【おはなし】 流れの職人さん
「白い布に包丁一本だけを包んでお店を渡り歩く料理人みたいだな。流れの職人といってな、むかしの日本では気難しい職人気質をつらぬく生き方が認められていたもんだ。おまえもせいぜい気張るんだな」
正月に顔を合わせた親戚の叔父さんが僕の暮らしぶりを聞きながら感想を述べた。
目の前の食卓には、百貨店で注文した三段重のおせち料理と、近所のお鮨屋さんが届けてくれた握り寿司を家族みんなで囲みながら話している。
「流れの職人さんもいいんですが、正社員として働いてくれませんかねぇ」
母親が