印象 金沢 夜

〔大里征二〕

 少しの睡眠のつもりだった。一晩金魚を釣り続けて明け方に自宅に戻り布団に横たわると糸が切れたように意識が無くなった。そして、気が付くと夕方だった。最初は明け方だと思っていたが、携帯を見ると18時でメールが1件届いている。水島さんからだった。急いで開くと犀川堂の前で可愛らしい女の子と写った画像と共に「金沢に着きました。今、犀川堂です。隣はアルバイトの笠井さん」と書いてある。私はガバと起き上がり急いでメールを永久保存してTシャツを着替えドアにぶら下げてある釣りたての金魚が入ったビニール袋を持ち部屋を出た。

 マズい完全に寝坊だ。俺は今日一番の馬鹿野郎だ。奇跡的にバスがすぐ来たのでそれに飛び乗り街まで向かった。水島さんに急いでメールを打つ

「ごめん!事情あって意識が無くなっていた。もし、まだ時間があるなら犀川大橋で待っててくれないか」

 私は金魚の入ったビニール袋を見る。金魚は呑気に口をパクパクさせている。私はホッとして車窓を眺める。うだるような暑さのせいか夕方になっても人はまばらだった。逆にバスの中は冷房が効きすぎている。このギャップがなんともヘンテコな感じがした。

 片町のバス停に着いて水島さんからメールが来ていないか確認したが、メールは届いていなかった。どうする俺よ。とりあえず犀川堂へ向かうと店主のオヤジが彼女はさっきまで店にいたが今はいないという。なんと運が無いのだろう。私の人生はいつもこうだ。ガックリ肩を落とし店を出る。夕風がヒュルリと頬をなでる。辺りは暗くなり犀川沿いの飲み屋の電灯が1つまた1つと灯り始め街は昼間と違う妖艶な姿に変わっていく。私は一縷の望みをかけ犀川大橋に向かう。

 犀川大橋を渡ろうとすると橋の中央に夕暮れでよく見えなかったが誰かが1人立っている。私は誰だかすぐわかった。水島さん以外考えられない。彼女は夕風に髪をなびかせながらニコリと笑う。私は頭を下げる。彼女も同じく頭を下げる。それが可笑しくて2人で笑った。

「久しぶり!」

 私は言葉が夕風で飛ばされずに彼女の耳に届くよう大きな声ではっきりと言った。

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