見出し画像

「黒影紳士」season5-3幕〜世界戦線を打ち砕け!編〜「砂上の夢」🎩第二章  3選択肢 4囮 

3選択肢

 ふらふらの足でサダノブは、黒影の言う夢と同じらしい屋敷を見上げる。
 確かに辺りに薔薇も咲いて、美しいのに誰かが住んでいる様な瑞々しさは無く、忘れられ枯れゆく、閑散とした切なさを感じさせる建物だ。
 白く浮かぶその姿は、今は未だ廃墟にはならないが、廃墟になるであろう未来しか待っていないように思えた。
「その砂女を倒せば、白雪さん……戻って来るんですかねぇ?」
 サダノブは気になって黒影に聞いた。
 黒影はシルクハットも被り、サングラスは車のサイドポケットに入れ、エンジン音も切っているので、すっかり何時も通りに戻っている。
「砂掛けババ⚫︎みたいな良い方するなよ、失礼だろう?……どうだろうな。他の増えた行方不明者も、白雪の様に連れて行かれたか消滅させられたと思う。」
 黒影は絶望的な消滅と言う言葉を使ったが、消滅しても異空間から引っ張り上げた事も、夢と言う掴み所の無い物と戦った日もある。
 まだ……真の絶望ではないと思って、そう話しているのだ。
「否否、先輩の方が今、さらりと砂女に失礼な事言ってましたよ。色々ギリだし。……頭にキテるなら、そう言えば良いじゃないですかぁ〜。素直じゃないなぁ。」
 サダノブがそう言ったので黒影は見透かされた様で、少し機嫌を悪くした。
「はぁ?そりゃあ、キレてるよ!キレちゃいけないのか?!折角、八つ当たりしないように冷静を努めていたのにっ。サダノブだって、穂さんが目の前で砂になったらどうなんだよっ!」
 と、とうとう何時もの八つ当たりが始まってしまったのだ。
「そりゃあ、悲しいですけど!だからって、俺にキレないで下さいよ。先輩ねぇ、大体何時も直ぐ俺に八つ当たりする悪い癖、ありますよ。パワハラとか言ったら倍返ししてくるしぃ。そっ、そうだ!……狛犬を小間使いだと思い過ぎです!」
 なんて、とうとうサダノブも言い返してしまうのだ。
 黒影相手に口で勝つなんて、難しいのにも関わらず。
「……小間使いの狛じゃなかったのか。はぁ〜ん、初めて知った。……まぁ、一つ賢くまたなってしまった序でに、サダノブ……行ってこいっ!」
 そう言いながらサダノブの後ろに周ると、手を背中に付け思いっきり、黒影は玄関らしき扉に押し出した。
「危なっ……!」
 サダノブは勢いでふらつき扉を押したのだが、開いていたらしく床に手を付くと、後ろの黒影を見る。
「ぁはは……良かった開いていて。しかも、何の罠もない。なぁ、サダノブ。」
 と、黒影は腹を抱えて爆笑しているではないか。
 サダノブは憤くれながらも、笑っていると言う事はこれでも甘えているつもりなのだと気付き、
「やっぱりこの中なんですかねぇ……砂女。」
 と、言いながら辺りを見渡す。
 古めかしい黒影が好きそうなアンティーク家具が並んでいた。広い円形の内玄関。
 床は大理石だろう。人が居ない様に窺い見れた外観と違い、中は行き届いたとは言えないが、ざっと掃除がしてある様に見え、誰かいるのではないかと、黒影は訝(いぶか)しむ。
「だろうな。……あの大きな柱時計……何故、左回りなのだと思う?」
 黒影はそう聞いたのか、一人言なのかも分からない言い方で、コート下の胸ポケットからネックレスを引っ張り出し、懐中時計を手にする。
 その懐中時計の横のボタンを引き上げ、カチッと鳴らすと柱時計と見比べ、懐中時計を合わせたのか、またボタンを押した。
 サダノブは何事かと、固唾を飲んで其れを見ている。
「……あのぅ……それじゃあ時間分からなくありません?」
 そう聞くと、
「こっちの方が良いんだ。時間ならサダノブが持っているタブレットを見れば良い。こっちのはなぁ…………。」
 黒影がじろーっと時計から視線を黒影に上げる。
「こっち(懐中時計)はぁー?」
 サダノブが嫌な予感をさせ、黒影と目が合った瞬間だった。
「タイムショ⚫︎ク、発生中だっ!!……トルネードスピンされたくなきゃあ走るぞ、サダノブっ!!」
 と、黒影は叫ぶなり、突き当たりに見えた扉へ入り消える。
「ちょっと待ったぁ――っ!何で?!ねぇ何で急に始まるんですかぁー!??」
 サダノブも慌てて黒影が走った扉へ突っ込んで行く。
 勢いで転がり、中で立ち止まっていた黒影の後ろ足に激突する。
 黒影は溜息を吐いて後ろを見ると、
「はい、前方不注意現行犯逮捕。……それに、待たない。お、こ、と、わ、りぃ〜と、毎度言っているじゃないか。しつこい奴は嫌われるぞ。」
 と、馬鹿らしいとさも言いた気な顔をすると、前に向き直す。
「……何だありゃあ。」
 サダノブは立ち上がりながら前をみると言った。
 そう、言いたくもなる。
 ……扉が二つ……目の前にあったのだから。
「訂正……トルネードスピンじゃなくて、どっちか泥沼行きかもなぁ。ニューヨーク……行きたいか?」
 と、のんびり黒影は言う。
「先輩!ニューヨークは何時でも行けるから、時間、時間っ!!」
 昭和クイズ番組で巫山戯る黒影に、サダノブは注意する。
 黒影が巫山戯出すと、何をするか分かったもんじゃ無い。
「面倒だから、この扉付いてる壁ごと燃やすか、サダノブの氷を同時にぶっ放して、壊しちまおうか。」
 と、黒影はやはり通常じゃない突破方法を言いながら笑っている。
「先輩、白雪さんが如何なるか分からないのだから、今は真面目にやって下さいよ。」
 サダノブは呆れて言った。
「真面目に言ったつもりだが。見てみろに二枚の扉の間。「貴方は犬ですか?猫ですか?」って、訳の分からん張り紙が貼ってある。愚問だろう?人間だよ。それ以上でも以下でもない。」
 と、黒影は張り紙を良く見ながら話す。
「……だからって、じゃあ人間なので帰りまーすっ!って、砂女がいるかも知れないのに、放っておくんですかぁ?」
「……だから、ぶっ壊せば楽だと言っている。」
 サダノブの疑問に被せる様に黒影は言った。
「……これは、心理学のフット・イン・ザ・ドア・テクニックを使うつもりだ。最初はどうでも良い簡単な事から、段階を上げ、無理難題を言ってくるに違いない。だから、面倒なんだ。このフット・イン・ザ・ドア・テクニックを使った有名な童話がある。勿論、意図して描かれたかは分からん。僕は何故かそれが、妙に気に入った。不気味で恐ろしい話しなのに、好きだったなぁ。」
 黒影はその童話に出会ったワクワク感、ドキドキ感と懐かしい記憶に目を閉じる。
「先輩、想い出に耽っていないで、答えは何方なんですか?」
 サダノブは黒影の手にある懐中時計を見ながら、早く早くと急かす。
「じゃあ、お前は何方か分かるのか?」
 と、黒影は目を開きサダノブをみる。
「……え〜、何方も何方なら、俺なら狛犬だし、犬にする。」
 サダノブは責任は取れない、を前提に言う。
「……ぅ〜む。……その答え……無し寄りの有りっ!」
 黒影はまだ巫山戯ているのか、考えたフリをしてそう言うのだ。
「適当に言ったんですよ。今の。」
「……ああ、知っている。」
 事もあろうか、そう言うと黒影はまたサダノブの背を思いっきりにやにやと笑いながら押し出し、「Dog」と書かれた扉に押し出す。
 幸いドアノブは回さなくても良いタイプの様で、サダノブは扉を開けて、戯れる犬みたいにころころと転がった。
 受け身が出来ているからそうなるのだが、黒影は犬みたいだと笑い出す。
「泥沼化の方だったらどうするんですかぁー!大体ね、いちいち人を突き飛ばさなくても、先輩が行けば良いじゃないですかっ!」
 と、サダノブは文句を言うが、黒影は全く気にしない様だ。
「もし、外れが泥だったら、僕のロングコートが汚れてしまうじゃないか。嫌なら僕はこの屋敷ごと燃やすが。」
 冗談でしょう?と、サダノブは顔を上げたが黒影は至って本気の様に見える。
「此処で……潔癖症、発症しちゃったんですね。……分かりましたよ、俺が行けば良いんでしょう?」
 サダノブは溜息を付いたが、それなら仕方無いと合点がいき納得した。
 そう……黒影は特に身形を気にする潔癖症……。紳士の拘りなのか、潔癖症なのか分からない次元で、特にロングコートや帽子にが汚れるのを妙に嫌う。
「しかし……良心的な作りだ。僕なら何方も泥沼……しかも底無し沼にするのに……。やはり、来て欲しいと言う事か。……サダノブ、此処はあの「注文の多い料理店」(宮沢賢治著の代表作)みたいな物だ。」
 黒影は後ろと前に続く扉を見て言った。
「えっ?じゃあ、色々注文されて、美味いように動かされて、猫に食べられそうになるんすか?」
 と、サダノブはそんなまさかと聞いた。
「ああ、何が待っているか知らないが、そこに辿り着くまで、良い様に動かされるのだろうな。しかし、僕は人に動かされる事が、全くもって嫌いだ。自分で動かなければ納得いかん。……さっきの部屋の扉が二枚、それが前後にある「注文の多い料理店」のこの前後の扉を比喩しているのであれば、僕らはさながらあの童話に登場した、間抜けな猟に来た紳士二人。其奴を助けるのは犬だ。だから、其れで良い。」
 そう満足そうに言うと、黒影は脚の長い小さなテーブルに置かれた赤いスイッチボタンと、マイク、その横の手紙を読んだ。
――ようこそ、能力者の皆様。
 当社は皆様を心より歓迎し、細やかながらのパーティーを開催致します。
 招待での無礼をお赦し下さい。
 現実的に能力者を集める事が如何に困難か、お客様も知っての通りかと存じ上げます。
 これからの在り方について、状況把握し共有し話し合うサミットのようなものです。
 会場内の安全の為、スタッフが記録するだけですので、ボタンを押し、氏名と能力をお伝え下さい。
 この情報はサミット後、厳重に保護し削除致します。
 ――――――――――――

「ほらな。注文が多い。しかも安全だと、さも言いたいようだが、肝心なところがなっていない。
 僕が、翻訳するとこうだ。
 能力者を危険極まりない筈なのに、やっと集めた。何方につくか決めさせてやる場を作った。佐田 明仁(サダノブの父)はこんな事をする必要がない。つまり、砂女は能力者兵器であり、僕らを仲間に入れる様に指示されて、白雪を餌に呼んだ。此処で弱点である能力を白状しないと、白雪も消えた行方不明者とも会えない。……脅迫文だな。」
 黒影は取り敢えず、先に繋がる扉に手を掛ける。
「駄目だ。流石に此処は答えないと進めないらしい。」
 厄介な事になったと、黒影が思っているとサダノブが、
「じゃあ……砂女はまだ俺らの能力を知らないんですね。何でだろう?情報共有成ってないのかなぁ?」
 と、言うのだ。
「……情報共有がなってない?………………そうかっ!砂女は確か白雪と話していた。まだ会話が出来る。しかも、悠長な会話だ。砂女の能力には会話が必要不可欠。だから、兵にしても言葉を残した。が、其れでは多くを知られては拙いと軍は思っているんだ。……つまりだよ、今は恐れを成して従っているだけだ。まだ人として裁きを受けられるっ!」
 黒影は、まだどんな相手かも分からぬのに、それだけで少し興奮気味に、通路を行ったり来たりするのだ。
「あのね、先輩……だから、時間。」
 サダノブが呆れて黒影に言った。

 そんな事で喜べるなんてどうかしている。
 つい、少し前には其れが当たり前だったのに。
 捕まえても、兵器化され言語も理解出来ない何者ではなく、罪を償える者が少しはいると言う事が、救いだなんて。
 ……本当に……どうかしちまっているんだ。
 醜い戦争って奴は……人を変えてしまうんだよな。
 こんな風に……価値観さえ、狂わさられそうになる。

 其処まで思うと、黒影は歩みをピタリと止めた。
「……だから、変わってはならなかったんだ。」
 そう、己に呟いたかと思うと、サダノブに耳を貸すようにと手招きし、耳に手を当て小声で、
「お前は氷だ。僕は炎と言おう。……其れが砂女に効かないと思え。サダノブは思考読みと、狛犬を使う。僕は影を使い、数人を救助する。……相手は言葉の何かで相手を砂にする。それを見つけるのはお前だ。いいね。」
 と、伝えるではないか。
「でも、先輩がそれじゃあ余りに不利じゃ。」
 サダノブは黒影を心配したが、氷が使えないとなると、サダノブ自身も不安である。
 黒影の十方位鳳連斬(じゅっぽういほうれんざん)と言う鳳凰の円陣からの回復も見込めない。
 黒影の影は確かに、攻撃も守りもあるが、鳳凰の陣(鳳凰陣)がある方が遥かに威力もある。
「此れは作戦だ。有利にならない作戦ならば策など無い方がマシだろう。」
 そう言って微笑んで、黒影はボタンを押してしまう。
「手紙読みましたよ。僕は黒田 勲、炎使いで、連れが佐田 博信(さだ ひろのぶ。サダノブの本名)で、氷使いだ。」
 さっさと言うと、先の扉がカチャッと鳴り、鍵が開いたようだ。
「ほらなぁ〜。いちいち面倒になってくる。一気に屋敷ごとどうにかすれば良かった。」
 と、黒影はぶつくさ言いながらも、またサダノブに先に行く様に顎で指図する。

4囮

 サダノブが入ると、白雪と目が合う。
「……先輩!大変っ!白雪さんがっ!」
 と、サダノブは黒影の手を引っ張り早くと急かす。
「……えっ……白雪……?」
 黒影は、折角会えたのに、微妙な反応だ。
 生きていて嬉しくない筈がないのに。
 古い黒い鉄柵の檻に、恐らく他の行方不明者と一緒に入れられ、大人しく座っている。
 黒影からすれば、白雪は何度も黒影狙いのとばっちりで捕まっているので、見慣れた景色になってしまったが、何故か何時もの様に、怒りの感情さえ出て来ないのだ。
 白雪は不安そうに黒影を見るのだが、黒影は白雪の行動に気付いてしまった。
「……サダノブ、あれ……白雪じゃない。」
 確かに黒影はそう言った。
「えっ?でも、じゃあ……あれは?」
 サダノブは他人のそら似にしても、似過ぎて黒影の言った意味が分からない。
「……何人かいるなら、白雪は他の人と会話して元気付けながら、僕を信じて待っていてくれる。僕には迷惑を掛けたくないから、あんな縋る様な目で助けを請わない。
 ……それに、決定的に言えるのは、あの鉄柵……白雪ならば、白梟になり通過出来る。」
 黒影は強く閉ざした瞼を再び開いた時、眼内閃光を感じながらも偽の白雪を睨んだ。
 冷酷までに蒼い、あの影が揺らぐ深海より深い瞳で。
 それだけ白雪に化けるなど、寓者の所業であると言いたいのだろう。

 だから闘えない?……冗談じゃない。
 だから容赦なく闘える……白雪はこの世でたった一人だから、価値があるのだ。
 僕の知らない白雪など……僕は要らない。
 白雪が知らない僕など……存在意義は無い。

「砂女は化けるのも上手なようだ。あんなドブス見た事が無い。サダノブ、よくあんな者と僕の妻を一緒にしてくれたなぁーっ!どう考えても彼方の方が性格ブスだろっ!」
 黒影はサダノブに当たり散らし言うので、サダノブは慌てながら、
「……あー、本当だ。全然違う。何つーか、優しさオーラとか?華やかさとか?お淑やかさとか?あー全然違うっす。白い服しか合ってないっす。いやぁ〜目が、霞んでましたわぁ。絶対料理下手そうだし、介抱するどころか怪我したら、殺されますね、あれ。」
 と、目を擦りながらも心では胡麻を擂る。
「分かれば良いんだよ。それより、周りも本物か思考読みしてくれ。犯人以外が行方不明者ならば、距離を取らせたい。」
 黒影はサダノブにだけ聞こえる様に、小声で言った。
 ――――――――――――――

「あっ、風柳さん?こっち大変でさぁ……。父さんか母さんいる?」
 それは風柳邸に掛かってきた一本の電話の話しである。
 黒影は白雪を助けにサダノブと出掛けたままだが、きっと何時もの事で心配いらないと、風柳は鸞(らん。黒影と白雪の息子。)からの電話に、事情を軽く話した。
「またぁ〜?父さんとサダノブで大丈夫なの、母さん。……父さんに頼まれて、こっちで彼方此方問い合わせて調べていたらさぁ、能力者が世界的に増えてるよ。まるで、伝染病の様さ。」
「……伝染病?」
 鸞の言葉に、風柳はあまりに物騒な言い方をするなと思いながらも聞いた。
「……そう、伝染病だよ。伝染病と言うからには感染症が更に移る訳だけど、その感染源……何処が多いと思う?」
 と、鸞は聞くのだ。
「まさか……日本……かぁ?」
 聞くからには、そうかなとも思ったが……まさかと言う気持ちの方が風柳は大きい。
「当たりー。何か、日本に何人か調査員が乗り込んでいるらしい。日本の能力者兵も、今後見過ごす訳にはいかないらしくて。確かに、憲法に引っ掛からない内密に持てる最大の武器になり得るからね。父さんナイーブだからなぁ。こう言う話し、し辛いよ。……風柳さんでよかった♪流石に、父さんとサダノブだけじゃ、これから母さんも危ないだろうし、一回ブルーローズと帰るよ。
 それまで、生きとけって伝えといて。じゃあ、風柳さんから父さんには話しておいて下さいね〜♪」
「あっ、待て!ちょっ……。」
 鸞は話すだけ話して通話を切る。
 ツーツーと言う音だけが、風柳の耳に残り、思わず肩を落とした。
 ……そう言えば……黒影も伝えるだけ伝えて逃げる癖があったなと、風柳は思い出し少し微笑む。

 ――――――――――――
 サダノブは集中して思考能力を使って鉄柵の檻の中、全員の思考を読んでいる。
「先輩……やっぱり行方不明者だ。あの偽白雪さんの砂女以外は。……しかも、能力者じゃない。一般人です。」
 黒影は思わずその言葉にサダノブを見た。
「……一般人だと!?では、この砂女は能力者兵では無いのか?た、だ、の、犯罪能力者で良いんだな?」
 と、黒影は何時もの仕事と変わりないのかと再確認する。
「否……それが……。先輩が何方にも付かないからです。催眠術か何かの能力ですかね、能力者兵の頭にお尋ね者の顔が浮かんでいるんですが、先輩……入ってますよ。」
 黒影は砂女を見ていたが、それを聞いてサダノブを二度見した。
「僕がお尋ね者だって!冗談じゃないっ!まるでこっちが犯罪者扱いじゃないかっ!他のお尋ね者も良く覚えておけ。後で安否を確認する。」
 そう黒影はサダノブに伝えながらも、ゆっくり影を壁に蔦
わせ檻の床に広げると、砂女が此方を見ている隙に他の行方不明者の真下に穴を開け落とす。
 全員救出出来たところで、スッと影を元に戻した。
 此れには砂女も慌てて何事かと振り返ったが、時既に遅しで何も無く、驚いているようだ。
 その直後。黒影のスマホがスヌーズで呼び出す。
 ……何だ、こんな時にっ!だからスマホは似合わないし、嫌なんだっ!……
 と、黒影は集中が切れ苛立ちながら、無言でサダノブにスマホを押し付けた。
「こっちは敵前だぞっ、全くっ!」
 黒影はこの砂女をどう倒せば良いのか考えていたのに、策も浮かばず邪魔され、憤慨している。
 サダノブは、八つ当たりされない様に、そーっと部屋の隅に行き黒影を見ながら通話ボタンを押した。
「何時もお世話になっております。夢探偵です。あの……黒田でしたら今、ちょっと手が離せませんで……ってあれ?何だ、鸞か。」
「スマホなんだから、ちゃんと通知見て対応しろよっ!」
 間抜けなサダノブに、聞いて呆れた黒影が思わず一喝する。
「ほら、今敵前だから。ピリピリしちゃってるからパパ。後でね、後で。」
 と、サダノブが切ろうとすると、
「聞けよ、サダノブっ!!……あのさぁ、今から行くから、父さんに鳳凰で慈悲の泉に繋げてって言っておいて。今直ぐ!今直ぐ開けて貰ってよっ!」
 と、鸞は連絡を切ってしまう。
「何だぁ〜!鸞まで俺に聞けよっ!って……。先輩が言うから口悪くなったじゃないですか?!躾、ちゃんとして下さいよ。」
 サダノブは諦め半分に文句をぶつぶつ言ったつもりだったが、黒影にきちんと聞こえていた様で、
「サダノブの威厳の問題だろう!?」
 と、強めのツッコミが入る。
「親が親なら……。」
 サダノブは今度こそはと、ボソッとさらに小さい声で言った。
「集中出来んだろう?……鸞が、どうした!」
 流石に珍しく鸞から連絡があったので、黒影はそっちも気にしていたようだ。
「あぁ、鳳凰で鸞の世界(世界とは黒影紳士他、同著者の他著書の世界であるが、黒影と鸞は思念により、独自の世界を心に持っている。黒影紳士がハードで他世界はソフトと考えると妥当。黒影と鸞においてはハードの黒影紳士含む、全世界を統一させる血筋としての命が創世神よりあり、思念と言う形になっている。)に繋いでくれ、直ぐに!ですって。」
 黒影はサダノブの話しを聞いて、威嚇する様に隙無く前傾姿勢で犯人と向き合っていたが、ふっと真っ直ぐに立ち少し上を見て考える。
 前を見ていないのだから、隙だらけに見えるかも知れないが、感覚的に受け入れない物が、黒影の個人的な領域に入ると、悪寒の様なものを感じるので問題ない。
 要はパーソナルスペースが異様に一般に比べて広いのだ。
「……有寄りの有だな。景星鳳凰 (けいせいほうおう)……「慈悲の泉」……世界解放!」
鳳凰の鳳(ほう)が黒影の肩にバサバサと飛んで止まり、目の前に光り輝く、人が通れる程の長方形を作る。
(※景星鳳凰とは、元は聖人や賢人がこの世に現れる前兆を意味するが、この場合は主人公や物語がこの世に現れる前兆を作ったという事。)
 これならば黒影の炎と違って鳳の炎なので、砂女もノーマークだったようだ。
 更に鳳は幻炎(げんえん)と言う、目には見えるが熱くない炎を扱う事が多い。
 それも、平等と平穏を司るからか、理由は黒影にも判別でき兼ねる。
 黒影は景星鳳凰の出入り口を見ていた。
 中からキャスター付きの旅行バッグがガラガラと、出て来くる。
「父さん、頭出して良い?吹っ飛ばないよねぇ?」
 と、鸞の声が聞こえた。
「ああ、飛ばないようにしておいてやる。」
 黒影は久々に我が子に逢えるので、幾分か顔が綻んで見える。
 鸞は顔からひょこっと出て来て、辺りを見渡し乍ら、黒影の側へ寄っていく。
「あの人、敵〜?何、全然似てない。」
 と、砂女の白雪の偽姿を見ると、黒影の腕を引っ張り笑い出す。
「だろう?全然似てないよなぁ。あのバカ犬、餌作ってくれる人の見分けもつかないんだってさ。……あぁ、それと母さん、今……砂になった。生存も分からん。砂じゃあなぁ。」
 と、黒影は白雪の現状を軽く話す。
 ……そうすればぁ〜……。
 黒影は、頭では鸞の修羅が怒るのを期待している。
 炎と氷が使えないならば、鸞の修羅の登場は想定外に違いなかったのだから。
 犯人はぐにゃりと自らの身体を押し、柵毎に絶妙なバランスを取ったまるでアメーバ体の様な砂になると、くっ付くなり黒影の見た夢の女性に似た風貌に変わった。
「……最近ねぇ……たまに毒吐くけど、出来るだけ怒らないようにしているんだ。」
 鸞が、砂女を見据えたまま、黒影に話す。
 黒影も、サダノブも得体も知れぬ砂女の動向を注視していた。
「ほぅ……それは良い心掛けだ。……じゃあ、怒らないで、あれをどうやって倒す?」
 黒影は敢えて、鸞の好きに一度させてみようと、成長も気になり、そう言う。
「じゃあ、色々試してみますか……。」
 鸞の足元から風が僅かだが、風が上に吹いている。

 ……小さいが、一丁前に殺気立っている……。
 黒影はそれにいち早く気付く。
 サダノブは二人に近付くにつれ、やっと其れに気付いた。
「舞い上がれ!……麗しき僕の蝶!」
 と、影を蝶の形にし、大量に舞い上がらす。
「未だその厨二病の技名、何とかならんのか?」
 黒影は腕を組んで呆れて鸞に言った。
 元はと言えば、サダノブと二人で中学生辺りの厨二病真っ只中の時に、決めた技名である。
「……父さんは黙っていて!」
 と、欄に厄介払いされてしまう。
「まだ、絶賛反抗期かぁ〜?引っ込んでろって、サダノブ。酷いと思わんか。」
 黒影は鸞の後ろで、サダノブと近所の井戸端会議を始める。
「……ほらぁ〜、だから言ったでしょう?(手をパタパタ)この時期は気難しいって。あたしなんか、さっきも酷い言葉使われたって言ったじゃない。黒田の奥さん!品位よ、品位のも、ん、だ、い!い〜い、このまんま黒影紳士がこのまんま、あたし以外に口悪ばっかりになったら、「まぁ〜〜っ!!何てお下品な物語なんざましょ!あんなの読んじゃ駄目よぉー。悪い言葉が移っちゃう〜っ!」って、言われ兼ねないでしょう?治すなら、早いに越した事、ないわよっ、黒田の奥様!(手をパタパタ)」
 と、サダノブは如何にもな奥さん語で、巫山戯て黒影に話す。
「そうだなぁ……。紳士にとって、品位は大切だ。タイトルにあるのだから、最低限の品位と礼節は守ってもらわねばな。」
 サダノブにも、鸞にも聞こえるように黒影は話す。
「はぁ?父さん、それだったら、ザダノブの今の井戸端会議無しでしょう?」
 と、鸞も負けじと言ったかと思うと、この観覧席に付き合っていたら日が暮れると、影で出来た蝶を一枚千切る。
 蝶は葉っぱの形になり鸞の足元の風に舞うと広がって行く。
 これは鸞の名もなき風の陣である。
「そいつは名もなき風の陣のままで構わないのか?サダノブとまた厨二病な技名付ければ良いのに。……統一感が無いんだよなぁ〜。僕は、そ〜言う中途半端は、物凄く気になるんだが。」
 と、黒影は何個か考え却下したこの円陣名を付けろと言う。
「……父さんが今言ったやつ。……厨二病だよ。」
 と、風の陣に守られた鸞がニヤリとする。
「ふぁ〜っ!!そのしてやったりニヤリ顔!似過ぎでしょうよ!」
 と、サダノブは親子、恐るべしと驚愕して言った。
「そんな事、言ってないぞ?」
 黒影は厨二病発言なんかしたっけ?と、首を傾げる。

🔸次の↓「黒影紳士」season5-3幕 第三章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

いいなと思ったら応援しよう!

泪澄  黒烏
お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。