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自殺報道の掟(おきて)を確かめておく件――三浦春馬氏の死に考える

▼この数日間、何もメモをアップせずにいたのに、これまでで最もページビューが多くなっているのだが、それも、かつてない数に跳ね上がっているのだが、それはひとえに藤井聡太氏が棋聖戦に勝った影響だ、という楽しいことを書こうと思っていたのだが(そのために、あと数日更新せずにおこうと思っていたのだが)、先にこちらのニュースについてメモしておく。

▼きのう、俳優の三浦春馬氏が亡くなった、というニュースが流れた。30歳だった。NHKニュースから。

〈若手の人気俳優 三浦春馬さん死亡 警視庁 2020年7月18日 15時37分〉

〈若手の人気俳優、三浦春馬さん(30)が東京・港区の自宅から病院に搬送され、死亡したことが捜査関係者への取材でわかりました。警視庁は現場の状況などから自殺を図ったものとみて詳しい状況を調べています。

捜査関係者によりますと、18日午後、俳優の三浦春馬さん(30)が、東京・港区の自宅マンションから病院に搬送され、死亡したということです。

三浦さんが仕事に来なかったことから、部屋に迎えに行った所属事務所のマネージャーが発見し、110番通報したということです。

捜査関係者によりますと、室内からは遺書のようなものが見つかっているということで、警視庁は現場の状況などから自殺を図ったものとみて詳しい状況を調べています。

(中略)

(インスタグラムの公式アカウントで)最後の投稿となったのは4日前の今月14日で、笑顔の写真とともに出演予定の民放のドラマについて「日に日に暑くなって参りましたが、キャスト、スタッフ一同、テレビの前の皆様に9月から、より笑って頂きたく撮影に励んでおります!楽しみにいていてください!」と意気込みをつづっていました。〉

▼筆者もこの訃報に驚いた一人だ。とくにこのニュースが流れた7月18日が、彼が出演した映画「コンフィデンスマンJP ロマンス編」をテレビで放送する日だったので、なおさら驚いた。彼は天才恋愛詐欺師を小気味良く演じていた。

▼上記のNHK報道の重要な点は、記事の末尾に、以下の情報が載っているところにある。

[相談窓口]
 日本いのちの電話
 ・ナビダイヤル 0570-783-556 午前10時~午後10時
 ・フリーダイヤル 0120-783-556
  毎日:午後4時~午後9時
  毎月10日:午前8時~翌日午前8時

▼つまり、「この報道による後追い自殺を防ぐ」、という明確な目的のもとに、報道されているわけだ。

▼厚労省が、「メディア関係者に向けた自殺対策推進のための手引き」を紹介している。

▼これは、リンクを貼る人はけっこう多いが、一文ずつ熟読している人はけっこう少ない。これを機に、熟読玩味(じゅくどくがんみ)すべき提言だと思う。

〈世界保健機関(WHO)により、作成された自殺対策に関するガイドラインの中のひとつに「メディア関係者に向けた自殺対策推進のための手引き」があります。

この手引きでは、メディア関係者が自殺関連報道をする際の「やるべきこと」、「やってはいけないこと」などがまとめられています。〉

▼全文は長いのだが、「最低限、これだけは知っておけ」というものがまとめてあるので、そこを共有しておきたい。タイトルは〈すぐわかる手引(クイック・レファレンス・ガイド)〉

▼中身はシンプルだ。〈やるべきこと〉と〈やってはいけないこと〉の2種類。いわば「自殺報道の掟」とでもいうべきものだ。

まず、〈やるべきこと〉。

やるべきこと
   *
どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供すること
   *
自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようにしながら、人々への啓発を行うこと
   *
日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道すること
   *
有名人の自殺を報道する際には、特に注意すること
   *
自殺により遺された家族や友人にインタビューをする時は、慎重を期すること
   *
メディア関係者自身が、自殺による影響を受ける可能性があることを認識すること

▼たとえば上記のNHKの報道は、この〈やるべきこと〉の第1条、

どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供すること

や、第3条

日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道すること

に則(のっと)っていることがわかる。

▼次に、〈やってはいけないこと〉。

時間に余裕のある人は、以下の項目を念頭に置いて、明日月曜の民放テレビのワイドショーを見ると、いい頭の体操になると思う。

やってはいけないこと
   *
自殺の報道記事を目立つように配置しないこと。また報道を過度に繰り返さないこと
   *
自殺をセンセーショナルに表現する言葉、よくある普通のこととみなす言葉を使わないこと、自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しないこと
   *
自殺に用いた手段について明確に表現しないこと
   *
自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと
   *
センセーショナルな見出しを使わないこと
   *
写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと

▼〈やるべきこと〉も、〈やってはいけないこと〉も、相当練(ね)って考えられた文言だ。マスメディアに関心のある人にとっては基礎知識の一つだが、まだまだ普及していないので、機会を見つけて何度も紹介したい。

▼今回の報道でーーとくに金儲けに走る愚かな報道によってーー後を追う人が出ないように。

筆者は三浦春馬氏と会ったことはないが、彼は彼のファンに対して、どうか長生きして、幸せに生きてほしいと願っていると思う。

(2020年7月19日)

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