世界名🌎「Prodigy-神童-」⚔️第五章　還るべき場所

　――第五章　還るべき場所――

　暫しの沈黙のあと、DrはJr.にぼそりと言った。
｢あれはお前なりの礼のつもりか…。｣
と。あれというのはルイスが倒れた後、Jr.がルイスをここまで背負って運んできた事だった。あれから一行は随分とある場所を目指して進んでいた。
Jr.はその言葉に反応を示すわけでもなく、只ゆらゆらと揺れるランプの炎に見入るだけだった。
ザインとアリスの方はすっかり草臥れようで、ザインは椅子に座って、その膝にアリスが座り、二人共遊び疲れた子供のように寄り添い夢の中といったところだろうか。
Jr.の背後でこっそりと布を翻す音がした。
｢何で野宿なんぞしているんだ。｣
Jr.が振り向くと其処には今し方起きたらしいルイスの姿があった。
｢Arcadiaへ向かっている。｣
ルイスの質問に答えたのはDr.だった。
｢俺は聞いてないぞ。｣
ルイスは不機嫌そうにDr.に返す。
｢当然だろ、お前は倒れていたんだ。｣
相変わらず仲は悪いままで、Dr.もぶっきらぼうに言った。
Dr.からすればザインに喧嘩をふっかけた同様のルイスが気にいらなかったのかも知れない。
幾ら犬猿の仲であろうとそんな事は容易くルイスにも予測はついた。
｢ブラコン…。｣
小さな声だが、明らかにDr.を挑発すべくルイスが言った。ルイスは自分が無様に倒れ、更に事もあろうかDr.に治療されたであろう事が気に入らないのた。Dr.もそのくらいは理解できた。顔を合わせては文句ばかり言い合うが、
案外わかりきった仲なのかもしれなかった。
｢ロリコン…。｣
Dr.も小声で反撃する。似た者同士の二人は同時に立ち上がり臨戦体勢に入り火花が散る寸前だ。
｢煩いぞ、ドク…。｣
目を擦りながらそう言ったのはザインだった。
寝起きが悪いのかどことなく呆然と二人を見る。
｢ルイスだっ♪｣
ザインが動いたせいでアリスも目覚めたようだ。アリスは二人の姿を見て安心したようだったが、
｢喧嘩はいけないのん、ルイス。｣
と言って、二人を止めるべく釘を刺す。
｢寝るから静かにしろっ！｣
ザインもアリスに加勢した。ルイスとDr.は渋々武器を収める。
｢救われたな。｣
ルイスが捨て台詞を吐いたかと思うとDr.も、
｢お前がな…。｣
と言って、二人は反対を向いてその場を去った。
｢本当にそっくりだな、あいつら。｣
ザインがぽそりと零すとアリスは、
｢それは内緒なのん♪｣
と言って、人差し指を出してザインに忠告した。何時もの煩いコンビが戻るとザインもほっとしたのか、くすりと小さな笑みを浮かべた。
けれどすぐにザインのその笑みは消え、どことなく真剣な表情に変わっていた。それにいち早く気付いたのはJr.だった。
｢気にすんな。そんなに根に持つタイプじゃなさそうだ。｣
Jr.は以前のルイスが倒れた一件で、ザインの考えに変化があったように感じた。ルイスが戦っていた時、Jr.はそんな事も知らずにジャンク屋の主人と話していて、新しい正軍の本拠地を知った。正軍の動きは思った以上に早い…。ザインがArcadiaの地に行く事に反発するであろう事はDr.から聞いていた。けれど、ザインは自分なりにこの戦いを始めてしまった責任を感じているようだった。ルイスが目覚めて、元のようにザインと行動を共にするか微妙だった。だからこそ、何時ものようにDr.に接するルイスを見て安堵したに違いない。ザインは寝る気配もなく、無言でルイスの後を追った。
「傷はどうだ？」
ザインは、ルイスに話し掛けた。
「どっかの馬鹿みたいな事を聞くな。」
ルイスがそう言うと、Dr.の事だろうと、ザインは推測した。どことなく、未だぎこちない空気が二人の間にはある。けれど、それでも人と向き合う事を苦手とするザインが話し掛けてきた真意をルイスは無視出来なかった。
「俺は…守るものがあって戦って来た。お前は…何の為に鬼神になるのか…理解できなかった。」
落ち着いた声でルイスは言った。暫しの沈黙の後ザインは、
「俺は…何時だって戦う事が怖くて…出来るなら戦いたくない。しかし…現状はそうもいかない。どうせ戦うのならば、どうせこの力があるのなら、自分の為に使いたいと思った。
…只の…我侭だ。」
と答えた。ザインらしい答えかも知れない…。ルイスは、自分がつまらぬ事に拘っていたのかもしれないと小さく苦笑した。
「戦わないように…戦うのか…。変わっているな、お前は。」
そこには何時ものルイスがいた。ザインも少し安堵した。
「Prodigyの力…何故、違うのかと思っていたんだ。俺がオリジナルで戦う為に創られたのなら、何故弟が俺の力を止められる存在として創られたのか考えた事がある。戦う為ではない…何か、意味があるように感じた。だから…確かめに行く。」
ザインはそう言うと、これから行くであろう地を思ってか、少し険しい目つきに変わった。
「…そういう事ならば、俺もついて行くしかないな。…その答えとやらを、俺も知りたいと思っていた。」
ルイスはザインの心境を悟ってか、そう珍しく優しい口調で言う。
全ての意味…生まれ…戦い…そして死ぬだけの意味を欲した。誰もがどうでも良い事と思ったかも知れない…。それでも、真実はあるのだ。
きっと…帰るべきあの場所に…。

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