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【おはなし】 タイトル未⑧ 「歓談」

タイマンバトルを終えた夜のこと。

僕が寮の炊事場に行くと、茶髪とロン毛の2人組みが椅子に座ってお茶を飲んでいた。

「おー、こっちや」

茶髪が僕を見つけて声をかけてきた。

「あんた、まだ晩飯たべてないんやったら出かけよか」

「ぜひ。僕はまだこの辺に何があるのか分からないので助かります」

「ほな、行こか」

僕達3人組は夕食をたべに出かけた。

寮を出て駅とは反対方向に歩いていく。無口なロン毛は自分からは話しかけてこなかった。

商店街に出ると、僕達はメイン通りから一本道を外れた細い路地の中を歩いた。道を挟んだ左右には小さな飲み屋さんが軒を連ねる。僕達はどこにでもありそうな居酒屋さんに入った。

お店のマスターが座敷を案内してくれた。僕達は靴を脱いでたたみに座った。

注文を聞きにきた店員さんと茶髪は顔見知りみたいだ。生ビールを3杯注文をしてからメニューを開いた。

「よくあるふつうの居酒屋や。好きなもん食べたらええ。あんたの好みも分からんし、遠慮せんと注文してや」

「ふつうとは失礼しちゃうわね」

ビールを運んできた女の子がほっぺたを膨らませている。

「ほんまのこっちゃ。なにもバカにしてるわけちゃうしな」

「はいはい。こちらさんは?」

女の子は僕に視線を向ける。

「こいつは新入りや。これから何度か来るかもしれへんし、覚えといたってや」

僕は自己紹介をしようと息を吸い込んだ。その瞬間にロン毛が僕の頭をはたいた。

ピシャリ!

「いてっ。なんで?」

「余計なことを言わせないためだ」

ロン毛は僕をにらんでいる。自己紹介って、いつから秘密事項になったのだろう。

「ダメですよ。どこで誰が聞いてるか分かりませんからね」

女の子は人差し指を唇に当てた。僕も同じ仕草をマネした。

「料理やけどな、おまかせで3品持ってきてーや。それ食べてから追加で頼むわ」茶髪が女の子に告げた。

「そうやって、いつも私を試すんだから」

女の子は慣れた口調で返事をすると「ごゆっくりどうぞ」と言って厨房に入って行った。

「あかんで。あいつ、ワイのコレやさかい」茶髪は小指を立てた。

「さっさと乾杯のあいさつを言え」ロン毛が茶髪をにらむ。

「ほな、新入りとのチーム結成を祝って、かんぱーい!」

僕達はビールジョッキを「ガシャン」とぶつけた。



「ところで、ここはどこなんですか? 僕のいた街とはよく似ているけど、少しずつ何がか違っているんですよ」

僕はホッケの塩焼きを食べながら尋ねる。

「たとえば何や?」

「たとえば、パトカーです。白と黒の位置が逆でした」

「ほー、あれに気づいたわけやな」

「ええ、まあ」

「ワイはあんたより長くこの街におるから教えてあげれることもあるけどな、聞かん方がええんとちゃうかな。自分の目と足で確認すればええやん」

「そうなんですけどね、ちょっとくらいは教えてくれてもいいんじゃないですか?」

「そやな。じゃあ、大きな勘違いをせんようにひとつだけ教えといたる。ここは現実や。ゲームの世界でも小説の世界でもあらへん。あんたのいた街とは少し違ってるかもしれへんけど、ワイは人間やしこうして食べてクソして眠る。嫌なこともあるし嬉しいこともある。おわり」

「そっか、やっぱり現実なんですね。僕はちょっとだけゲームの世界に入っちゃったのかなって考えてました。ヘルメットに住んでるチップとか、審判のジャッジくんとかゲームっぽいから」

「あんたがどんな解釈をしてもええけど、現実は現実や」

「分かりました」

「ほな、簡単に自己紹介しよか。といってもホンマのことは全部いったらあかんで。隠しながら探っていくのがこの街の流行りやねん。お互いの呼び名やけどな、ここでは本名を名乗ったらあかん。どんな些細なこともできるだけ秘密にしとく方がええ」

「よくわかんなけど、オッケーです」

「ワイは『T2』。こいつは『S8』。あんたも数字とアルファベットをひとつずつ組み合わせて決めてくれたらええ。コードネームみたいなもんや」

数字とアルファベット・・・。

1  2  3  4  5  6  7  8  9

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「う〜ん・・・。じゃあ『N4』にする」

「よっしゃ、決まりやな」

「それで、僕達3人でチームを組んで何をするの?」

「ワイの冒険を手伝って欲しいんや」

「冒険? ゲームっぽいけど」

「ワイにとっての現実や。あんたにとってはゲームっぽかったら、ゲームと思ってくれても構へんけどな」

「どんな冒険なの?」

「ギューッとひとことでまとめるとな、ワイはマジシャンになりたいんや」

「ほへー、手品をするひとってこと?」

「まぁ近いな。手品とは少しちゃうけど、マジックをするひとやな」

「わかったよ。でもさ、僕は何を手伝えばいいのかな?」

「ワイはひとを欺くことを生業としてる。ええ風に言うとサプライズ好きの兄さんや。悪い風に言うと詐欺師や。どっちも紙一重でひっくり返ってしまう。そや、型について説明しとこか」

茶髪は刺身しょうゆを指につけると箸袋に記号を書いた。

「今の時点で分かってるのはな、世界には5つの型があるみたいや。そのうちの3つだけが判明してる。ワイがこの目で確かめたから間違いあらへん」

○ 直接型(パワー)
□ 遠距離型(テクニック)
▲ 変化型(幻想術)
? ??型(??)
? ??型(??)

5つの型(T2調べ)


「あんたは直接型と遠距離型の資質を持っとる。どちらも伸ばしてもええし、どっちかに特化してもええ。人間に両手があるみたいにな、ふたつのチカラを持てるんや。ワイはな、どっちも変化型にしたいんや。そうするとな、他の能力が弱くなる。だからワイの弱点をあんたに補って欲しいんや」

「なるほど」

「どの型を育てるかはあんたが決めたらええ。直接型のパワーも持てるし、遠距離型のテクニックも持てる」

「迷いますね」

「せやな。ワイも最初は迷ったわ」

2杯目のビールを飲んで茶髪はひといきついた。

「この世界はなんでもありや。どんな仮面を被るのも自由や。いつかは終わりが来るのは決まっとる。だから終わりが来るまではな、自分の思い通りの生き方をしたらええとワイは思うんや」

「そうですね」

「何を目指すかはあんた次第や。ワイとS8はマジシャンを目指してる。殺し方はひとそれぞれや。苦しむことなくあっちの世界に送ったるのが親切やと思うんや。だからワイはマジシャンとして奇術やトリッキーな技で殺しを行うんや」

「オマエは?」ロン毛が僕に尋ねる。

「僕もどうせ殺すのなら、あっさりと苦しむことなくあっちの世界に送り届けてあげたいと思います。だけど、少し違うかな。うまく言えなんですけど」

「この街に来たキッカケは?」

「テレビを見たんです。王様が困ってたんで助けてあげたくなりました。敵国に侵略されているのがムカムカしてきて。弱いものいじめみたいで嫌だったんです。だから僕は自分にできそうなことで何かないかなと考えたんです。そしたら武器を作るのが近道だと思ったんですよ」

「なるほどな。それも一理あるわな。でもな、どうせ武器を作るんやったら、あんたのオリジナルの武器を作ってな、例えばこの場所から王様を助けてあげたらええやん」

「ライフルみたいに?」

「そや」

「壁は?」

「すり抜けるんや」

「それ、いいかも」

「弾丸は何発かあってな、そのうちのひとつは、元気の出る粉というのもありやな」

「ありあり」

「遠くから相手を威嚇したり味方をサポートしたりするねん。いざとなったら接近戦でもジャマにならへん程度の活躍もできる遠隔戦士や」

「いい、それ、めっちゃいいです」

「やっぱ、あんたは直接型よりの遠距離型やな。ゴリラみたいにムキムキになって接近戦を得意とするタイプとは違うみたいや」

「ムキムキはいやです。すらっとした肉体がいい」

「ほな、遠距離メインで接近戦は合気道みたいに相手のチカラを利用して戦うスタイルがええんとちゃうかな」

「めっちゃいいですやん!」

「んでな、あんたの目的は何にする? ワイらは奇術や。トリッキーでいきたいねん。でもあんたはトリッキー100%ではしっくりけーへんやろ。でもな、ワイらとチーム組んでる間に奇術を学ぶのも悪くないよな。相手を欺くことができたらこっちが有利に進めれるんやから」

「そうですね、僕はトリックだけは物足りないので。でも、トリックの一部は食べたい。食べながら探すのもありですか?」

「ありありや。ワイらはそれでも助かるさかい。3人集まらんと入れへん部屋があるねん。だから仲間を探してる。そんなときにあんたに出会ったんや。チカラ貸してくれへんか?」

「はい、チカラになりたいです」

僕は店員さんにハイボールの濃いめを頼んでトイレに向かった。



「S8って無口なんだね?」

席に戻った僕はハイボールを飲みながらロン毛にたずねる。

「・・・」

「なんでか分かるか?」と茶髪が割り込む

「ぜんぜん分かんない」

「こいつはな、ワイの操り人形や」

「はぁ? またまた」

「ワイとこいつはいっつも同じときに存在してるやろ? そういうところに目をつけなあかん」

「えっ? ついていけないんだけど・・・」

「ワイも酔いが回ってきたわ。そういうことにしといたらええねん」

「わかったよ」

「ワイが言いたのはな、ある意味ではワイがあんたにマジックを教える先生でもある。その代わりあんたはワイを守って欲しい。お互いが先生でもあり生徒でもある関係性でいこうってことやん」

「了解」

「とりあえず、あんたは製造部と設計部をクリアして品管部隊に配属になることやな。ケガだけは気いつけや。あと2回で強制送還やからな(それもまた悪くはないんやけどな。今はまだ教えんとこ)。

「えっ?」

「なんもない」

「あら、楽しそうね。わたしも混ぜてくれないの?」

店員の女の子が食べ終えたお皿を下げにきた。

「あんたは脇役やから、名前もあらへん」

バッチーン!!

女の子は茶髪にビンタをして、ビールジョッキを下げていった。



つづく



はじまりは『地下道』だよ