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「葛藤」 クロネコと電脳の城20

「それからしばらくはこの世界で今まで通りの生活ができていた。

現実ではお前の死が受け入れられず、俺たちは現実逃避のため毎日長時間電脳世界に入り浸っていた。

電脳世界ではレンは生きているし、会話もできる。一緒にご飯を食べたり、出かけたり遊んだりできた。

辛い現実世界より電脳世界での生活の方が幸せだったんだ。

しかしそんな生活も長くは続かなかった。

電脳世界にはアカウントのないアバターもたくさんいる。

それは電脳世界の運営が作ったNPCと呼ばれるAIアバターだ。

運営がプログラミングしたデータに従って行動するだけのアバターで、主にお店などの店員や電脳世界について説明するチュートリアル用のアバターだったりする。

それらのアバター同様にレンのアバターもNPCとして認識されるようにプログラミングしていたんだ。

しかし運営が自分たちが用意したアバター以外のNPCアバターがいることに気づいてしまった。

電脳世界には現実世界の警察のような存在である電脳警備隊という組織がある。

電脳警備隊は電脳世界で違反行為や犯罪行為が起こらないように常時警備していて、異変があれば電脳猫を派遣して調査、違反行為があれば違反したアバターを強制的に排除する。

違反行為がひどい場合はアカウントが使用停止となり、電脳世界に入ることが二度とできなくなる。

俺たちがやったことは明らかな違反行為で、見つかれば俺とミツキのアカウントは削除され、この世界に入れなくなってしまう。

そしてアカウントのないアバターであり運営が作ったNPCでもないレンは、ウイルスと認識されて排除されてしまうだろう。

電脳警備隊による調査が迫っていることを知った俺たちは、今度は電脳世界の建物のデータを改竄することにした。

電脳世界の中に電脳世界とば別の独立した空間を作り、その中でレンのデータを匿うことにしたんだ。

それがお前とミツキが住んでいた地下室であり、俺が住んでいた猫追堂だ。

つまりあの場所は運営も知らない秘密の空間だったんだ。

運営から身を隠すことに成功はしたが、今度は簡単にその空間から出ることができなくなってしまった。

前みたいに外でスポーツをしたり旅行に行くこともできなくなってしまったんだ。

暗い地下室でひっそりと暮らす。

そうしなければ運営に見つかりデータを消されてしまう。

このままこうして外に出ることもできず、地下室で一生を終えることが、果たしてレンにとっていいことなのかどうかって、かなり悩んだよ。

ミツキともそのことで何度も喧嘩になった。

もうやめた方がいいんじゃないか、この世界で生き続ける意味があるのだろうかってね。

俺は少しでもお前に生きて欲しかったし、色んな経験をさせたいって思っていた。

だから猫追堂を作って本を読ませたし、仕事を手伝ってもらったりしたんだ。

でもミツキは運営に見つかる危険があるのにそんなことをさせるなって怒ってた。


そうこうしているうちに、現実世界で問題が起こった。

電脳世界の運営が国の組織である電脳省に俺たちのことを報告したらしく、電脳省の人間が調査に訪れた。

ネット上のデータを勝手に改竄することは、ハッキングと言って現実世界でも犯罪になってしまうんだ。

俺たちは電脳省に目をつけられてしまったため、現実世界でも身を隠さなければいけなくなってしまった。

俺とミツキは見つからないように別々のところで身を隠した。

電脳世界に入る俺たちのアカウントは停止させられてしまったので、ハッキングする形でお前に会いに行った。

ハッキングが見つかると電脳猫に追われることになるので、電脳世界にいられるのはわずかな時間になってしまった。

それでもお前に会いたかったし、お前を一人残しておくことが心配だったから、何度もハッキングを繰り返した。

しかし何度も繰り返しハッキングしたことで居場所が特定され、ミツキが電脳省に見つかってしまった。

ミツキは何とか捕まらずに別の場所に身を隠すことができたが、危険なのでしばらくネットにアクセスすることができなくなった」

「そうか、だから帰ってこなくなったんだね」

「そうだ、そして俺もまた居場所を特定されそうになったから別の場所に移動したり、アクセスを控えるようにしていたんだ」

「そうか二人ともいなくなったのはそういうことだったんだね。父さんの話を聞いてやっとわかったよ」

レンはガジェを見て微笑むと

「父さん、僕のためにごめんなさい、僕のせいで追われることになってごめんなさい・・・」

そう言って涙を流した。

「違う!お前のせいなんかじゃない。これは俺たちが勝手にやったことだ。お前の意思を無視してな。責められるべきは俺たちなんだ。すまなかった・・・」

レンの顔はあの頃と同じ、どこか寂しげな笑顔になっていた。

その顔を見るのがガジェには辛かった。

楽しいまま、電脳世界で幸せに暮らしたかった。

それだけが望みだったのに・・・どうしてこうなってしまうんだろう。

やはりミツキの言うように、レンを生かすことは間違いだったのだろうか。




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