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「黒影紳士」season5-1幕〜世界戦線を打ち砕け!編〜🎩第四章 7館 8招待状

7館

 翌日の夕方……一本の電話が入る。
「はい、夢探偵社です。」
 黒影はやっと摂れた午後の仮眠から起きていたが、まだ眠そうに目を擦りながら、出た。
「あら、黒影の旦那が出てくれるなんて、今日は良い日だねぇ。」
 どうやら、たすかーるの涼子からだ。
「ええ、やっと新作の設計図が出来たんで、さっきまで少し仮眠を摂っていたのですよ。今さっき起きて……。」
 と、涼子に犯人に対応した防犯システムの設計図が出来上がった事を伝える。
 この設計図を元に、商用に開発し、テストを繰り返し、やっと販売に漕ぎ着ける。
 本当は長い時間が掛かるが、涼子の亡くなった夫が、そっちで幅を利かせていた分、それを引き継いだ涼子に頼むと早く商品化出来る。
「やっぱり仕事の早い漢は良いねぇ〜。でねぇ〜旦那、勿論そっちも大事なんだけれど、犯人の根城……みぃ〜つけた♪」
 と、涼子が言うではないか。
「えっ、本当ですか?!」
 黒影はやっと待ちに待った吉報に、食い気味に聞いた。
「黒影の旦那に嘘付く訳ないだろう?……住所、送っておいたから。あたいはまだほら、店番もあるから。何時でも行っておいでよ。本当は黒影の旦那とまたドライブしたかったんだけどねぇ……。」
 と、涼子は少しがっかりして言った。
「ぁははっ……涼子さんとドライブするなら、また何か賭けないとスリリングじゃないですからねぇ。有難う、早速行ってみますよ。涼子さんは次に何を賭けるか考えておいて下さいよ。では。」
「あいよ。」
 黒影は電話を切ると直ぐ様、サダノブを呼ぶ。
「何ですか〜?まだ事務処理終わってないですよ〜。」
 と、サダノブは呑気に言っている。
「違うよ!見つかったんだよ!犯人の隠れ家。涼子さんからタブレットに情報が来ている筈だ。見てくれないか。」
 サダノブはデスクトップPCを見るのを止めて、タブレットを確認し、言った。
「あっ、ありました!」
 ――――――――――――

「結構な山奥だなぁ……。」
 黒影は指定の住所付近で車を止めた。

 黒影を先頭にサダノブと静かに歩いて近付く。

 ――ここからふざけてTwitterで呟いて採用した場面
 多少変えています。

何角形でも良いから、兎に角すんごいボコボコの館がある。
月夜明かりが木々から微かに溢れた。
黒猫が通る…なんて、不吉!
おんやぁ〜でも可愛ぃなぁ〜♪
つい、黒影はゴロゴロ言うまで撫で撫でする。
「先輩!遊んでいる場合じゃないですよ!」
 サダノブが、黒影の耳元に手を当て、小声でそう言った時だった。
 ――――此処で悲鳴と硝子が割れる音!

きゃーバリバリ…バリバリじゃあないなぁ…ガシャン?結構重い音だからぁえーと?

 おっと、この猫はたすかーるのところの「先生」じゃないか。暗くて分からなかった。
 もしや……これ……。
 如何にもミステリーの定番ではないか?
「先輩?どうしたんですか?」
 サダノブが聞いた。
「こんな定番やってられるか!見なくとも事件だ。さっさと行くぞ!」
 黒影はこの設定場面に呆れながらも、そう言うといきなり走り出す。
「ぁあ!先輩、ちょっと待って下さいよぉ〜!」
 サダノブは何時もの様に、突然事件の事となると走り出す黒影を追いかけ、必死で叫ぶ。
「お、こ、と、わ、りぃ〜だ!」
 笑顔で黒影は、昭和の告白晩番組風ごっこで遊ぶ。

 そう……このtitleは……「定番w」でしたw

 ――――――――――Twitterで黒影遊び此処まで。

 黒影は先生を抱き抱えたまま、割れた窓硝子の前の外側て立ち止まった。
「あれ?穂さん……どうして此処に?」
 中で黒影に背を向けていた穂が、聞き慣れた黒影のその声に、バッと振り向く。
「黒影さぁ〜んっ!先にちゃんと犯人いないと困ると思って……偵察にきたら。どうしましょう!私、第一発見者ですかっ?!犯人扱いされます?!」
 と、黒影に泣きついて飛び込んでくる。
「あっ……あのぉ、穂さん……それは、サダノブの方ね。」
 黒影は苦笑いしながら、頭をひょいと避けて、穂からもサダノブが見えるようにした。
「あ……サダノブさぁんっ!」
 穂は慌てて、サダノブの方に走り寄って抱きつくのだが、サダノブは仏頂面している。
「そりゃあ、先輩の方がこう言う時、頼りになりますからね。」
 と、多分黒影と穂に言っているに違いない。
「だって、サダノブが見えなかったから。黒影さんだけかと思って……。」
 穂がそう言うから、何だか話がややこしくなる。
「えっ?俺がいないと先輩に泣きついても良いって事?……なんか、ショックなんですけど……。」
 サダノブの冷たい視線を感じる黒影。
「否、違うだろ。不安な時に誰か知っている人が来たら、誰だって頼りたくなる!僕は関係ないからなっ!」
 と、黒影は言い張るのだ。
 そして、さっさと逃げるように物音の原因を探す。
 ……定番なら鈍器か何か何だよなぁー。
 と、思っている。
「サダノブさぁ〜ん。御免なさい。勿論、サダノブさも一緒だって分かっていら、直ぐにサダノブに飛びついていました。」
 穂はサダノブに顔を上げて言った。
「でもさぁー、先輩の方が頭キレるし、俺馬鹿じゃん。」
 そうサダノブが何時迄もいじけている声が、黒影にも届く。
「おぃ!だから、僕を引き合いに出すなよっ!……それより穂さん、この硝子……何で割れたか知っていますか?」
 と、黒影は面倒だからさっさと事件の話を聞く。
「……ああ、それなら私が壊しました。びっくりして出ようと思って回し蹴りで。」
 と、答えるのだ。
 流石と言うか何というか……クノイチみたいに身軽で、フットワークの軽い穂の回し蹴りの威力は、相変わらずの様だ。
「あっ、そうなんだ。……じゃあ、あそこに転がっているご遺体にびっくりして悲鳴まで上げたんだよね?……それは分かったけど、何で黒猫の「先生」がウロウロしていたのかなぁ?」
 黒影は、何故穂が「先生」をこんな所に連れてきたのかと、不思議に思って聞く。
「ああ、今日定期検診だったのですよ「先生」。だから、ライダーズジャンパーに入れて、連れて行った後に、涼子さんに言われて、「黒影の旦那が行くと思うから、ちゃんと犯人確認しておくれ」って連絡が来て、そのまま来ちゃいました。鳴かれて犯人に気付かれない様に、手前で離したんです。」
 穂はそう答えると、黒影から「先生」を受け取った。
「でも「先生」を野放しにしたら、居なくなってしまうんじゃ……。」
 黒影は聞く。
「それは大事なんですよ。ちゃんと蚤取り首輪もしているし、此方にはほら……またたびと、余り腰抜かすから大量は駄目ですけど、喉から手が出る程、飛んで戻ってくる焼きイカ持っていますら♪」
 と、穫がポケットから袋に入った其れ等を出しただせで、抱っこされていた「先生」は、その袋が欲しくて肉球の可愛い手で必死に伸ばす。
「サダノブさぁ〜ん!これ、「先生」に取られると見境なく食いちぎってしまうから、持っていて下さい。」
 穂はサダノブに袋を渡すと、今度は「先生」は抱っこされたまま、だらりと落ち掛けになってでも、サダノブの袋を狙って届かない手でジタバタしている。
「……成る程ね。それなら、また直ぐ飛びついてくる。……じゃあ、この硝子から出ようと思ったって事は、穂さんは堂々と玄関から入ったのかな?」
 そう、これが黒影が特に聞きたかった事だ。
 穂さんなら鍵を開けてスッと入る事も可能だが、このボコボコ多角形の歪な屋敷の、ほぼ何処からでも侵入出来た筈なのだ。
「来たら、中でバタバタ音がして、何事かと外で見張っていました。暫くして、二人の男が出てきて……服装は黒っぽかったかしら。……で、玄関は空いたままでしたから、その二人が去ったのを見計らって様子を見ようと入りました。
 そうしたら、犯人が亡くなっているのを見つけたんです。」
 と、まだ少し怖かったのか、サダノブの腕にしがみつきながら穂が説明した。
「……そうか。穂さんはあまりご遺体を見慣れていないからね。通った道を案内してくれ。……それにしても犯人死亡だなんて……。その先に来た奴等だろうが、あんな地震電気男を殺害するなんて、かなりやばい奴等じゃないか。」
 黒影はそう言いながら、三人で中に入る。
 何処もぐちゃぐちゃにされ、証拠や形跡が見つかるかどうかも分からない。
「これを作為的に散らかしたなら、穂さんが到着した頃には既に殺されていたと思う。」
 黒影は犯人が死んでいた部屋へ入り、辺りを見渡した。
 後に続くサダノブと穂に黒影は振り返る。
「さぁ……仕事のようだ。この散らかり様だ。時間が掛かる。穂さんも苦手みたいだし、廊下で待っていてくれ。ドアは開けておいて。……サダノブ、少し大きめに言うから、調書だけ取ってくれ。頼んだよ。」
 と、黒影は言うとハットをサダノブに渡し、サラサラの柔らかい前髪を掻き上げ、コートを脱ぎ頭にほっ被る。
 指紋、血液等体液を赤外線照射で検出したいようだ。
 先ずは殺害された犯人から指紋を丁寧に採取し、サダノブに渡し、外付けスキャンドライブで読み込んでもらう。
 既に、黒影、穂、サダノブの指紋等、黒影の仲間の指紋は総て読み込んであるので、除外して弾かれる。
 残った指紋が侵入者の物となるのだ。
 するすると倒れた家具の間に入って行き、黒影の姿はサダノブと穂から見えなくなる。
「柔軟、凄いですねぇ……。」
 思わず穂が言った。
「事件への執着が凄いんですよ。事件の為なら、関節だって外しますよ、先輩は。」
 と、サダノブは相変わらず、この調べる時の執着心には付いていけないと改めて思うのだ。
「サダノブ!こりゃあ、先に来た二名と闘っているぞ!他を散らかしたのはカモフラージュだ。箪笥が倒れているが、これには指紋が無い。侵入者に対し、被害者が威嚇し局所地震を起こしたんだ。回転の中心点から倒れている。箪笥が倒れる程だから、凡そ震度5と思われる。この近辺で観測されているか直ぐに調べてくれ!」
 と、黒影はサダノブに頼む。
「……無い、そんなの無いですよ!」
 サダノブは検索結果を黒影に伝える。
「やはり、被害者が直接能力で振動を加えたと言う事だ。
 問題は、この被害者を殺害出来る程の、何の能力者が訪問したかだ。口元から多少の出血あり。外傷は殆ど観られないが…首元にスタンガンの痕あり。改造スタンガン……に、一見見えるな。しかしだ……これは能力のカチ合いだぞ?此れもカモフラージュだ。なぁ、サダノブ……これ、お前も確か思考対決でやばかった時……確か、多少の出血をしたな?」
 と、黒影は言うとサダノブは青褪めた。
「まさか……親父……?」
 サダノブの戸惑いも気にせず、黒影は話を続ける。
「まだ分からんだろう?思考能力者だけで何人いると思っている。まぁ、かなり正確に狙えるようだが。もう一人は電気系統か。被害者は自分の振動能力の幅を広げる為に、物理的に電気を利用したが、こっちは本物らしいな。態々カモフラージュする程だからな。目が……ほら……あれだ。」
 と、黒影が穂の手前、言い辛くて誤魔化した。
「しかし、電気かぁ……まだ強いのがいると、なるとかなりセキュリティ上げていかないと、今後対応出来なくなるな。やっと新作が出来たばかりだと言うのに。やってられん。」
 黒影はそう言いながら箪笥の下からするりと顔を出して言った。
「今、気にするのそっち?」
 サダノブは親父の関与の方でしょう?と言いたくなりながらも、黒影は可能性が広いうちは決して限定して言わない男だと諦めて、そう言う。
「そりゃそうさ。僕の寝不足は探偵社にとっても死活問題だし、判断力を欠くのは実によく無い。設計を間違えたら、大変な事になる。」
 と、サダノブから帽子を受け取り、前髪を気にした。
「……しかし、あの二人何だったんでしょうね?能力者同士は寝首をかかれるから基本、組むなんて滅多に無いんでしょう?」
 車へ戻る帰り道、サダノブが黒影に聞く。
「ああ、どちらかが多分逆らえないぐらい強いんだろう。それと利害関係若しくは何かしらの目的で動いている。」
 黒影のその言葉を聞いて穂は、
「なんか……不気味ですね。また何か起きそう……。」
 と、不安になって言った。
「いいや、大した事じゃない。不気味なんて物は分からないからそう思うだけだ。
 種が分かれば大抵はこんな物かと思うんだよ。
 マジックみたいにねぇ。」
 黒影はそう言うと、ハットを上に上げて微笑む。

 ……ハットの中からまるで鸞(らん※黒影と白雪の子。今は仏蘭西語学留学中)が其処にいるかの様に、月へ向かい無数の影の黒揚羽が連なって飛んで行く。(※鸞の移動法は蝶に分かれ飛ぶ。)

「……綺麗……。」
 穂はその景色を夢でも見るように見上げた。
「……先輩、鸞いなくて寂しいんでしょう。」
 サダノブはそう揶揄いながらも見ている。
「まぁな。……否定は出来ん。」
 と、黒影は微笑んだまま、彼の成長を想うのだった。

8招待状

 黒影が早速、新しい監視カメラのサンプルが来て、マンションに取り付けている。
 梯子に登り、作業を進める。
「こんにちは。オーナーさん。」
 と、誰かが背後から声を掛けた。
「あっ、こんにちは。今、この通り手が離せませんで。御用があるなら、滝田さんの方へお願い出来ますか。」
 黒影はそう住人だろう誰かに言う。
「いいえ、大した用事でも無いのですよ。だから素直に耳だけ貸してもらえませんか?」
「はぁ?」
 黒影は振り返ろうとしたが、動きをピタリと止めた。
 背中に……拳銃を押し当てられていたからだ。
 ――……しまった。網膜センサーもまだ作動していない、監視カメラだって。
 何より、サダノブがいない。涼子の店にだって叫んでも声は届かない。
 鳳凰の力だけでは撃たれる方が早い。
 朱雀でも熱量が高く、こんな近距離の銃が暴発すれば、己も巻き込まれる。
「……何だよ。こっちは忙しいんだ。依頼だったらその物騒な物を下ろして、事務所で聞くが?」
 と、黒影は内心焦ったが、焦ったところで何にもなりゃしないと、そう言った。
「……こっちへ来い、お前も能力者なら。佐田さんも待っている。彼は能力者の味方だ。……兵器化される前に来い!」
 ――……見えないそいつはそう言った。
 確かに。
 ……兵器化?
 黒影はショックでドライバーを床に転がす。
 何処かで恐れていた事……。これは幻聴だ。きっと夢かなにかだ。
 否……己の恐怖心が作った何かだ。
「……そんな、真実だと確証も無い事を僕は信じない。佐田だってそんな事、分かっている筈だ。
 それに何て非現実的なんだ。能力者といっても、生身の人間だぞ?機械じゃないんだ。……笑わせるなよ。」
 と、黒影は顔を引き攣らせたまま言った。
「佐田さんが立ち上がらなくてはならなかった理由を教えれば納得してくれるかなぁ。……首謀者側に記憶を消す能力者がいる。全ての記憶が無くなれば、元の生活には戻れない。そこに殺人兵器になるよう教育する。
 止められるのは佐田さんの強い思考読み……否、脳への破壊能力しかない。警察はその能力者兵器の軍に恐れを成して下ったよ。
 政府も見て見ぬフリをしている。能力者で作り上げた、まるで暗殺S.W.A.Tさ。名目上、正義を翳すが、暗殺集団。
 どうです?佐田さんはそれを止めようとしている。黒影さんには是非来て欲しいと。
 既に、警察に能力がバレているのなら、迷っている暇はない。違うか?」

 ……何だ?……これは……夢じゃない……。

 その言葉を聞いて黒影は絶望と言う言葉を味わった。
「……佐田さんに……伝えてくれ。……動くな……けして、殺しなどこの僕が許さないとなっ!理由、其々の正義……どうだって良いんだ!殺すなっ!……僕からはそれだけだ。後は……そうだな……生き抜けと。どんな時代もどんな世界も。
 ……僕は誰かには左右されない。
 僕の選ぶ道……「真実」が照らす道しか歩めない。
 それが如何なる道でも……変えられないものがある。
 だから、丁重にお断りする。」
 黒影はただ真っ直ぐ先を見据えて言う。
 その言葉は何処までも澄んで歪む事のない一筋の影……そのものであった。
「黒影さん、考え直してくれ!あんたが兵器になってしまったら、俺達はあんたを敵に回したくは無いんだ。」
 背後の男はそう慌てた口調で言う。
「そうだな。なんだ、僕には影があるじゃあないかと、丁度思い出したところだよ。影を後ろに回せば、君の手を捻り潰す事も足元に穴を開けるのも簡単だった。
 僕の能力はね、記憶と経験を重ねてこそ発揮出来る。
 そんな戦いなど、始めたところで終わりが見えないな。何方にも勝機がない。僕は多忙なただの探偵だ。よってどちらにつくつもりはないっ!
 例え何方からも命を狙われようが、僕の生き方は僕が決めるっ!去れっ!」
 黒影が珍しく凄い剣幕で振り返ったと同時に、背後の男の向けていた拳銃は、その男自身の顳顬へと向けられていた。
「戦場ならば死んでいる。甘く見るな……命を。」
 黒影の影から伸びた手が、男の肘を掴み顳顬まで引っ張り上げたのだ。
「……何方にもつかない……後悔しますよ。」
 と、男は震えながらも黒影に言う。
「僕は闘う上で、己の判断に迷いはないと確信している!覚悟が違うんだっ!一緒にしないで頂きたいな。」
 黒影からとんでもない、真っ暗な井戸の底から湧き上がる様な冷たい殺気が溢れる。
 男は小さくヒィッと、あまりの殺気に小さな声を残すと、飛ぶ様に逃げて行った。
「……全く……。何故こうも仕事ばかり増えるんだ。」
 黒影はそう呟くと、何事も無かったように監視カメラの取り付けの続きを始めるのだった。
 ――――――――――

「さぁ〜て、取り付け完了♪暫く保ってくれれば良いのだが……。」
 黒影がそう言って起動したレンズには、何故か悲しそうに微笑んだ黒影の顔が残った。
 ――……ごめん……。
 黒影は泣き出しそうになった涙を呑みんで……闇の中へと……姿を消した。

 ―――――――――――
「……えっ?……今……何て?」
 白雪は、サダノブからの報告を聞いてそう言うと、声も上げずポロポロと涙を流す。
「……こんなに探してもいないなんて……。いざとなったら影に隠れるだろうし、何かしら痕跡を残す筈だ。
 ……勲が白雪にも何も言わずに消えるなんて、何かを守って消えたに違いない。
 各々単独行動は絶対しない!良いね!」
 深刻な顔をして、風柳が白雪とサダノブに言った。

 ……一体何を守ってんだ!あの馬鹿(黒影)はっ!……
 ……白雪にも心配を掛けてでも消える理由……
 ……只事ではない……。

 風柳はそれを直ぐに理解したが、白雪とサダノブが余計に心配する。
 そうだ、黒影が望む「何時も通り」でいてやらないと、黒影が悲しむ。
 風柳は何時もの様に茶を啜り、消えた佐田 明仁の事を考えていた。……何か、関係あるのだろうか。
 黒影が最近気に掛けていた事はそのぐらいだ。

 ――――――――――
「はぁ……はぁ……此処なら……何とか……。」
 黒影は息を切らしながらも、車では目立つので影から影へと移動する。
 しかし、連続で集中しなくてはならず、かなりこたえてきた。
「はぁ……。……雨……か……。」
 木の影に隠れ、ロングコートを頭から被ると小さく丸くなった。
 上を見上げれば杉の葉についた雫が微かに光って見える。

 「……風柳さん……。」

 ふと、腹違いの兄の事を考えた。
 きっと……気付いてくれる。
 あの何も逃しはしない、白虎の大きな金と黒の瞳ならば。
 いつか、燃え盛る炎の中でさえ、見つけてくれたように。
 ――――――――――――

「……ん?」
 風柳は、何故か黒影に呼ばれたような気がして、何時もいる筈の黒影の席を見た。
「……そうか。隠れているなら、俺が動いてやらなきゃな。サダノブ、白雪……ちょっと調べ物がある。
 黒影が帰ってきても良い様に、二人は居なさい。」
 風柳はそう言うと、夕飯をそそくさと食べ、着替えに部屋へ行った。
「あっ……それなら……。」
 と、白雪はキッチンで何かしているようだ。
 風柳がリビングに戻ると、白雪は包みを渡す。
「風柳さん……珈琲とお握り。渡してあげて。」
 と、白雪はまだ悲しいのに無理して微笑んで言う。
「無理しなくて良い。どうせ直ぐ戻るよ。何時迄も黙って隠れているような奴には見えんだろう?」
 風柳は相変わらず、健気なものだと微笑み出掛ける。
 黒影が調べ辛い場所……警察内部だ。
 隠れる理由はどうせ……迷惑を掛けられないから。
 じゃあ、その迷惑とやらの原因を……はっきりさせるのみ。
 風柳自身も黒影から佐田 明仁失踪を聞いて、気になっていたんだ。
 こうなったら、「能力者案件特殊係」全員で乗り込んでやる!
 ――――――――――――――――

 体力も奪われ始めた頃、黒影は必死で次から次へと現れる能力者の追っ手から何とか逃げ延び、あの場所にいる。
 そう……犯人が殺害された、まだキープアウトのテープが残る、あの館前に。
 雨に打たれた身体が冷え、酷い眠気と怠さを引き摺りながら、中へ入り込む。
 ……見つけて貰えるだろうか……
 せめて、あの証拠を見つけた箪笥の下なら、サダノブか穂さん、若しくは調書を読んだ誰かが気付いてくれるかも知れない。
 黒影はそう思って傾れ込むように、その隙間に入り身を潜めたまま浅い眠りに就いた。
 ――――――――――――――

「悪いな、皆んな急に……。」
 風柳が申し訳なさそうに言う。
「黒影が居なくなったって聞きゃあ、そりゃあ白雪ちゃんが今頃どんなに心配しているかと思うと、居ても立っても居られないですよ!」
 と、白雪ファンの一人が言い出すと、
「はぁ?……今は勲君の方でしょう?!あんた達最低っ!あの無線の甘い声が聞けなくなったら、やる気無くなんのよ!ねぇ?!」
 と、黒影ファンの女性刑事らは顔を合わせて頷く。
「そうよ!刑事でもあんなに、女性扱いしてくれる癒しは此処にはいやしないんだから!全然紳士でもないただのムサ刑事共、さっさと行くわよっ!」
 と、女刑事らは毒を吐きまくってガツガツと出ていく。
「これ、見つけられなかったら、当分八つ当たりくらいますよ。株上げるんなら今だ!先に見つけるぞっ!」
 と、「男刑事らも見つけたらモテる!」に賭けて走り出す。
「あいつら……良い奴らなんだけど。私利私欲が多過ぎる……。」
 風柳は苦笑いしながらも、彼らを見ながら歩きだした。

 その行く先は――……「能力者専用刑務所」

 その監獄は他のとは異質で、個々の能力が出せないように対応されている。
 名称は普通の地域の名と刑務所でカモフラージュしている。
 風柳が一気に刑務所を指差す。
 まるで軍隊の正しい規律の様に、散り散りになり刑務所を少人数ながら、抜け目無く取り囲んだ。
 普段、能力者と対峙しているのだから、こんな事は朝飯前だ。
 そして、風柳は署長に連絡を入れる。
「なんだ、こんな時間に。急ぎか?」
 署長はいつものように、何も知らずに出た。
「今、能力者専用刑務所の前にいましてねぇ。ちょっと伺いたい事があるんですよ。」
 と、風柳は答える。
 署長ははて?と思いながらも、
「一体何でそんな所に……。聞きたいなら、今聞けば良いじゃないか。」
 尤もな返事をする。
「しかし、ちょっと込み入った話なんですよ。……署長のね、そのお顔が必要なんです。……ヒント佐田 明仁。先に囲っておきました。来ていただくが、僕らで刑務所の中の犯罪者全員解放しながら聴取するのと、どっちがお好みですかね?全員処分は幾ら署長でも拙いんじゃないですか?」
 と、風柳は笑いながら署長に現場説明する。
「なっ、何をしとるんだ!早く撤退しろっ!」
 署長はやっと状況が分かって、慌てて怒鳴った。
「そうしたいのですが……俺の弟……黒影が姿を消した。このまま黙っていませんよ。俺も……能力者案件特殊係全員も。
 待っていますから。今から1時間あれば車で余裕に着く筈です。5分遅れる毎に一人解放する。他の連中を呼んだ時点で全然解放する。……俺達だけ知らないなんて……今更、そんな仲じゃないでしょう?本気ですから……では。」
「まっ!風柳待てっ!まっ……」
 風柳は伝える事だけ伝えて連絡を切った。
 署長の待ても無視。
 署長はきっと、大量の銃使用許可書が出ている事に、この後驚愕するに違いない。

 ――――――――――――――――
「おいっ!何をやっとる!風柳は何処だ?」
 署長は車を降りてくるなり、そう怒鳴りちらして出て来た。
 風柳は振り返り微笑むと、
「いやぁ、流石我らの署長殿。態々俺の家族にまで気を遣ってもらえるなんて、出来たお人だ。」
 と、嫌がらせ程のお膳立てをする。
「早く引けっ!銃まで持ち出して全く……。」
 そう言ったが、風柳は事もあろうか、
「署長だ!囲めっ!」
 と、無線で飛ばす。
一斉に、ザザザッと滑り込む様に、数人の刑事が署長に銃を向ける始末だ。
「何だ、何だ……巫山戯るのも大概にしろ!誰に銃を向けているのか分かっているのかっ!」
 署長は狼狽えながらも言った。
「署長。」
「署長ですね。」
「署長には一応見えるわ。」
 と、各々詰まらなさそうに言う。
「署長が使えないなら、とっとと中で暴れるわよ!勲君の方がイケメンだもん。価値、断然上っ!」
 と、女刑事が言うと、
「だよなぁー。何も知らないんじゃ無いんですかぁ?のほほん署長だし。」
 と、他も言い出す。
 そこまで言われては、流石の署長も面子が立たない。
「今、話してくれればイケてる署長。今、話してくれなかったら影でコソコソちっせえ奴だと言われ続ける署長……どっちが未来理想ですかね?」
 と、風柳は崩さない微笑みで聞いた。
「わーた!分かったから、銃を下ろしなさいっ!全く……。」
 そう言って、署長は観念して佐田 明仁が消えた原因となった、能力者の兵器化について話す。
「……うっそ……此処、日本よ。」
「……幾ら増えたからって……。」
 誰もがショックを隠せなかった。
「じゃあ、俺達が今まで捕まえていたのは、何だったんだ!」
 風柳が怒りを抑え切れずに、署長に吼えた。
「ちっ、違う。他は分からんが、最低でも我々の管轄内で捕らえた能力犯罪者は、通常の期間の刑に服させている。
 それは、若くして警察協力してくれた黒影と白雪の存在を知っていたからに他ならない。だから、検挙した事実を隠している。そのお陰で、検挙率は悪いわ、予算だけ良く食うと嫌味だって言われているよ。
 だから兵器化の話は敢えて黙っていた。
 今まで通り、能力者の尊厳を守ってきたつもりだ。
 どう言う形でかは分からないが、恐らく佐田 明仁はそれを聞き動いた。誰よりも強い思考能力を持っているからこそ、彼に苦渋の決断をさせてしまったのだろう。
 元々検挙したのも知られてはいない。だから、脱走扱いにしなかった。
 黒影にはとても言えなかった。巻き込んですまん、風柳。」
「……署長……。一人で能力者を平等に扱っていてくれたんですね。さっきのは撤回!見直しましたよっ!……こいつを早く黒影に伝えてやらないと。どうせ、俺が刑事だから巻き込まずに一人で逃げ回ってる。
 署長!……能力者案件特殊係はこれより、黒影捜索にあたる許可を頂きたいっ!」
 風柳は署長のやっていてくれた事に敬意を表し、敬礼をしながらそう言った。
「風柳!必ず黒影を連れて帰れっ!失敗は許されん、行けっ!」
 署長は敬礼を返し、直々に命令とする。

 署長は黙って車に再び乗ると、肩の荷を下ろした。
「あれだけ熱けりゃあ……やってくれる。」
 そう呟いて目を閉じた。

🔸次の↓「黒影紳士」season5-1幕 第五章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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泪澄  黒烏
お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。