精神疾患と栄養
うつ病や自律神経障害では、神経伝達物質の過剰取り込みが原因とされている。特にセロトニンは、感情・気分・心理的な要素に作用し、食欲や睡眠のコントロールに関わる。
神経伝達物質の産生には、適切な量の栄養が必要。
精神疾患と栄養素
アミノ酸
特に、トリプトファン、チロシン、グルタミンが関与する。牛乳、乳製品、卵などにタンパク質として含まれる。
ビタミン
特に、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸が関与する。葉酸は脳の代謝の段階で神経伝達物質の合成に関わり、欠乏により抑うつ症状の発症率が上昇するという報告がある。
ビタミンC, Eも、抗酸化物質としてフリーラジカルの誘発に拮抗する。
ミネラル
特に、亜鉛、銅、鉄、マグネシウムが関与する。亜鉛は、フリーラジカルによる潜在的な脳の攻撃から脳細胞を保護する機能をもつ。
脂肪酸
脳の灰白質の1/3はn-3系脂肪酸である不飽和脂肪酸。必要な栄養素にも関わらず、人間の体内では産生できないため、食事で摂取する必要がある。魚油に含まれるEPAやDHAは抗うつ薬の効果を高めることが報告されている。
これらの栄養素は、全粒粉、卵、チーズ、ヨーグルト、豆、ブロッコリー、キャベツ、ほうれん草、トウモロコシ、魚などに含まれる。
炭水化物、砂糖、ファーストフード、加工食品の過剰摂取は、抑うつ症状を助長する。
リフィーディング症候群
拒食症では、低栄養、徐脈、低血圧、低体温がみられるため、栄養の補給が必要。だが、高度の低栄養状態に、充分量の栄養を急に始めると代謝障害を起こす。これがリフィーディング症候群。年齢が若い偏食の患者さんは注意。
抗うつ薬の副作用と生活習慣
体重増加
やせのある程度の体重増加は問題ないが、過度な体重増加はメタボリックシンドロームや心血管イベントのリスクにつながる。原因はH1受容体の遮断であることが多い。H1受容体と親和性の高いミルタザピン、TCAs (イミプラミン、アミトリプチリンなど)、非定型であるオランザピンの副作用として代表的。
体重増加では、糖尿病リスクが最も怖い。糖尿病、肥満、脂質異常症、高血圧、心臓病の家族歴があればなおさら。
食事管理に加え、体重管理、運動、血圧測定、血糖値測定などで対応。
☆食事摂取のポイント
・タンパク質多め、炭水化物・脂質少なめ。カロリー少なめ。
・エネルギーは必要なので、炭水化物0はダメ。朝食で摂取。
・食物繊維は血糖値の上昇を緩やかにするため、野菜を優先的に。
・白米より食物繊維の多い雑穀や玄米も吉。
・間食や夜食は控える。
胃腸障害
セロトニンとノルアドレナリンの均衡が崩れることが原因とされている。
嘔吐はSSRIs (エスシタロプラム、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン) やSNRIs (デュロキセチン、ベンラファキシンなど) で高頻度。開始後1~2週間で改善することが多い。少量頻回食にすることや、薬を放出制御型にして食事と同時か1日1回夜に服用することが対策。
便秘は、適切な運動量、水分摂取、食物繊維の摂取などで対応。長期化するようであれば下剤の使用も検討。
下痢は、少量頻回食、水分摂取の他、カフェイン・アルコール・砂糖・スパイスの摂取を控えることで対応。
骨密度低下
骨密度低下のリスクは、SSRIs (エスシタロプラム、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン) 服用開始初期から上がり始め、8ヶ月以内でピーク、服用を止めると低下する。
運動の推奨、禁酒・禁煙の徹底などで対応。
(『調剤と情報』Vol.24 No.6 2018.4 臨時増刊号)
考察
● 嘔吐は、取り込まれなかったセロトニンがHT3受容体を刺激することと関係する?1-2週間で改善するのは体が薬に順応するため?
● 重篤な場合は点滴などの処置が必要かもしれないが、結局は不調だから、薬の副作用だからといって特別なことをするよりも、規則正しい生活、栄養バランスを考えた1日3回の食事、運動不足の解消など、生活習慣の改善が重要であり、それが疾患の治療だけでなく健康の維持にもつながっていく。
● 精神疾患は、自身で行動の制御ができず、生活習慣の改善に本人の理解が得られないことも多いため、家族やスタッフのサポートが必要なこともある。ただ、あまり禁止事項を増やしてしまうとストレスが溜まり、治療自体に消極的になってしまうことがあるため、どこまで介入するか (介入できるか) は難しいところ。