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「墓の魚」の【FADO ENTERRO】と、ポルトガルのファド考察
こんにちは。
「墓の魚」の作曲家です。
今日は「墓の魚」の音楽
【Chanson funéraire】の中でも、
重要な位置を占める
ファド【Fado】
というポルトガルの音楽
から生まれた
私達のオリジナルのファドである
【FADO ENTERRO】(ファド・エンテーホ)
の事を話していきたいと思います。
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/55832423/picture_pc_f9f79843f4660e6462b97fb92da62edb.jpg?width=1200)
ファドは、
ポルトガルの民族音楽
(あるいは大衆音楽)で、
人生の叙情、哀愁
を文学的に歌う音楽です。
ラテン文学的に語るのなら、
ファドは
喪失の歌
です。
人生の喪失・・
十字架に架けられた気高さの喪失・・
キリストの歩いた
喪失した道への追悼・・
詩の国ポルトガルの人々は、
もう帰る事の出来ない若き日々や、
海の向こうへの想いを
郷愁【saudade】
としてファドの中で歌います。
![画像9](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/55833477/picture_pc_711ef3fad28da0fbb20b6d2d59440784.png?width=1200)
一方、「墓の魚」のファドは、
それをさらにメメントモリ(墓想)に
特化させた哲学を歌う為、
【FADO ENTERRO】(埋葬のファド)
と作曲家(私)は呼び、
従来のファドとは別物としています
(実際、作曲技法的にも、
かなり別物となっています)
かつてフランドル地方に
果物や財宝の中に髑髏を置いた
静物画が流行った事があります。
それは
どんな栄光や、富も、
いずれは死に絶える。
全てが虚しいものである・・
という【VANITAS】(虚栄)のメッセージが
込められた絵画でしたが、
【FADO ENTERRO】もまた
音楽版の【VANITAS】であり、
[失われていく
あらゆるものの墓場の歌]
といえます。
![ハエの絵3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/55832857/picture_pc_051ab03ebcac7b836c009c16481b280f.jpg)
その朽ちて虫に喰われた人生【bichado】の
歌を伴奏するのが
ギターラ(ポルトガルギター)
と呼ばれる独特なギターで、
その悲しみ、哀愁を奏でる音は、
他の楽器では代用できません。
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/55829719/picture_pc_9b11873799451cc781d793038b2deb4b.jpg?width=1200)
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/55829170/picture_pc_336a8066d9a1534f8f8d556cf47adbfe.jpg?width=1200)
そして、ファドの歌手は、
Scutus(スカシ貝)の外套膜の様な
黒いマントンに身を包み、
ファドを歌います。
![CD写真16](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/55829248/picture_pc_3e80e480c122b1c37f5a4e7d642cad28.jpg?width=1200)
シェイクスピアや、ゲーテ、ベケット
等に影響を受けながらも、
あくまでその本筋を
イベリア精神
に求める
作曲家・黒実音子の本質は、
[捨てられた聖書の物語]
[ゴミ捨て場の信仰]
[魔女と聖者の悲喜劇]
という南欧でよく題材にされる
宗教的なテーマを内包しています。
わかりにくく、
難しくなってきましたね(笑)
つまり、それは
マックス・ジャコブの詩
【La mendiante de Naples】の様な
[魂の影]の表現として
黒実の作品の中に現れるのです。
以下、
マックス・ジャコブ
の詩を
見てみましょう。
【La mendiante de Naples】
Quand j’habitais Naples, il y avait à la porte de mon palais une mendiante à laquelle je jetais des pièces de monnaie avant de monter en voiture.
Un jour, surpris de n’avoir jamais de remerciements, je regardais la mendiante.
Or, comme je regardais, je vis que ce que j’avais pris pour une mendiante, c’était une caisse de bois peinte en vert qui contenait de la terre rouge et quelques bananes à demi pourries.
![画像8](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/55832922/picture_pc_cd9eda883be5f223359dd84c4ae28b6b.jpg?width=1200)
【訳】
「私がナポリに住んでいた時、
我が屋敷の門前にいつも物乞いの女がいた。
私はいつも馬車に乗る前に、
女に硬貨を投げ入れてやったものだ。
ある日、ふと老女が何も言わない事を不思議に思い、
その女をよく見てみると、
物乞い女だと思っていたものは実は、
いくらかの赤い土と、腐りかけたバナナの皮がつまった
緑色の木箱だという事が、まさにこの時にわかった。」
■マックス・ジャコブ「ナポリの女乞食」
この詩の
[面白さ]
を人に伝えていくのは、
なかなか難しい事です。
この詩には、
この世など
一歩間違えれば
虚妄分別そのものであり、
そもそも我々の人生そのものが
可笑しな虚妄なのではないか?
というテーマがあります。
![画像10](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/55833532/picture_pc_ad3c3a9fd2d8d495ba2a10861e674dee.jpg)
そして、
世界から捨てられた哀れな場所に、
同じく
捨てられた哀れな者の幻影を見る
事の
ヴァニタス(世の虚しさ)的な叙情が
この作品にはあると思います。
また、ゴミ捨て場に
哀れな物乞いの幻想
を見る現象は、
我々が
捨て去った己の惨めさ
に対する
[後ろめたさ]
を持っている為・・
と考える事もできます。
自分より哀れな存在(物乞いの老婆)を見て、
彼女に投げ銭を与えていた作者は、
彼女の中に
自分の敗北した姿
を見たのかもしれない。
そして、己の今の姿に安堵し、
自分が、
[その敗者の幕屋に行く事は
もはや無い]
という
保証を無意識に
欲したのではないでしょうか?
![](https://assets.st-note.com/img/1697680460245-uFMmqTliDu.jpg?width=1200)
それは、
俗世の社会の見せる
安泰の幻に縋りつく
よくある行為であり、
「私は死にゆく・・
富も名誉も、
もはや意味はない」
という中世の
ヴァド・モリ【Vado mori】
の警句の
逆バージョンなわけです。
(同テーマは有名なタンゴの曲
「Vieja Recoba」にも
見る事が出来るかもしれません)。
そう考えると、
投げ銭は
自分が行く場所であったかもしれなかった
[この世の哀れな場所]
への
[生き足掻く者]からの
供養、贄
でもあるのですね。
こういった[自分の人生の影]への扱いは、
中世ヨーロッパ世界での
死の扱い、
魔性の扱いと少し似ています。
こうした
魂の暗闇【Noche oscura del alma】
のテーマが、
大衆達が詩心を理解する
ラテン諸国の芸術には
日常の中に溢れているのです。
![](https://assets.st-note.com/img/1697680512860-syNit9s0iS.jpg?width=1200)
日本ではほとんど紹介されない、
この
「十字架の下で行われる
魂の闇夜【Noche oscura del alma】
すなわち、
悲しみながら皮肉に笑う人達の演劇」
を「墓の魚」の作品の中で
ぜひ、覗いていただけたらと思います。
「墓の魚」オーケストラの
映画の様な配信コンサート・第一弾
スペインの魔女達、南米の迷信、
熱帯雨林の夢、独裁政権と社会主義など、
様々なテーマが入り乱れる音楽で奏でる幻想文学
「死んだ珪藻とマキシロポーダのミサ」
こちらで公開中です↓↓↓
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![墓想の作曲家による海洋生物の死のオーケストラ「墓の魚」記事](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/61141580/profile_805d2346efb44814dd4a6fcd79164c80.jpg?width=600&crop=1:1,smart)