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ニュースの手帖

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2020年7月の記事一覧

「編集」で印象がまるで変わる件ーーALS嘱託(しょくたく)殺人の報道から

「編集」で印象がまるで変わる件ーーALS嘱託(しょくたく)殺人の報道から

▼編集によって印象がまるで変わってしまうことが簡単にわかる、いい例があった。2020年7月25日付の毎日新聞と東京新聞で考える。

これは、日本社会に蔓延(はびこ)る「優生思想」について考える導入になる。

また、木村花氏を死に追いやったリアリティー・ショー「テラスハウス」をめぐる「編集」の意味についても、応用して考えることができる。

▼まず、ALS嘱託殺人の概況報道をみておく。NHKから。適宜

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藤井聡太氏の発想は小学生時代に鍛えられた件

藤井聡太氏の発想は小学生時代に鍛えられた件

▼将棋のタイトル戦は、一般的にお金を出している新聞の記事が最もくわしい。棋聖戦の場合も例外ではなく、産経新聞の記事が読ませた。

〈【藤井時代 最年少棋聖】(上)異次元の終盤力 「名人を超えたい」詰め将棋が原点〉(2020.7.16 20:49)

主人公は、〈名古屋鉄道新瀬戸駅近くの住宅街で「ふみもと子供将棋教室」を営む文本力雄(65)〉

文本氏は、ここ数年、もう何度も取材を受けているだろう、

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藤井聡太氏が今年度中に「四冠」になるかもしれない件

藤井聡太氏が今年度中に「四冠」になるかもしれない件

▼数日前、寝起きにスマホを見ると、noteから、あなたの記事が、1週間で最も読まれた記事の一つでした、というお知らせが届いていた。寝ぼけていたので、すぐ消してしまったので正確な文章ではないが、大要、そういう内容だったと思う。それがこの記事。

〈将棋のトッププロに見えている残酷な現実の件〉

これは2019年の3月に書いたものだ。直近の1週間で4000から5000ビューくらいだったと思う。

▼す

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「自粛警察」が大挙して抗議すべき格好の相手がいる件

「自粛警察」が大挙して抗議すべき格好の相手がいる件

▼日本社会の同調圧力が、とても醜いかたちで現われた好例が「自粛警察」だ。彼らの言動は迷惑千万だが、自粛警察を任ずる人たちが狙うべき、格好の相手がいることについてメモしておく。

2020年7月20日配信の時事通信記事から。適宜改行と太字。

〈感染者数、ブラックボックス化 在日米軍10万人、沖縄は「例外」〉

〈沖縄県などで米軍関係者の新型コロナウイルスの感染者が相次いでいる。

日本には5万人余

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自殺報道の掟(おきて)を確かめておく件――三浦春馬氏の死に考える

自殺報道の掟(おきて)を確かめておく件――三浦春馬氏の死に考える

▼この数日間、何もメモをアップせずにいたのに、これまでで最もページビューが多くなっているのだが、それも、かつてない数に跳ね上がっているのだが、それはひとえに藤井聡太氏が棋聖戦に勝った影響だ、という楽しいことを書こうと思っていたのだが(そのために、あと数日更新せずにおこうと思っていたのだが)、先にこちらのニュースについてメモしておく。

▼きのう、俳優の三浦春馬氏が亡くなった、というニュースが流れた

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読売新聞の「ジャングルポケット」斉藤慎二氏へのインタビューが素晴らしい件

読売新聞の「ジャングルポケット」斉藤慎二氏へのインタビューが素晴らしい件

▼読売新聞の連載「STOP自殺 ♯しんどい君へ」が素晴らしい。特に、2020年7月3日付に、お笑いトリオ「ジャングルポケット」の斉藤慎二氏のインタビューが載っていた。出色の内容である。37歳。

3〈無理に笑わなくていい/つらいとき 誰か頼って〉

斉藤氏がいじめに遭ったのは小学生の時だ。

電子版の冒頭は、紙の新聞には載っていない、次の言葉で始まる。

〈小学3年生から中学生の頃まで、いじめを受

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木村花氏は「誓約書」に縛られ、事務所にPRのためSNSを使うよう頼まれていた件

木村花氏は「誓約書」に縛られ、事務所にPRのためSNSを使うよう頼まれていた件

▼女子プロレスラーの木村花氏(22歳)が、フジテレビの「テラスハウス」視聴者からの暴言を浴びて、自殺と見られる死を選んだ事件について。毎日新聞が重要な記事を二つ掲載していた。

▼一つめは、2020年7月5日付。

〈「テラハ」出演 故 木村花さんの母/「スタッフにあおられ…」告白受けた〉

〈3月末、花さんはリストカットした写真をSNSにアップ。その後、SNSのアプリを自身のスマホから消し、見

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記者が「独立を保つ」ことと「幅広くやる」ことはリンクしている件

記者が「独立を保つ」ことと「幅広くやる」ことはリンクしている件

▼前号で、雑誌「新聞研究」の「記者読本」という特集を紹介したが、共同通信社の編集局特別報道室編集委員である澤康臣氏の寄稿も面白かった。(〈取材〉「すぐれた取材」問い続けるーー正解なきケースバイケースの世界で)

▼この澤氏は、国際的な調査報道だった「パナマ文書」報道に関わり、著書には『なぜイギリスは実名報道にこだわるのか』という名作がある。適宜改行と太字。

〈事件取材が警察取材で終わってしまうと

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検察はたくさんの冤罪(えんざい)をでっちあげてきた件(3)

検察はたくさんの冤罪(えんざい)をでっちあげてきた件(3)

▼村木厚子氏は、裁判で無罪をかちとり、冤罪を証明した後、元検事総長、つまり検察の最高幹部だった人から、「ありがとう」と言われたそうだ。

中日新聞編集委員の秦融氏がまとめた、新人記者むけの「記者読本」特集の一文から。「新聞研究」2020年3月号。

〈厚労省に復帰した村木さんは、検察改革などに関係する法務省の委員を務め、その際に複数の元検事総長に会い、「ありがとう」と言われたという。「事件直後に会

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400万人が「渡辺棋聖」対「藤井聡太」の第3局を視聴した件

400万人が「渡辺棋聖」対「藤井聡太」の第3局を視聴した件

▼きのうは素晴らしい将棋を見ることができた。

将棋の棋聖戦第3局は渡辺明棋聖が藤井聡太七段に一矢報いた。第4局は、わずか1週間後の7月16日。きのうの第3局の印象が鮮明なうちに行われる。

最終戦までもつれこんでも、7月21日。今月中に決着がつく。

対局のペースが早い。否応なしに盛り上がる番勝負だ。産経新聞の人は喜んでいるだろう。産経新聞記事から。

〈【ヒューリック杯棋聖戦】第3局 渡辺棋聖

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検察はたくさんの冤罪(えんざい)をでっちあげてきた件(2)

検察はたくさんの冤罪(えんざい)をでっちあげてきた件(2)

▼事実は小説よりも奇なり、ということわざは、普遍的である、とつくづく思う。

▼村木厚子氏が検察によって犯罪者にでっち上げられた事件について。前号に続き、中日新聞編集委員の秦融氏がまとめた「〈調査報道〉独自情報入手し冤罪立証ーー連載「西山美香さんの手紙」から」を紹介する。「新聞研究」2020年3月号。

▼2020年の5月、検察庁法改正が見送られたが、いくら安倍政権がひどいからといって、検察をあれ

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検察はたくさんの冤罪(えんざい)をでっちあげてきた件(1)

検察はたくさんの冤罪(えんざい)をでっちあげてきた件(1)

▼西山美香氏の冤罪被害は、彼女に軽度の知的障害と発達障害があり、それが原因だった。知的障害と発達障害に、検事がつけこんだわけだった。冤罪が明らかになり、ほんとうによかった。

▼しかし、検察の冤罪づくりの構図は、被告個人の属性にかかわらない、もっと構造的なものだ。

この現実は、検察の冤罪づくりに携わっていた人々や、巻き込まれた人々の間では、言わずもがなのことである。

その現実が、最近、誰の目に

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クールジャパンと言うならば(2) 映画づくりは韓国に学ぶべき件

▼ゴンクール著『北斎』の紹介メモを書いていて、「クールジャパン」関連で下記の記事を思い出した。

ポン・ジュノ氏が監督した「パラサイト」がアカデミー作品賞を獲ったニュースには心底驚いたが、その背景についての記事。毎日新聞2020年5月17日付の経済記事から。ソウル堀山明子記者。適宜改行と太字。

〈縦割り打破 韓流快挙/韓国 米アカデミー作品賞〉

〈今年2月9日、米アカデミー賞授賞式でポン・ジュ

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明日、「藤井聡太棋聖」が誕生するかもしれない件

▼明日、藤井聡太棋聖が誕生するかもしれない。もし、そうなったら、「藤井聡太八段」という名称は見ることができないかもしれない。タイトルを持ったまま、八段を通り越して、九段になってしまう可能性がある。

羽生善治氏がすべてのタイトルを失い、「九段」の肩書になった時、将棋ファンの誰もが新鮮さを感じた。「何らかのタイトル名で呼ばれない羽生善治」を、誰も27年以上見たことがなかったからだ。

藤井氏もまた、

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