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言語学を学ぶ⑤ | 生成文法、チョムスキー
序
シリーズ「言語学を学ぶ」。
今回は、不人気なシリーズながらも、第5回をむかえました。
誰も期待していないと思いつつ、納得のいくまで、このシリーズを続けたいと思います。
前回までの記事はこちら(↓)。
(1) チョムスキーとは
チョムスキーとは、現代における知の巨人である。政治的な発言も多いが、彼の専門は言語学である。
チョムスキーは、従来の言語学(「比較言語学」や「構造主義言語学」)とは異なり、演繹的なアプローチで言語の本質に迫るという「生成文法」を創始した偉大な言語学者である。
言語学を語る上で、欠かせない人物なので、私はチョムスキーの著作を何冊か読んだことがある。
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(福井直樹・辻子美保子[訳])
「生成文法の企て」
岩波現代文庫
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福井直樹・辻子美保子(訳)
「統辞理論の諸相」
岩波文庫
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「チョムスキー入門」
光文社新書
正直な感想を言えば、分かるような分からないような😊。なんだかなぁ、みたいな😄。
理論的に言語の本質に迫る言語学だということはわかる。しかし、「生成文法」を学んだからといって、英語その他の外国語を学ぶ上で、直接的に役に立つものではなさそうである。
例えば、英語の関係代名詞で、この文では「whoか?whoseか?whomか?」というような実践的なことを知りたいのならば、「生成文法」ではなく、「学校文法」を学ぶべきである。これは間違いない。
(2) 言語の脳科学
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「生成文法」は「得たいのしれないもの」というのが第一印象であり、私自身は、チョムスキー以前の言語学が好きである。
しかし、酒井邦嘉(著)「言語の脳科学」(中公新書)を読むと、脳科学的に「生成文法」は興味深いらしい。
どういう点で、脳科学的に生成文法が興味深いのかということを、前掲の「言語の脳科学」(pp91-123)を参考にしてまとめてみたいと思う。
(3) チョムスキー革命で変わったこと
酒井先生によれば、チョムスキー革命とは、科学におけるダーウィンの進化論と果たした役割が似ているという(前掲書pp.97-99)。
ダーウィン以前の生物学は、リンネ(『ホモ・サピエンス』の名付け親)の研究に代表されるように、生物をどのように「分類」したらよいか?、ということが研究の中心的なテーマだった。
チョムスキー以前の「比較言語学」も、さまざまな言語の系統を考察するという意味でリンネ的であった。
しかし、生物にしろ、言語にしろ、いくら系統や分類方法を考察したとしても、なぜこれほど多様な生物がいるのか?、なぜこれほど多様な言語があるのか?、という疑問に答えることができない。
ダーウィンは「進化」という概念で、生物の多様性を証明しようとした。チョムスキーの言語学は、「生成文法」という概念で、言語の多様性に迫ろうとするものである。
(4) 言語の多様性
ソシュールの言語学は、「単語」やそれを構成する「音素」に注目するものであったのに対して、チョムスキーが注目したのは、「文の構造」であった。
チョムスキーが示したのは、人間の言葉には、文の構造に一定の文法規則があり、それが多様に変形されうるということである。
(5) チョムスキーによる、言語の中心的問題
孫引きになるが(前掲書pp111-112)、チョムスキーの考える言語の中心的問題は、次の4つだという。
[問題1]
言語を話し理解することができるとき、私たちはどのような知識をもっているのか。[英語とかスペイン語とか日本語とかの言語を話す人間の心/脳の中には何があるのか]
[問題2]
この知識はどのようにして獲得されるのか。[この知識のシステムはどのようにして心/脳の中に形成されるのか]
[問題3]
この知識をどのようにして使用するのか。[この知識はどのようにして発話(あるいは筆記などの二次的なシステム)において使用されるのか]
[問題4]
この知識の表現、獲得、および使用に関する物理的なメカニズムは何であるのか。
(6) まとめ
難しいことは私には分からないのだが、簡単にいうとこういうことだと思う。
例えば、私は日本で生まれ育ったから「日本語」を話しているが、アメリカやイギリスで生まれ育っていたら、「英語」を話すようになっていただろう。ドイツに生まれていたら、私は「ドイツ語」を話すようになっていただろう。
しかし、私が猿に生まれていたとしたら、世界のどこに生まれようが、人間の言葉を話せるようにはならないだろう。
チョムスキーの研究とは、人間ならば生まれながらにして、言語を獲得できるような、(どの言語にも共通するような)「普遍的な文法」がインストールされていることを示す研究なのだろう。どのようなコンテンツがインストールされていれば、どの言語にも対応できるのだろうか?
もしかしたら、生成文法もやがて、ユーザーフレンドリーなものになるかもしれないことを期待しつつ、ここで、筆をおきます。
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