迷走金沢人生の袋小路-金魚売り捜索編-

少し前、金沢のPRポスターの文言は「奥が深くて迷ってござる」だった。この文言通り私は絶賛迷走中だった。新卒という黄金切符を歩いているうちにどこかに落とし、第二新卒という銀色切符の半ばが燃えカスとなっているのを漫然と見つめいてる。しかも明日、水島さんが金沢に遊びに来るらしい。私は部屋にだらりと寝そべり水島さんを如何にして喜ばすか考えていた。金は無い。吉報も無い。このままでは金沢に来るのを楽しみにしている彼女を失望させてしまう。眉間に皺を寄せ脂汗が出るくらい考えていたら以前彼女と見た空飛ぶ金魚のことを思い出した。信じられないかもしれないが、ある金魚売りが売っている金魚は空に放つと空を泳ぐのだ。あの光景をもう一度水島さんと2人で見たい。そう考えると居ても立っても居られなくなり部屋を飛び出した。

あの金魚売りは灯ろう流しの日、浅野川で金魚を売っていたからあの近辺にいるかもしれない。私は浅野川大橋や主計町をウロウロしてみたが全く手がかりが無い。いつの間にか夕暮れになり芸者さんが三味線の練習する音が聞こえてきた。私はその音色にしばし立ち止まった。いや、立ち止まっている場合じゃない。走れ俺!しかし、いくらがむしゃらに走ろうが金魚売りは見つからない。諦めかけてトボトボ橋場町の裏路地を歩いていると今にも潰れそうな町屋から男が出てきた。あの金魚売りのオヤジだ!私が声をかけるとオヤジは「ああ、いつぞやの」とボンヤリと言った。どうやら私を覚えているらしい。これなら話は早い。私はオヤジに事情を話すと「あーそれならこれから金魚を釣りに行くから一緒に来るかい」と言うので私は二つ返事でお願いした。

「よし、じゃあ乗れよ」オヤジはボロい軽トラックに荷物を積んで乗り込んだ。私も喜び勇んで助手席のドアを開ける。軽トラは断末魔みたいなエンジン音を上げ動き出した。

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