53 大人のポジティブが子どもに与えるポジティブな影響 - ネガティブバイアスの仕組みと歴史的背景から考える-
私たちが日々何気なく持っている「ネガティブに注目しやすい傾向」は、脳の特性である**「ネガティブバイアス」**に由来します。このネガティブバイアスは、脳の仕組みとともに、私たちの進化の歴史を背景に形成されてきたものです。親が子どもの「できなかった部分」に目を向けすぎてしまうのも、こうした脳の性質が影響しています。
しかし、親が意識的にリフレーミングを実践することで、このネガティブな特性を乗り越え、子ども自身がポジティブに物事を捉え、自己肯定感を高めていく力を育むことができます。この記事では、ネガティブバイアスの背景と、親子のリフレーミングの実践方法について解説します。
1. ネガティブバイアスとは? - 人類の進化と脳の特性-
(1) ネガティブバイアスの歴史的背景
ネガティブバイアスは、私たち人間が進化の過程で身につけた「生存のための防御機能」です。私たちの祖先が狩猟採集をしていた時代、**「危険に早く気づき、それを回避する能力」**が生存に直結していました。
• 危険を優先的に認識する必要性
たとえば、茂みの中で音がしたとき、「風の音かな?」と楽観的に捉えるのではなく、「捕食者がいるかもしれない」と即座に反応できる方が生存率が高かったのです。このように、脳はポジティブな情報よりもネガティブな情報を優先的に処理するよう進化しました。
• 失敗や危険の記憶の優先保存
同様に、危険な体験を深く記憶することで、次に同じ失敗を繰り返さないようにする機能も発達しました。たとえば、「この果実を食べたら毒だった」という経験は、命を守るために強く記憶される必要があったのです。
• 狩猟採集時代の「学び」
当時の人々は、ポジティブな成果(食べ物を得るなど)よりも、ネガティブな失敗(毒の果実、捕食者)からの学びが、生存戦略としてはるかに重要でした。この特性が現代の私たちにも引き継がれているのです。
(2) ネガティブバイアスと現代の脳
現代社会では、私たちはもはや捕食者に追われることはありませんが、脳の仕組みは変わらず、ネガティブな情報や出来事に過敏に反応する性質を持ち続けています。
• 扁桃体の働き
脳の扁桃体は、ネガティブな刺激(失敗や批判など)に強く反応します。この反応によってストレスホルモンであるコルチゾールが分泌され、体は「闘争・逃走モード」に入ります。
• 記憶の偏り
ネガティブな出来事は、ポジティブな出来事よりも深く記憶され、私たちの行動や考え方に長期的な影響を与えます。親からの批判も、子どもの心に深く刻まれる要因となります。
2. 親が陥りやすいネガティブバイアスの影響
(1) 子どもの「できない部分」に目が行く親の心理
• 親もまたネガティブバイアスを持っているため、ついテストの点数や結果において、子どもの「できなかった部分」や「間違った部分」にばかり注目してしまいます。
• 例:「どうしてこんな低い点数なの?」「勉強したのに、どうしてここを間違えたの?」
(2) 子どもに与える影響
• 親の批判や指摘の言葉は、子どもの扁桃体を刺激し、ストレスホルモン(コルチゾール)を増加させます。
• 子どもは親の言葉をそのまま内面化し、自分の「できない部分」ばかりを責めるようになります。これが繰り返されると、自己肯定感が低下し、挑戦を恐れる傾向が強まります。
3. 親がリフレーミングを実践する重要性
親が自分のネガティブバイアスを意識的にコントロールし、リフレーミングを実践することで、子どもに以下のポジティブな変化をもたらすことができます。
(1) できた部分に注目する
親が子どもの「できた部分」を具体的に見つけ、それを伝えることで、子どもは「自分にも良いところがある」と感じられるようになります。
• 例:「今回は計算問題が全部正解だったね!前よりずっと上手くなってるよ。」
(2) 子どもにポジティブな視点を教える
親のリフレーミングを繰り返し見聞きすることで、子どもも自然とポジティブな視点を持つ習慣が身につきます。
• 例:「苦手な漢字は今回は覚えきれなかったけど、次回ここを練習すれば絶対に良くなるね。」
(3) 子どもが自分自身をリフレーミングできるようになる
親がリフレーミングを続けていると、最終的には子ども自身が「失敗やできないこと」をポジティブに捉え直す力を身につけます。
• 子どもの例:
「今回のテストは80点だったけど、前回は70点だったから少し成長できてる。次は漢字を重点的に練習してみよう!」
4. 親子でリフレーミングを実践する具体例
(1) 結果ではなくプロセスを褒める
• 親の言葉:「今回の勉強、毎日30分頑張ってたね。その努力がしっかり結果に出てるよ!」
• 効果: 子どもが自分の努力を認識し、継続する意欲が高まります。
(2) 失敗を成長の材料にする
• 親の言葉:「今回は苦手な部分が分かったから、次に練習する目標が見つかったね。」
• 効果: 失敗が「成長のためのヒント」として捉えられるようになります。
(3) 成功体験を振り返る
• 親の言葉:「計算問題が完璧だったのは、コツコツ練習したからだね。次も同じやり方を続けてみようか!」
• 効果: 子どもが成功のパターンを学習し、自信を持てるようになります。
5. まとめ:親のリフレーミングが子どもの未来を作る
ネガティブバイアスは進化の過程で私たちに備わった自然な脳の特性ですが、これを放置すると、子どもの自己評価や成長を妨げる原因になります。親がリフレーミングを意識して実践することで、子どもは「できる部分」に注目し、自分自身でポジティブな思考を育てる力を得ることができます。
• 親がリフレーミングをモデルとして示す
• できた部分を褒めて成功体験を強化する
• 失敗を成長の材料にリフレームする
• 子どもが自分自身をリフレーミングできる力を育む
こうした習慣を親子で実践することで、子どもは人生の中で起こる困難を前向きに捉え、乗り越える力を身につけていくでしょう。親のリフレーミングが、子どもの未来を輝かせる大きな一歩になるのです。