- 運営しているクリエイター
記事一覧
【長編小説】配信、ヤめる。第1話「プロローグ」
二発。銃弾を受けてからだった。遅すぎるくらいだったが、やっとのことで車の影に逃げ込む。
——カン、カカカ、カン。
車体ごと俺を殺そうとしてる。そんな緊張状態でちゃんと思考がは停止した。
銃声をBGMにしながら左右をキョロキョロと見回していると、チームメイトが隣を駆け抜けた。
「バブルさん、ここは攻めましょう。GOGO!」
この状況で攻めるなんて。
「ちょ、ちょっと待ってください、無理です
【長編小説】配信、ヤめる。第2話「配信準備」
駅を出てすぐのコーヒーチェーン店で甘ったるいコーヒーを飲む。大きな窓の向こうではスーツ姿の社会人が大股で歩く。平日の九時半。gus6との待ち合わせまで一時間半もあるなんて、俺にしては来るのが早すぎた。
暇だ。スマホを弄りながら店内を見渡す。興味深い。実はこういうお店には一人で入ったことがない。
半分以上は女性だ。これは時間の問題かもしれないが。次にスーツを着た人たちだが、外を歩く人に比べると
【長編小説】配信、ヤめる。第3話「興津魅桜の配信」
橋に設置された椅子に三人で座っている。俺と蛍太さんでゴスロリメイド金髪を挟みこんでいる。
さっきの駅よりは随分明るい。もう結構遅い時間だけど交通量は結構あった。
「なんだ、てっきり二人はカップルなんだと思ったんですよ! すごくない? 男同士。しかも青姦なんて!」
ゴスロリの女はスマホに向かって話す。画面には[神回][神展開][絶対やらせ]などとコメントが流れていた。
「俺はてっきり積木ちゃん
【長編小説】配信、ヤめる。第4話「処女配信」
その溢れんばかりのエネルギー。見習いたいね。そして、みんな暇すぎる。蛍太さんは無職だから分かる。どうやら興津さんは大学生なんだけど、時間は自分で作るもんだと豪語していた。言い訳にしか聞こえなかったけど。
昨日、蛍太さんが俺と生配信をする宣言をして、興津さんと連絡先を交換した後、駅まで送って俺は家に帰らず蛍太さんの家に泊まることになった。
「よっし、酒飲むか?」
「いや、やめときます。あの、かな
【長編小説】配信、ヤめる。第5話「嘘配信」
ゲームセンターに来たのは何年ぶりだろうか。うるさくて嫌いだから結構前だ。
じゃあなんで来ているのか。もちろん、遊びに来ているわけじゃない。無職で収入もない俺に、ゲーセンで散財する余裕なんてあるはずない。
そう。もちろん配信だ。
それは、アルハレからの連絡がきっかけだった。
不法投棄の生配信後、興津さんの生配信用のアカウントに目をつけた人たちが増え、それから配信をしてないのに、通知を待つ登
【長編小説】配信、ヤめる。第6話「火葬」
スマホでニュースを見ていた。どうやら夏の暑さは人を殺すほどになっているらしい。
本当、自分の家だったら俺も他人事でいられなかっただろう。けど、蛍太さんお家は快適だ。エアコンの効いた部屋でカップ麺を食べられるくらい快適に過ごせる。
蛍太さんは結構金持ちだな。
「なあ、穣介。今暇だよな?」
「もちろんっすよ。やることがあったら居候無職なんてしてません」
「そしたら外出る準備だ。早くな」
蛍太さ
【長編小説】配信、ヤめる。第7話「テーマパーク配信」
生配信とは一体、なんなんだろう。テロップや効果音をつけた、いわゆる編集された動画と比べると、確実に完成度は劣る。
しかし、人気ジャンルになりつつあるのは確かだ。やはりリアルタイムで時間を共有できるのはそれだけで楽しいんだろう。だが、どうだろう。このままでいいのだろうか。
配信者が増えてくる。そうすると自ずと評価は相対的になってくるだろう。時間を共有するだけで楽しかった配信は、だんだん、楽しま
【長編小説】配信、ヤめる。第8話「公式配信」
眠れない夜が誰にでもある。そんな時には遠くに行く空想をした。
目をしっかり瞑って、空飛ぶ布団に乗ってどこか遠くに行く空想だ。
たまに、体が揺れているように感じることがあった。プールに行った日とか、体が疲れてる日によくそうなった。そんな時には巨大なブランコに乗っている想像をした。
今の俺は、巨大なブランコに乗っている。
まわりの状況が分からないことを逆手にとって、俺はどこまでも行く。その終
【長編小説】配信、ヤめる。第9話「方向性」
公式配信と個人配信は、似て非なる。その理由の主なところは企業だ。
大きな金が動く分、様々な制約が生まれる。
今回のポプアップ公式配信では、まずコメントの統制があった。
元々ポップアップは暴力的だったり性的だったり不快なコメントは非表示になるシステムだ。それはやはりスポンサーをつけるために行われている。
それには大きな問題がある。配信者は視聴者のリアルな声を聞けなくなることだ。
その場の
【長編小説】配信、ヤめる。第10話「処女配信その2」
夏の真っ只中。真っ白な太陽の光線が降り注ぐ。家の周りには木々がようようとしている。
俺はトイレの水が流れないことをトイレをした後に知った。
「爺ちゃん、トイレの水流れないよ」
木造建築の平家だ。トイレの窓からは外が見える。多分、修爺ちゃんにも聞こえるだろう。
「穣介か、バケツで流せな」
やはり返事が返ってきた。近くにバケツに水が溜めてあった。
部屋を与えてもらった。そこで横になっている
【長編小説】配信、ヤめる。第11話「碓氷冬吾の楽園」
翌日のテレビで修爺さんが映った。朝の情報番組で熊に襲われた配信を特集したのだ。
インタビューをしているのは透き通る肌の男。碓水冬吾(ウスイトウゴ)今、波に乗り始めているアイドル。
中学に入学してすぐにスカウトされ芸能界入り。事務所はすぐさま売り出そうとしたけど、碓氷の両親は高校卒業までは学業に専念して欲しいということで、土日にモデル業をするような生活だった。
高校卒業後、活動を本格化させた
【長編小説】配信、ヤめる。第12話「配信、病める。」
ネットリテラシーって言葉を初めて聞いたのはどこだったか。朝のニュース番組か学校の授業でだと思う。
インターネットを通して人と会うのは危険だと、そう教わった。
教わっても配信をしたり、ゲームで知り合った人と会ったりするんだから、人とはしょうがない。
が、それでも小さな頃からネットリテラシーを学んだ俺たちは、最低限のルールは守っているんだと思う。インターネットの人と知り合いになるが個人情報は守
【長編小説】配信、ヤめる。第13話「地獄配信」
何も考えたくはないけど、もう、どこに向かおうとも、配信が立ちはだかっていた。この家も配信の思い出があまりにも満ちている。壊れた縁側。祭りでの写真の炎上。そして、蛍太さんの死。
お別れがしたいと思った。最後に見た蛍太さんの顔はとても悲しそうだったのを思い出す。俺がしたくて配信をしてたのに、全部蛍太さんのせいにしてしまったんだ。せめて、そのことを蛍太さんの両親には伝えたかった。
あまりに多くを
【長編小説】配信、ヤめる。第14話「覚悟」
身体が揺れている。それと。強い風が顔の一部にだけ当たった。
目を開けると流れる景色。車の中だ。
運転席を覗き込む。全く知らない男が居た。黒いスーツに黒いサングラスの日本人離れした男だ。
「うわ!」
と思わず叫んだら、車が大きく揺れた。が大事には至らない。
「急に大きい声はやめてください」
怒った上にハンサムな男は、次ににっこりと笑った。
「もうすぐ家につくんで待って下さい」
家に着く?