花びら餅
お先に。
と、次客へ礼をする。
茶を点てた亭主を向き、
お点前頂戴致します。
と、言って茶を飲む。
お服加減は。
と、亭主が質問してくるので、
大変結構でございます、
と、片手をついて応える。
数年前から茶道をしている。
今はこういう時期なので、遠慮しているが、一応茶道をしている。
ちなみに裏千家である。
茶道は季節感を大事にする。夏のある時期には、お水を入れる容れ物の蓋を里芋の葉っぱにしたりして、蓋の表面に転がる水滴から涼をとる。冬場はお湯の入った茶釜を客に近づける。暖まるように。道具や距離感で、季節を作る。そして、お菓子でも。
1月には、花びら餅というお菓子が出る。
ゴボウと白あんを、桜色の求肥で包んだお菓子。各和菓子店によってごぼうの処理が違う。味噌で煮込むところもあれば、だし汁で煮るところもある。
お菓子で花びら餅が出てきたとき、
ゴボウと白あん?!!!
いや、その組み合わせの必要性あんの?!
と、虫けらを見るような目で花びら餅を見つめた。
表向きは可愛い。でも、ごぼうがはみ出ている。よく、小学校の体育の時間、僕たち男子は金玉はみ出ていたが、それぐらい場違いなものがはみ出ている。桜色の綺麗な求肥から土色のごぼうが(金玉はみ出てるとか記載してごめんなさい。いつも素敵な記事を書いているあの人やあの人が見ているかと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいです縮み上がります。金玉だけに。)はみ出ている。
茶道では、先にお菓子を食べ、その後に茶を飲む。
初めての花びら餅。
どんな味なんだろう。
お箸で花びら餅を、懐紙に移す。
花びら餅を口に含む。
あっ 春だ。
と、思った。
ごぼうから、土の香りがする。
暖かな春の日の花見。土の上にシートを広げてみんなで座って、土の香りがする。
あんの甘みが広がって、気のせいだけど、桜の花びらの香りがする。
あっ 春だ。
と、思った。
冬は、食べ物がない。
いぶりがっこや、漬物や、干し柿や、五平餅や、きりたんぽで冬を凌いできた人々は、七草やタラの芽やこごみで春を感じる。春になれば、青菜や野菜や、獣たちが土の上に出てくる。耐え忍ぶ冬が終わる。
柔らかな土の香りのする花びら餅は、
その象徴だ。
冬を越えるって、大変だった。雪の下にすべて沈み、木ノ実も野菜も獣もない。多分、冬で死ぬ家族もいたんだと思う。だから、僕たちは春を祝った。まだまだ寒い正月を新春と祝った。花見の季節には、田んぼのそばの桜の木で稲の豊作の予祝をした。それが花見だと、そう思う。
そして、春は、命の季節だと、そう思う。
僕らの先祖が、胸をなでおろした季節。
それが春。
それが、花びら餅だと、
花びら餅を食べて僕はそう思って、
ほんの少し涙ぐんだ。
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