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道化に拍手を。できれば花を。

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就職浪人大里君と山形に住む水島さんのなんともヘンテコな話
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#金沢

闇に泳ぐ金魚-金沢小風景⑤-

大学の掲示板に「加賀友禅灯ろう流し」のポスターが貼られてあった。普段は興味がなく見過ごす私が今年は行ってみようと決意したのは掲示板で水島さんと友人の真瀬さんが行こうとしているのを偶然聞いてしまったからである。しかも2人は浴衣を着ていくという。灯ろうが浅野川を流れていく幻想的な光景とそれを見つめる浴衣姿の水島さん…行かない理由を見つけるのが難しいではないか!私は2人に気付かれぬようゆっくり後ずさりし

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迷走金沢人生の袋小路-金魚売り捜索編-

少し前、金沢のPRポスターの文言は「奥が深くて迷ってござる」だった。この文言通り私は絶賛迷走中だった。新卒という黄金切符を歩いているうちにどこかに落とし、第二新卒という銀色切符の半ばが燃えカスとなっているのを漫然と見つめいてる。しかも明日、水島さんが金沢に遊びに来るらしい。私は部屋にだらりと寝そべり水島さんを如何にして喜ばすか考えていた。金は無い。吉報も無い。このままでは金沢に来るのを楽しみにして

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迷走金沢人生の袋小路-闇夜の金魚釣り編-

空を泳ぐ金魚は金沢大学近くの山の頂にあるらしい。ここは綺麗な星空が見える金沢市民ならば誰でも知る有名なデートスポットである。オンボロの軽トラをガタガタ揺らし山頂に着くと随分と綺麗な星空が広がっている。満天とはこういう空のことをいうのだろう。

金魚屋のオヤジは釣り竿とバケツを軽トラから取り出し崖にドカリと腰掛け「釣るぞぉ」と言うので私は自分の釣り竿とバケツを用意しオヤジの隣に座った。竿の先には糸が

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印象 金沢 昼

〔水島京子〕

山形から金沢までは5時間位でしょうか。最近は新幹線が走るようになってこれでも随分近くなった気がします。朝早く自宅を出発して着いたのは昼過ぎでした。4か月ぶりの金沢はさほど時間が経ってないにもかかわらず別の街になったような気持ちになりました。学生時代よく行った店は閉店しその場所に新たな店が生まれていることに驚くばかりです。

駅に着くと片町までのバスに乗りました。目的は犀川堂へ行くこ

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印象 金沢 夜

〔大里征二〕

 少しの睡眠のつもりだった。一晩金魚を釣り続けて明け方に自宅に戻り布団に横たわると糸が切れたように意識が無くなった。そして、気が付くと夕方だった。最初は明け方だと思っていたが、携帯を見ると18時でメールが1件届いている。水島さんからだった。急いで開くと犀川堂の前で可愛らしい女の子と写った画像と共に「金沢に着きました。今、犀川堂です。隣はアルバイトの笠井さん」と書いてある。私はガバと

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闇に泳ぐ金魚 再び

メールを送っても返って来なかったので大里君とは会えないと思っていました。金沢の夕景を犀川大橋からボォーっと眺めていたら聞き覚えのある声がしました。声の方を見ると汗だくの大里君が立ってました。大里君の手には透明なビニール袋がぶら下がっていて、よく見ると袋の中には金魚が一匹入っています。金魚すくいでもしてきたのでしょうか。大里君がペコリと頭を下げて私も同じくペコリと頭を下げるとなんだか可笑しくなって笑

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故郷へ帰るよ

生まれ故郷が故郷とは必ずしも限りません。金沢を離れて数年経ち生まれ故郷で暮らしていましたが私の心にあるのはいつも金沢でした。

「金沢は歴史のある街だから時間が経っても変わらず残っている。だからどれだけ時間がかかっても帰って来れるよ。僕は気長に待っている」

あなたは手紙にそう書いていました。でも、時間が経てば経つほどあの街への思いが募るばかりです。気がつけば一切合切捨てて、できたばかりの新幹線に

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植物の図鑑‐カリガ版‐

〈325ページ「ヒヤシンス」〉

4月某日。

いつものように何をするでもなく部屋でウダウダと空虚な時間を消費していたら水島さんからメールが届いた。彼女が金沢に戻って来るという。あまりの突然の話に携帯がつるりと手から滑り足の小指に衝突してもんどりうった。

急いで支度をしてバスに飛び乗り金沢駅へ向かう。観光シーズンにはまだ早いけれど駅は十分すぎるほど込み合っていた。私は大勢の人から彼女を探すが上手

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