カリガ
昭和7年に実際に起こった強盗殺人事件を再構成しました
金沢は決して奥の奥を見せない。ほんの少しだけ覗かせるだけである。
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金沢ハ美シイダケニ非ズ。不思議ナ街デアル。
物語の舞台裏をご紹介
長太逮捕顛末 時刻は23時を過ぎていました。赤湯の温泉街から聞こえるはずの芸者の歌も止み賑やかだった温泉街も静まりかえりつつありました。暗がりを引き裂くように赤湯警察署の自動車が走ります。行き先は柴田長太の家です。新聞には連日、渡辺高蔵検挙の報道が載っており、万が一長太がこの記事を目にするもしくは知人からこの情報を聞いたとするならば自分に警察の手が伸びるのも時間の問題と思うでしょう。そうなれば逃亡されてしまう。警察には一刻の猶予もありませんでした。 長太の家に着いた警察は愕然
事件は動き出す 昭和7年11月12日未明。 自宅で寝ている高蔵夫婦を警察は逮捕しました。警察の厳しい追及に最初はのらりくらりしていた高蔵でしたがさすがに耐えきれず15日夜に犯行を自供し始めました。 「いろいろとお手数をかけましたが、実は見知らぬ男から依頼されて伴蔵の死体を焼きました。その男は殺す気じゃなかったが、喧嘩から殺したような次第でして、何とも困るからそーっと焼いてくれとて無理矢理56円の金を掴まされました。その日は12月26日あたりで、男に依頼された場所は八幡様の前で
証拠は納骨堂にあり 容疑者に目星がついたものの肝心の伴蔵が見つからない。しかしながら菅原刑事の聞き込みから火葬場に何か秘密があるに違いない。捜査陣は色めき立ちました。火葬場には納骨堂があり、通常火葬した引き取り手のない遺骨はそこに入れられます。 納骨堂は八幡神社裏山の谷間にありました。捜査陣はそこへ向かい扉を開けました。 幅1.8m、深さ3mの広さの骨穴を覗くと大正14年の建立以来9年の間に放り込まれた無縁仏の骨が半ばまで埋め尽くされていました。さらに地中から湧き出た水が鼻
進藤部長刑事が大きな手がかりを手に入れた同時期に菅原刑事も有力な聞き込み情報を持ってきました。ここでもう1人の容疑者が登場します。隠亡の渡辺高蔵です。この高蔵、以前伴蔵の交際関係でちらとご紹介しましたが、彼は役場の汚物掃除夫兼火葬夫で俗称隠坊(おんぼう)という仕事をしていました。人嫌いと言ってもいい伴蔵ではありますが、この高蔵とは仲が良かったらしく毎日のようにお互い行き来していました。そんなにも仲が良かった伴蔵が行方知れずであるにも関わらず悲しむ様子が無い。 高蔵は柴田長太と
進藤部長刑事手がかりを見つける シャーロックホームズの物語の中で『美しき自転車乗り』という短編があります。話の中で先行して捜査をしていたワトスンの報告を聞いたホームズがワトスンに君の捜査は失敗だった旨を告げると機嫌を損ねたワトスンは「じゃあ、どうしろっていうんだい?」と抗議します。それに対しホームズはこう言います。 「最寄りのパブに行くのさ。田舎じゃ、パブはゴシップの中心だからね。〈中略〉どんな人の噂話だって聞き出せるはずだ」 コナンドイル 日暮雅通訳『シャーロックホーム
柴田長太 柴田長太は伴蔵の家の隣に住んでいました。写真を見ると家は本当に隣で作りも伴蔵の家と瓜二つ。恐らく暮らしぶりも伴蔵と同じく貧しいものであったに違いありません。年齢は56歳。彼は窃盗で罪を犯し前科4犯通算3年1ヶ月刑務所に収監されていました。性格は横着で怠け者。酒癖が悪く、酒が入ると乱暴を働くため女房もいない独り身でした。 警察の聞き込みで妙なことがわかりました。「2月3日までは伴蔵の小屋から煙が上がっているのを見たのだが、4日から見えなくなった」という警察が犯行日時を
伴蔵の交際関係 警察の捜査で伴蔵は噂通り小金持ちであることがわかりました。上山町にいる甥に400円、旅館の女中に20円、赤湯町の友人に50円お金を貸していました。当時のお金ではいまいちピンときませんので、大体ではありますが現代のお金の価値に直すと昭和初期の1円は現代では5000円だと思って下さい。結構貸してますね。 他に交際関係を捜査すると自身の仕事仲間の鶏飼い仲間2・3人、自宅隣に住む独り者の柴田長太、役場の汚物掃除夫兼火葬夫で俗称隠坊(おんぼう)の渡辺高蔵ぐらいでした。
捜査開始 4月になっても伴蔵は姿を見せませんでした。伴蔵が行方不明の噂が噂を呼び、いつの間にか 「伴蔵あんにゃは4・500円の現金を持っていたそうだ。金を取られて殺されたに違いない」 と強盗殺人まで話は発展。町中の話題となってしまいます。赤湯署もここまで大きな話になってしまうと捨ててはおけず伴蔵の捜索に踏み切ります。とはいえ警察は捜査当初、伴蔵は商売の取引でどこかに泊まりがけの出張をしているんだろうくらいにしか考えていませんでした。しかし、捜査を進めていくと合点がいかぬ不審
伴蔵あんにゃ 事件の舞台は山形県の赤湯町。現在は合併して南陽市となっています。赤湯は山形新幹線も止まる温泉の町でラーメンが好きな方は「龍上海」というラーメン屋の名前を出せば「ああ、あそこですか」と思い浮かぶと思います。 町の東側には国道13号線があり、南へ行けば米沢市、北へ行けば山形市にたどり着きます。北へ向かうには鳥上坂という坂を登らなければならず、この坂は大変急な坂で冬になると現在でもスリップ事故が起きたりします。ただ、坂を登り切ると眼下には白龍湖という小さな湖と米沢平野
2年ぶりの投稿です。いつもはたわいない小説を書いていますが、今回は実際に起こった事件について書いてみたいと思います。 話は数日前、図書館で調べ物をしているとある本に面白い話が載っていました。それは昭和7年に起こった殺人事件についてでした。記事には「山形県警史上稀に見る特異な事件」と書いてありました。読みますと犯行はありふれた内容ではあるのですが、その犯行の隠匿の仕方が確かに恐ろしく事件に興味を持ちました。 古い本でしたので、内容を再構成すればちょっとした推理小説になりそうでし
その日の月夜さんの部屋はカエルだらけだった。私は恐る恐る部屋に入った。 「お義姉さん。これは一体なんなんですか?」 月夜さんは私が怖がっているのが面白いらしくクックックックとずっと笑っている。 「あー面白い。やはりあなたと家族になれて良かった。夕子は元気?」 「そりゃあ、もう。すいませんね今日出張で京都に行ってます。」 カエルが1匹私の頭に乗っかり大あくびをした。これが月夜さんのツボだったらしく、フフフフ…フフフと机をパンパン叩いて笑っている。 「元気ならいいの。
蒸し暑い一日に街中バイクを走らせるとこんなにも消耗するのかと絶望的な気分になる。早く家に帰って冷たいものを飲みたい。炭酸を摂取したいという強い気持ちが頭を何度もグルグルした。 スーパーに寄って炭酸飲料を買って真っすぐ自宅に帰る。郵便ポストを開けると手紙やら広告が珍しくごそりと入っていた。 自室の扉を開けたら取り敢えず窓を全て開けて熱気を外に逃がす。夕方ということもあって気持ちのいい風が少しだけ吹いている。さて…ジャガイモをレンジで温め塩コショウをかけて噛り付いた。私はジャ
「お姉ちゃんにいい人がいたとはね」 郵便局員が帰った後に風花は意地の悪い目で姉の千鶴を見た。 「優弥さんはたまにお仕事を手伝ってくれるだけですよ。いい人には違いないけれど」 千鶴はきょとんとした声で答えた。風花はため息をついた。 「あ、そうですか。まぁどうでもいいけど。いや、良くないな。私が必死で世界を飛び回っている時に男の人といい感じになるなんて。私なんてこの間、ボーイフレンドが指名手配犯だったんだよ。その前はマッドサイエンティストだったし」 「フウちゃん。男の人とは慎重に
夏が始まり、ムッとする湿気が絡みついてくる随分不快な季節だった。 私は千鶴さんの家に郵便を届けにバイクを走らせていた。彼女の自宅兼店へたどり着くには山奥の細い道を何度もクネクネ走らせる必要があった。 道は昨日の雨でぬかるんでいたし、雑草は生気を取り戻したように大きくなりつつあった。 千鶴さんの家に着くと車が1台停まっていた「珍しいな」と呟きポストに湯便を入れようとすると玄関の扉が開いた。 「あ、こんにちは。郵便です。」 私はポストに入れようとした郵便をひらひらとやって彼女に手
「そこの人」 と言われ男はビクリとした。自分の忍びの技術は完璧だと思っていたので、いとも簡単に見抜くとはなかなかやる。流石、金沢市の職員だ。恐らく忍びの技術を見抜く訓練を積んでいるに違いない。ここはひとまず退くか?どうする? 「あなた、出土品を預かりにきた人ですよね。何やっているんですか。早くプレハブに来てください」 「あ、はい」 男はすごすごとプレハブに向かう。プレハブの明るさに一瞬目がくらんだ。市の職員はカラーコンテナを机に置いた。中には錆びた鉄の棒みたいなものが
金沢市文化課文化財係橋本正太郎はいらついていた。何故自分が休みであるはずの土曜日にこうして発掘現場の休憩プレハブにいなければならないのか。昨日の夜、急に上司から 「橋本君、明日の夕方なんだけど時間あるかな」 「い、いやぁ明日はちょっと大学の同期と飲みに…」 「あ、そう。じゃあ、飲み会前に頼まれ事をしてくれないかな」 上司の頼まれ事なんて大抵ろくでもないことだとわかっていた。しかし、下っ端の弱いところ。引き受けるしかない。 「え、あ、はい。どういったことでしょう」