【福島浪江訪問インタビュー】 地域の新たな足へ ~日産自動車株式会社 宮下 直樹さん~
プロジェクトデザイン研究室・災害復興チームは被災地を自分の目でみて体験するプロジェクトの一環として、2022年7月8日・9日に東日本大震災の被災地である福島県浪江町を訪ねました。
日産自動車株式会社 総合研究所 モビリティ&AI研究所 主管研究員 宮下 直樹さんは3年前からモビリティサービスと、昨年からまちづくりに参入しました。今年から本格的にはじまったスマートモビリティのサービスとそれに伴うまちづくりについて伺いました。
ーーーー今回は、浪江で行っているスマートモビリティについて広くお話しを伺えたらと思っています。早速ですが、スマートモビリティを始めるにあたった経緯について教えていただけますか?ーーーー
・スマートモビリティの経緯
宮下:浪江町の居住人口はかつて20000人ほどいたが、住民人口は現在1800人ほどにまで縮小しています。それでも関係人口や交流人口を含めると多くて1万人から少なくとも5000人以上は市内にいると感じています。
国からは過疎地認定をされていますが、世界視点でいう発展途上国のような地域で、今後盛り上がっていく地域ではあると考えています。
避難解除後5年が経ち、スーパーや病院、観光、鉄道などの生活のインフラは整いつつあるが、タクシーは町で1台で夕方ごろには止まってしまい、路線バスも住民が求めるような場所ではあまり使えないので住民の方が使える公共交通機関はほとんどないといってもいい状態になっている。唯一街中の二次交通が脆弱なのが現状となっています。そのような背景から2次交通として、スマートモビリティを発案しました。
日産「福島県浪江町でのモビリティ・エネルギーによるまちづくり貢献」
・スマートモビリティについて
宮下:特徴としては、スマートフォンを使って呼べるタクシーであるということ。
街にはお年寄りの方が多いのでそういった方でも使えるように、インターフェースを作り上げました。スマートフォン以外でもデジタル停留所といった7つのサイネージを街中の主要拠点に確保しており、事前登録もなしに誰でも使えるといった環境も整えています。
ただ高齢者のためだけでなく、街にいる人みんなに使ってもらいたい。そういう気持ちで進めています。
現在運用している範囲としては浪江町全域で、日曜日以外は運行しています。木金土は夜間の21:30まで利用することができます。夜間運行をしている理由としては、もともと原発関係者のために飲食は盛んであった浪江を飲食を中心に復興していきたいと考えたためであり、21:30も飲食店の終わりの時間に合わせた上での設定です。
ーーーースマモビの相乗りはできるのですか?ーーーー
宮下:毎朝通勤の時間とかは利用者が多いので、相乗りになることは今も結構あります。
ーーーー高齢者はデジタル技術に疎いという課題があると思ったのですが、どう解決しましたか?ーーーー
宮下:高齢者がデジタルに疎いっていうのは思い込みです。
今の人はLINEも使えるし、簡単なアプリぐらいならすぐに使えます。使い始めが難しいだけで最初の設定をさせていただいて、使い方を丁寧にお教えすればあとは大丈夫です。
・はじめての実証実験
去年は実証実験を3ヶ月ほど実施しました。最初の頃は認知度なかったがために、1日15回の配車で止まっていたが、最終的には1日60回に膨らむほどの利用がありました。月では1000人ほどの利用です。スマモビ以外の交通として町営のデマンドタクシーが既存の交通としてはありましたが、スマモビの実証期間と同時期にも町営タクシーの利用者は変わらなかったデータが出ています。食いつぶしのような形にはならず、新たな移動需要を確保することができていると考えます。
ーーーーユーザーはどのような方に使われることが多いですか?年代なども聞きたいです。ーーーー
宮下:スマモビの中心ユーザーは通勤のために使う40代女性が一番で、続く年齢層としては、70代男性、40代男性でした。
ーーーー利用された方からはどんな声が多かったですか?ーーーー
宮下:とにかく便利、時間に正確と言う意見が多かった。
雪の日もスマモビを使えば、車の雪かきをせずに車を使えるのが便利という声もありました。
・スマートモビリティの目的
宮下:ただ単に地域の方のための交通手段を作るだけではなく、モビリティとともに生活の幅が広がることによるQOLの向上を目指しています。
住民の方から、10kmジョギングしていた人が今までは行き5km、帰り5kmの道を走っていたところを行きに10km走り、帰りはスマモビで帰るという風に切り替えたことで今ままで走ったことのない道や場所まで行けるようになったという声も頂いており、モビリティによって生活の仕方を変化させることもできると感じました。
スマートモビリティの使い方は人それぞれ、自分だけの使い方を見つけてもらいたいです。
・スマートモビリティの転用
宮下:先ほどまでは人の流れについてでしたが、他分野での利用も考えています。田舎の公共交通では、デマンドタクシーはどう考えても赤字になってしまいます。持続可能な公共交通にするための工夫にはさまざまな分野との連携が必要になります。
VR空間上で実際の店の商品棚を見ながら新鮮な魚や野菜などの地域のものが買い物できる「バーチャル商店街サービス」で、お客さんの少ないお昼の時間帯を活用した宅配サービスを行っています。これによって、お仕事で出かけられない時でも買い物をすることができるようになり、なおかつスマートモビリティも有効活用でき、持続可能なモビリティとして活用できます。
・スマートモビリティとまちづくり
宮下:他にも、「新町賑わいマーケット」のイベントでは街中に会場を分散させており、その会場同士をつなぐ手段としてスマートモビリティを運用しました。3月のイベント期間中では1日に99回もの稼働があり、街の活動が活発になると人の往来も多くなるということが感じられました。またそのマーケットは「バーガー片手に気軽に街について話しましょう」という意味の「バーガー会議」というので企画しました。地元で活動する人を中心に集まり、まちを明るくするためのイベントやアイデアの会議を行い、今後の浪江をどうしていきたいかについて地元の小中学生から大人、専門家も交え、話しあいました。
その会場として地元の人と交流が根付くための拠点、リビングラボとして地域デザインセンターが機能しました。スマートモビリティの拠点でもあり、スマートモビリティ運用への地元の方の意見やスマートモビリティに関すること以外でも地域の方の声を吸い上げる場所、道の駅以外にも人が集う場所であります。ここでは最近の軽い相談であったり、訪れた方で同じ声を持つ方同士をつなげたり、地元の方とそれに対する専門家をつなげたりすることができるような体制を整え、これからのまちづくりのための基盤、地域のコミュニティ形成の場所としても機能しうる場所と考えています。
ーーーースマートモビリティによってどんな影響をまちづくりにもたらすとお考えですか?ーーーー
宮下:まず自家用車が増え続けることの影響としては、アクセスのしやすい国道沿いなどのチェーン店に人が流れ続けるというのが考えられます。そうなった時に、通りから一本入ったような商店街や人と人との距離感が近い商店が潰れゆく可能性があります。しかし、そんな町ではどこも一緒の町にしかなりません。地域の特性を残していくためには近い距離感の商業を残していくことが大切になってきます。その時の手段として「歩くこと」というのはとても重要な要素になってくると考えています。そうなった時にスマートモビリティのできることは、お店の近くまではスマモビに乗り、お店までの道のりは歩くといった、上手なスマモビの活用によって商店街の活性化にもつながると考えています。
・スマートモビリティの将来
宮下:現在は実験期間ということで無料で運用していますが、将来的には運賃がいただけるようなサービス化や事業自体も地元の事業者の方に委任し、浪江だけでなく他のエリアへの自由な移動を可能にするための既存の交通形態との関わり合いも深めていくことを目指していきたいと思います。
ーーーー有料化した時の形態はどうなるのでしょうか?ーーーー
宮下:バスのように毎回支払っていただく方法や、サブスクでの運用などを検討しています。サブスクのメリットとしては、お客さんにどんどん利用してもらえること。デメリットとしては、供給が追いつかなくなる可能性もあるので、そこに関しても今後考えていく必要はあります。
ーーーー現在もモビリティの運転手は足りているのか、また今後どのように確保するとお考えですか?ーーーー
宮下:まだ顕在化はしていないが今後重要な問題になるとは考えています。
人材不足は自動運転ということも考えているけど、浪江は狭い道も含め網の目のように細かくたくさん道があるのでなかなか難しいのと、法律整備がいまだ完了していないためにまだ実用化することはできないですが、将来的には実用化され、地域に合わせた形で導入されると思います。
ーーーー今後のまちづくりのイメージはありますかーーーー
宮下:道の駅を中心に浪江町はにぎわいを取り戻していますが、新しい人を集めるきっかけを作ってもそれを常態化させるっていうのはなかなか難しいと思います。そうなった時、元々あったものを復活させるのが一番住民にとってもわかりやすいと思います。モビリティでやりやすいというのもありますが、今まで盛んであった飲食を1つのきっかけにしていきたいです。住みやすい地域とし、そして産業や観光ともつながり、町を発展させていきたいという思いがあります。
ーーーーモビリティとまちづくりの掛け合わせがもたらす浪江の今後のまちが楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました。ーーーー
インタビュー:渡邉、岡田、佐藤、宍戸、狩野、高田
文章:岡田、佐藤(M1)