言うと仕事に行くと言って家を出たまま戻らなかった。 僕は何日も何日も待った。 けどミツキが戻ってくることはなかった。 唐突だったから何か事件や事故に巻き込まれたんじゃないかと思った。 それこそネットの世界に迷い込んだんじゃないかって。 だからガジェさんにお願いしたんだ。 ミツキを探してって。 ガジェさんは困ったような顔をしていたけど、「わかった」って言ってくれた。 それからガジェさんも戻って来なくなったんだ。 そしてレデ

          「回顧」 クロネコと電脳の城19

          「記憶」 クロネコと電脳の城18

          「ぼ、僕がすでに死んでるって・・・どういうこと?」 唐突に告げられた言葉に頭が混乱して思考が追いつかないでいる。 「僕は生きてるよ・・・。ほらこうやって僕は動くし、目も見えるし声も聞こえる!」 そう声を荒げて言っても確信はなかった。 なんとなく、心のどこかでそんな気がしていたからだ。 「レン、落ち着くんだ。確かにお前はここにいるし、こうして俺たちと会話もできている。だけどそれができるのはこの電脳世界でだけだ。現実世界にお前の肉体はないんだ」 ガジェは噛み締めるよう

          「記憶」 クロネコと電脳の城18

          「真実」 クロネコと電脳の城17

          ガジェは泣いているレンの側に近づいてそっと肩を抱き締めた。 「レン、すまない・・・、お前を苦しめるつもりはなかったんだ」 「ガジェさん、僕は一体誰なの?ガジェさんは僕の何なの?」 レンは縋るような目でガジェを見た。 猫追堂にいる時からずっと疑問に感じていたことだ。 自分は他の人たちと違う。 ガジェさんもレディピンクも、猫やウサギの姿をしているけど、自分は人間の姿をしている。 自分の記憶では昔はみんな人間の姿をしていた気がする。 でもいつの頃からかみんな動物の姿

          「真実」 クロネコと電脳の城17

          「発光」 クロネコと電脳の城16

          ポスペが空けた壁の穴からブクロとポスペがゆっくり戻ってきた。 部屋の中央付近まで来るとポスペは抱えていたヨダカの体を無造作に放り投げる。 「ぐっ」 ヨダカの体は床を転がり、痛みに声をあげたが動くことはできなかった。 「ヨダカさん!」 レンはヨダカに急いで駆け寄ってヨダカの体を抱きかかえた。 ヨダカはうっすら目を開けたが、レンの姿を確認するとすぐに目を閉じて意識を失ったようだった。 「ヨダカさん!ヨダカさんしっかりして!」 そう叫ぶレンの横に、今度はブクロが吐き

          「発光」 クロネコと電脳の城16

          「救出」 クロネコと電脳の城15

          レディピンクの話では、怪我をした僕をアジトまで運んで介抱してくれたみたいだ。 「お前もう少しでクロネコに殺されるとこだったよ」 レディピンクはそう教えてくれた。 信じたくはなかったが、僕の記憶でも確かにクロネコの少女は僕に銃口を向けていた。 なぜクロネコの少女は僕を殺そうとしたんだろうか? そしてあの時彼女は涙を流していたように見えた。 「お前は本当に何も知らないんだね」 レディピンクは冷たい目でレンを見ながらそう言った。 「なんのことですか?そういえば前も僕

          「救出」 クロネコと電脳の城15

          「クラン」 クロネコと電脳の城14

          頭が痛い。 微睡の中目を覚ますと、見覚えのない場所にいた。 僕はベッドの上で寝ていて、ここは窓のない部屋だったので全くどこだかわからなかった。 記憶の中でうっすらと覚えているのは、クロネコの少女に銃で撃たれたことと、誰かに抱えられていたこと。 僕は撃たれて意識を失ったのだろうか? それにしては身体の痛みは少ない気がする。 頭は痛かったが、折れているはずの右足や、脱臼していたはずの右肩に痛みはない。 体を隅々まで見てみたが、驚くことに怪我らしい怪我はしておらず、あ

          「クラン」 クロネコと電脳の城14