「記憶」 クロネコと電脳の城18
「ぼ、僕がすでに死んでるって・・・どういうこと?」
唐突に告げられた言葉に頭が混乱して思考が追いつかないでいる。
「僕は生きてるよ・・・。ほらこうやって僕は動くし、目も見えるし声も聞こえる!」
そう声を荒げて言っても確信はなかった。
なんとなく、心のどこかでそんな気がしていたからだ。
「レン、落ち着くんだ。確かにお前はここにいるし、こうして俺たちと会話もできている。だけどそれができるのはこの電脳世界でだけだ。現実世界にお前の肉体はないんだ」
ガジェは噛み締めるように言った。
「酷なことを言っているのはわかる。できることならこの事実を伝えたくなかった。でも電脳警備隊に追われるようになった以上、お前には真実を伝えた方がよかったんだろう。それにミツキも・・・」
「ミツキは・・・ミツキは誰なの?ガジェさんが僕の父親ならミツキは?」
「ミツキはお前の母親だ」
ああ、やっぱり。
やっぱりそうだったんだ。
それで全て納得がいった。
僕の記憶。
幼い頃の両親の記憶がない。
思い出はあるのに両親の顔が思い出せなかった。
ある時を境に僕の側に現れたのがミツキとガジェさんだった。
ミツキは僕の両親の古くからの知り合いだと言っていた。
そして僕の記憶では、僕の両親は亡くなったから、自分が母親代わりとして側にいると言ってくれたんだ。
それから僕はミツキと一緒に暗い地下室みたいなところで生活するようになった。
ミツキは仕事でいない時間が多かったが、仕事から帰ってくると僕を抱きしめてくれ、今日はどんなことがあったとか、どんなものを食べたとか、いろんな話をいっぱいしたんだ。
そのうち僕はミツキと住んでいる家の隣に古本屋があるのを見つけたんだ。
それが猫追堂だった。
そこにはガジェさんがいて、本をたくさん読ませてくれた。
ガジェさんはネットという別の世界でお仕事をしていて、ネットで困っている人を助けていると言っていた。
不思議なことを言う人だなと思ったけど、ネットの世界で戦っているガジェさんの話を聞くのは楽しかった。
ある日僕が猫追堂から家に帰るのが遅くなってしまい、ミツキが先に家に帰ってきちゃったんだ。
ミツキは家に僕がいなかったから焦ったみたいで、あちこち探し回ったって言っていた。
僕が家に帰ると、ミツキはカンカンだった。
どこに行っていたんだと問い詰められ、正直に猫追堂とガジェさんの話をしてしまったんだ。
そしたらミツキが猫追堂に怒鳴り込んでいってガジェさんと大喧嘩になったんだ。
僕はそれを必死で止めてたっけ。
ミツキはもう猫追堂に行っちゃいけないって言ってたけど、僕はガジェさんが大好きだったから隠れてこっそり通っていた。
ガジェさんはミツキが怖いのかもう来ないほうがいいって言ってたけど、僕はなんだか二人が本当は仲がいいんじゃないかって思っていたし、二人のことが大好きだったから、仲良くなって欲しかったんだ。
僕がパイプになって二人を仲良くさせようって考えていたのかもしれない。
でもそんな必要なかったんだ。
僕はあの時から感じてたんだ。
二人は僕の両親なんじゃないかって。
どこかで気づいていて、だから二人のことが大好きで、ずっと側にいて欲しかったんだ。
「そうか・・・ミツキは僕のお母さんだったんだ・・・・・」
「よかった・・・。」
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