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短編小説 | 小説方程式

(1)抽象化する

 これだけ多くの小説が溢れているのだから、それを生み出す過程は、必ず一般化できるはずである。わたしはそう考えた。一作品ごとに頭をひねり、ああでもない、こうでもないと考えるのは愚かなことだ。

 代表的な、いわゆる「教養小説」を何作も読み、わたしはその抽象化を試みた。完璧に抽象化できれば、関数のように、変数に、ある言葉を代入すれば、ほしい小説がアウトプットできるだろう。量産も可能だ。

(2)図式化する

①まず、主人公Aがいる。そこへ敵Bが現れる。

A←→B (A vs B)

主人公Aは、このとき敵Bより弱い。
一度目は必ず主人公Aが負ける(挫折を経験)。そこで主人公Aは、鍛練に励む。
そして二度目の戦いに勝利する。
敗れたBは、Aの仲間になる。

②AとBは、結局、仲間になった。そこへ敵Cが現れる。

A&B←→C  (A&B vs C)

まず、AとBは力を合わせてCと戦う。
ここで、Aは仲間になったBを失う。必ずCにリベンジすることを誓う。
Cとの激戦の後、Aは勝利する。そして、敵であるCを仲間に加える。

以降、次のようにストーリーが進む。

A&C ←→ D

A&D ←→ F

A&F ←→ G
... ... ... ... ...

(3)

 わたしは、このようにして、物語の類型をまとめていった。
 物語の類型は、前述の「弱点克服型」のほか、元々のヒーローが敗れ、敵が改心して新たな主人公になる「アンチ・ヒーロー入れ替わり型」など、いくつかの雛型を作りあげることに成功した。

 わたしはこの「小説方程式」を用いて、次々と新作を発表していった。

(4) 

 しかし、わたしの小説は、ほとんど売れることはなかった。なにがいけなかったのか、わたしには分からない。また、根本から考え直す必要があるようだ。
 わたしは、小説を書くことなく、小説を生み出す方程式の精緻化に、ますます没頭していった。
 



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