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「大学教授のように小説を読む方法」~読解を深めるための2つの鍵とは?~【書評】
時が経ってから、同じ小説を読み直す場合があります。以前とは違った感想を抱くのは、経験や知識の集積が「読み」を深めているからでしょう。内面の豊かさが、新しい解釈を紡ぎだすのです。読みの深化を「時」に委ねるのもいいのですが、この本で紹介する方法(コツ)を身につけるならば、もっと文学の読みが加速されると思います。「読解のコツ」は以下の2つです。
1. 古典文学の素養
著者であるフォスター教授が推奨する古典文学は「聖書」「ギリシャ・ローマ神話」「シェークスピア」「おとぎ話」「アーサー王伝説」などです。本書が英米文学を対象にしているからです。
これらの作品は、西洋文学の土台となるもので、多くの小説で引用やモチーフとして使われています。古典文学に精通することで、作者が作品に込めた意図やメッセージをより深く理解することができるのです。
訳者も指摘しているのですが、『老人と海』のサンチャゴ老人がキリストの見立てだと言われても、首を傾げたくなるでしょう。また、スタインベックの『エデンの東』が、旧約聖書を下敷きにした小説だと説明されても、聖書の知識に疎い人々には理解できないと思います。
2. シンボルの解読
小説の中で語られる人物像やシチュエーション(状況)だけでなく、季節、天気、地理、病気など、あらゆる事柄が象徴性を帯びていると著者は言うのです。
例えば、水から浮かび上がったら「再生」を意味しているとか、登場人物を南に行かせるのは、自制心を失わせるためだとか、示唆に富む事例が語られています。こうしたシンボルを解読することで、作品に隠されたメッセージを読み取ることができるのです。
以上のコツを身につければ、「大学教授のように小説が読める」かは疑わしいと思います。
最も重要なのは、想像力です。
「古典文学の素養」や「シンボルの解読」は読解のためのツール(道具)にはなります。しかし、それらを生かすためには「想像力」が必要になるのです。まるで関係のない事柄同士を結びつける、「補助線」のような役割を果たすのが想像力だからです。
著者は小説だけでなく、映画にも言及していますが、「読解のコツ」は私達の人生にも応用できると思います。なぜなら、人生もまた一冊の書物と言えるからです。
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