「やってはいけない」ストレッチはあるのか?
はじめに
先に答えを書くと、あります。
ヨガやバレエのスタジオ、フィットネスクラブに行くたびに、「そのストレッチ、しない方がいいのに」と、レッスン前の生徒(会員)さんを見て思うことがあります。
ストレッチは安全性が高いもの、という印象があるかもしれません。それでも、3つの観点から「やってはいけない」ストレッチは存在しています。
詳しく、説明していきましょう。
①リスクの高いストレッチ
まず、背骨(体幹)を大きく反らせる動き、首に対しての強いストレッチはリスクの高いストレッチです。
胸椎と呼ばれる、上背部を反らせる動きは、しなやかな背骨を手に入れるために重要なのは間違いありません。ですが、今の自分の能力を無視して、SNSなどの美しいインフルエンサーの真似をいきなりしてしまうと、まだ硬い胸椎は硬いまま、か細い首や反りやすい腰に負担が強くかかってしまう場合があります。
"胸椎をしなやかにしたいのに、頚椎や腰椎を痛めつけただけ"という結果にならないように、注意してください。SNSなどからストレッチやトレーニングをおこなう際には、自分の現状に見合った対象を選ぶようにしてください。不安であれば、信頼しているインストラクターやセラピストに、相談してもよいと思います。
頚椎、首まわりへの直接的なストレッチも注意が必要です。
下の2つは、わたしが提案する"誰にでもできる"安全な首へのストレッチです。
整形外科的な疾患がある場合は、医師に相談の上、おこなってください。
②可動域を無視したストレッチ
次に、関節が潰れてしまう、関節が抜けてしまうような過度なストレッチも危険です。
一時期、開脚ストレッチがブームになり、多くの人が開脚に夢中になりました。メディアや一部の知識のないインフルエンサーが煽ったため、多くの健康被害を生んでしまいました。
骨の構造としてそもそも、開脚ができない人がかなりの割合で存在しているのに、無理に可動域を無視したストレッチを偏っておこなったことで、怪我をしたり、腰痛を引き起こしたり、今思い返しても、残念なブームでした。
上のイラストの青い部分、脚を左右に180度広げようとすると、大転子が骨盤に当たってしまうのは、容易に想像ができると思います。そもそも、大腿骨頭の角度は人によってかなりの個人差があります。開脚は、誰にでもできるものではなく、中国雑技団や曲芸をする人、バレエダンサーなど一部の人たちの特殊能力に近いと思ってください。
「ターンアウトすれば、ターンインすれば…」と開脚を薦める本などには書かれているかもしれませんが、それはアライメントベースのハタヨガでは代償動作とされる領域になります。バレエや新体操など、特殊な競技者以外は、必要のない努力です。そもそも、180度開脚できることが私たちの健康に寄与するわけではないのです。健康になる訳でもないどころか、マイナスですらあるかもしれません(次の章で述べます)。
開脚をしているダンサーは、確かに美しい。でも、彼女等はアーティストなのです。アーティストはときに、ある種の犠牲を払っている可能性すらあります。彼女等がおばあちゃんになった時、足を引きずりながら、日常生活がままならない可能性もあるのです。都市生活者のあなたが、そのようなリスクを追う必要はないでしょう。
③全体性を無視したストレッチ
身体全体のバランスは、とても大切です。
わたしがそうお伝えして、否定する人はいないでしょう。開脚のときにストレッチされている筋肉が、どんどん柔軟性を増していけば、それ以外の筋肉と、柔軟性には大きな差が生まれてきます。
「ある部分の筋肉はガチガチ、ある部分はユルユル」
極端な物言いですが、偏りが増していけば、わたしという1つのユニット、1つの単位で考えた時に能力は落ちてしまいます。偏ったストレッチをすればするほど、身体のバランスは悪くなっているかもしれないのです。
開脚ストレッチばかり悪者にしてしまって、昔、頑張っていた人を傷つけてしまうようで申し訳ないですが、開脚ばかり偏っておこなっていた人の中には、少なからず腰痛になったり、仙腸関節炎になったり、生理不順になったり、健康を害してしまうことになりました。
身体の柔軟性を増したいなら、満遍なく、全身にストレッチをしてください。トレーニングでもそうですが、偏りなく全身におこなうのが健康の秘訣です。朝のラジオ体操であったり、太極拳であったり、ヨガであったり、ピラティスであったり。全身を動かす運動、トレーニングは、身体を安全に健康に(しなやかに、のびやかに)することが出来ます。
最後に
とはいえ、全身に…というとハードルが高く感じる人もいるでしょう。ちょっとした隙間にするストレッチについても、最後に簡単に述べておきます。
首や肩、手首、足首などは、ちょっとした隙間時間にストレッチすることをおすすめします。
パソコン作業やスマートフォンなどを触るなど、わたし等は動物としての進化では、おそらく想定もしていなかった偏った姿勢を続けています。ですから、そういった部位、関節は動かさないければ、凝り固まっていくのでストレッチするのは良いアイデアです。