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「黒影紳士」season5-3幕〜世界戦線を打ち砕け!編〜「砂上の夢」🎩第一章 1白昼夢 2砂城へ


白雪の大ピンチに怒りの黒影炸裂。鸞まで参戦!?
Q.砂かけババ⚫️を何回言ったでしょうかw
答えは次回あらすじにあると良いよねw💦
創世神が負傷だと⁉️どうなっちゃうんだ、黒影紳士!
そして本線と複雑に絡み合う2本の線が浮上する。
新たなる謎は有り得ない転落死⁉️
そして世界の主人公を巻き込む闘いが、今始まりの嘆きを上げる。
何処まで行くんだ黒影?! …答えは何処までもに決まっている!
さあ、今回はデカい謎が待ってるぞ。 心の準備は良いか? 行くぞ!解陣っ‼️

※今回も「一頁五千切り」を使用しておりましたが、note様移転の際に休憩地点を第三章前後の中間地点で推奨している為、いつも道理一頁約一万文字とさせて頂きます。いつも通り休憩を挟んでお楽しみ下さい。

🔶連鎖発動!!この「黒影紳士season5-3」に「黒影紳士の世界」掲載から「縞瑪瑙(しまめのう)の双龍~オニキスの番龍」の話しが登場するぞ。
先に予習するなら以下の🔗リンクから連載先へ行って読んで、より「黒影紳士」を深くお楽しみ下さい。
この「黒影紳士season5-3」の末章からも連載先に行ける道を用意してあります。前後どちらか、お好みで挟んで読んで下さい。僕のおすすめは先かな。連鎖先に飛んでも、こちらの「黒影紳士season5-3」のこの章と末章に戻れるように道がありますので、安心していってらっしゃいませ(^^♪🎩🌹

↓🔗連鎖先「縞瑪瑙の双龍……を先に読みに行く


1白昼夢

 朝霧に包まれ、浮き出す白壁の屋敷……
 真っ赤な薔薇がその視界を劈く様に
 際立って緩やかな風に呼吸していた

 辺りを見渡し、これが予知夢ではないと気付くが
 一歩一歩……
 踏しめる感触と音は鮮やかである。
 屋敷の重厚な扉の上に、長い黒髪の女性がいた。
 その身体はやや痩せて見え、朝霧が濃い所為か白いロングの引き摺る丈程のワンピースを着ている様だ。
 着ているようだと言うのは全体が霞み、顔立ちも目鼻の位置は分かるが、細部までは遠さもあり見えない。
 まるで幽霊の様に、辺りに溶け込み、モノクロームの映画の中にいる感覚になる。
「……あの……。」
 これは夢であろうと脳裏では理解しているものの、茫然と立ち尽くしたところで、夢から目覚める訳でもあるまいと、足を進め声を掛けてみる。
 あまり真下から女性を見上げるのも失礼かと、僕はやや手前から見上げていた。
 斜め方向から声を掛けた僕に対して、その女性はゆっくりと顔を向け始める。
 ……あと幾分かで顔立ちもはっきりと見えるだろうと思えた時、風がどっと吹き女性の顔が隠れた。
 僕はシルクハットが飛ばされぬよう、帽子の底を押さえる。
 一瞬の風に僕が着ていた漆黒のロングコートが波打ち、後方へと持っていかれそうになる。
 足に力を加えて其れでも女性を探すが、砂が視界を襲い思わず目を閉じ顔を逸らす。
 再び目を女性の居た筈の場所へ戻すと、首から上が……無い。
 これは夢と言い聞かせながら、その残った鎖骨辺りからまだ残っている僅かな首を凝視した。
 小走りで走り寄ると、やはり砂になった様だ。
 我ながら何て夢を見ているのだ……これではまるで、普段と変わらない。
 様々な能力者の中から、犯罪者を捕まえる……。
 仕事とあまり変わらない夢は誰だって見たくはない。
 まるで終わりない仕事をしている気分だった。
 僕は大きな溜息を吐き、変化の無い夢にこれは行かなくてはいけないらしいと、腹を括る。
 扉を開けようと更に進もうとした時、更なる一陣の風が巻き起こり、咄嗟に女性に視線を戻す。
 今度は少し長い突風である。
 帽子を押さえ、今度こそはと目に飛び込んで来る砂にも負けず、目を細めるだけに留める。
 風の轟音が軈て、違うものに聞こえる気がするのだ。
 これは……
 死前喘鳴(デスラトル。または臨終喉鳴。英語に対する当て字)ではないか。
「……けて……たす……け……。」
 目の前の女性は既に顔が無いのに、死前喘鳴の中に途切れてはいるが、助けを呼ぶ声だけが澄んで響く。
「……被害者の方か?」
 僕は思わずそう口から溢して、女性を見上げたまま突風の中を走り出そうとした。
 なのに……動くまでも無く、無情にもその女性は砂と成り、砕け崩れ風化したのだ。
 夢であるのに、目の前で救えないどころか、何一つできなかった事に、所謂無力さや虚無感を感じてしまう。
 そんな時、僕は己の両手の内を広げ、見詰めるのだ。
 ……人は此れを後悔と呼ぶのだろうか。
 そんな事を考えては、掌をゆっくり閉じ、力を込める。
 その力で握り潰したのは、正義か救済なのか……僕にも分からないのだよ。

「……かげ……黒影。……ねぇ……。」

 はっとして黒影はぱちりと目を開け、辺りを見渡す。
 見上げればマンションのミラー硝子が見え、それを囲むのは夢と似た朝霧の様な世界。
 曇り硝子の様に薄白い高層雲が空を覆っている。
 太陽は朧気で、まだ夢が終わっていないのかと錯覚した。
 両の手先を見下ろすと、古ぼけた黒光りしてきた、艶やかな磨き上げの木が見え、真上を見て、
「……此処は……神社か。」
 と、黒影は理解し呟く。
「こんな所で転寝していたのね。……雲行きも怪しいわ。風邪を引くわ。早くお家に帰るわよ。」
 妻の白雪は黒影にそう言うと、黒影の鼻の先を人差し指で軽くツンと押す。
 白雪が注意する時は、大概こんなものだが、怒ると心臓を一撃する程の悪口ではないが、悪態に近い痛い小言を言われるので、黒影はぼんやりまだ夢が気掛かりではあったが、手を引かれて歩き出す。
 帰ると言っても神社の真横が家なので、のんびり二人は向かう。
 早く早くと手を引く白雪の斜め後ろ姿を、黒影はじっと見詰めていた。
 白雪が好んで着る服は白いロリータのワンピースだったので、丈が膝下程とは言え、何だか夢の女に面影が似ている気がしてならないのだ。
 しかし、身長も白雪の方が低いし、髪色もブロンドに薄茶が入っている。
「なぁに?じろじろと。」
 白雪が、視線を感じて振り向き黒影に聞く。
「あぁ……夢に出た人に似てると思ったけれど、やっぱり全然違った。」
 と、黒髪は少し安堵し微笑んで答える。
「似てるって……美人?」
 と、白雪は黒影の顔を覗き込むと、黒影はクスクスと笑い、
「美人かどうかも分からない。顔無し女だったよ。」
 夢で怒られたら堪らないと、そう話した。
「えぇ……やだぁ顔無しと似てるって何?……きっと、神様が神社の階段なんかで転寝していたから、白昼夢を怖くしてくれたのよ。早く起きなさぁ〜いって。」
 と、呆れながらも白雪は話し微笑む。
「あそこに祀られているのは僕(鳳凰)なんだがな。」
 黒影は、それならば仕方ないとにっこりと笑い帽子の鍔を気にした。
「……じゃあ、きっと鳳ちゃん(鳳凰の雄。黒影に力を与えた鳳凰)がいたんだわ。」
 そんな他愛の無い話しをしていた。
 あの日が……こんなにも遠く恋しくなるなんて……。
 ――――――――――――――

 その3日後の事だった。
 黒影は近頃多発している、誘拐事件の事で署長からもしかして、消えたのは能力者だったのではないか。兵器化されてしまったのではないかと、その調査を依頼された。
 能力者犯罪特殊係でもある刑事の、腹違いの兄、風柳と話しを聞き帰って来る。
「……あれ?白雪〜?」
 何時もなら真っ先に、お帰りと言って来る白雪が見当たらない。
「珍しい事もあるんだな。そうだ、洗濯物でも干していて気付かないんじゃないか?」
 と、風柳は心配にもなったが、取り敢えず風柳邸を探してみたら如何だと提案し、緑茶を作りたいのかキッチンカウンターに置いてあるセットを弄り出す。
 黒影は心做しか足早に、一階の白雪の部屋を見て見当たらず二階への階段を登って行った。
「白雪ー?……帰ってきたよ。」
 と、言ってみても音沙汰が無い。
 自室に行くと、黒影の何時も座っている安楽椅子の背凭れから、白雪の頭が見えた。
「……なんだ。此処に居たのか。僕の真似して転寝かい?」
 そう声を掛けながら黒影は微笑み、半分程開けられた窓辺に向けられた安楽椅子の前に周る。
 白雪の視線に合わせ、只今と言おうとしたが声が出なかった。
「……白雪!?何があった!」
 黒影は白雪に触れるのも恐ろしく、慌てて窓を締めた。
 多色の柔らかな日差しが映すのは、何時もの黒影を迎えてくれる白雪でも、沢山の笑顔をくれた白雪とは違って見える。
 瑞々しい肌にほんのりと浮かぶ頬のチークの様に優しい染井吉野色も、何時も尖らせたり……笑ったり……黒影の名を呼んだ赤みを帯びた唇も……輝かせた瞳や睫毛さえも白く、彫像の様ではないか。
 ……夢と同じ……だと。
 あの夢の中で見た女の風化する直前の顔色は、遠くからだったが黒目も白く変わっていたと思い出す。
「……白……雪……?」
 黒影がそっと、肘置きに掛けられた真っ白に変わった手に触れると、歪みから微かに亀裂が生じる。
「……あっ。」
 ……壊れてしまう……。
 何よりも大切な人が……何よりも守りたい人が……。
 黒影は慌てて、その亀裂を治そうと、
「待っていて、必ず……必ず戻るからっ!」
 そう悲壮な声を上げ、階段を降りて行く。
「どうしたんだ?騒がしい……。」
 風柳がリビングで緑茶を何時もの様に啜って聞く。
黒影はオープンキッチンで、水をグラスに入れると、やっと顔を上げる。
「……白雪が……白雪が……っ!」
 そう言った黒影の顔は今にも泣き出しそうで、目に溜まった涙が崩れ出す寸前だ。
 こんなにまで動揺しきった黒影を風柳すら初めて見た。
「黒影、落ち着け!何があったんだ。」
 これでは何も分からないと、風柳は黒影にそう伝えたが、黒影はそれさえ無視してまた慌ただしく二階へ向かうのだ。
「……何だぁ?」
 風柳は全く持って訳が分からず、湯呑みを置いてゆっくり黒影の後を追った。
「白雪?!」
 こんなに不安な顔を、白雪には見せた事が無い。
 けれど……心配して覗き込んだ顔は、何度話しかけても真っ白で動きはしない。
 気付いてはいる。砂の塊だと――。
 けれど、黒影は血相を掻いて先程の亀裂に水を少し垂らし、くっ付けようとする。
 もしかしたら、痛覚はあるかも知れない。
 はたまた治った時に痛がるかも知れない。
 サラサラの砂は、水を差してもなかなかくっつかなかった。
 失う事に震えた黒影の手は本人の願いとは裏腹に、言う事を聞いてくれないのだ。
 無情にも崩れ砕けた指が、粉々になり床に広がった。
 何も言えず、触れる事も出来ずに、黒影は悔しさと悲しみに堪えていた涙を流し、白雪を見上げた。
「……なぁ……僕はきっとまた……悪い夢を見ているだけ何だよなぁ?……。」
 弱々しいその声だけが、二人だけの部屋に何時迄も響いて行くようだ。
 目の前で、少しずつ崩れ行く愛しい者を、黒影はもう声すら出せず、見る事しか出来ずにいる。
 大きく腹部ががくんと割れる様にずれて、倒れ始める。
 黒影は無意識に、白雪の上半身を抱きしめたが、衝突で全てが砂に変わった。
 己の両腕と手に震えながら視線を落とす。
 サラサラと擦り抜けて行く砂は……白雪の姿を跡形も無く消し、コートの袖に僅か残った砂が、これは現実だと知らせるのだ。
「――――ぁあ嗚呼――っ!!」
 その絶望的な大きな叫びを聞き、風柳は何事かと黒影の部屋に走った。
 風柳はその光景を見て立ち止まる。
 黒影が涙を流し、床の大量の砂を掻き集めては、その砂を抱き締めていたのだ。
 その行為さえ無意味だと気付いたのか、軈て砂の山を抱き締めながら蹲っている。
 ――――――――――――

「……落ち着いたか?」
 風柳が目覚めた黒影に水を差し出し言う。
 黒影は自室のベッドから天井を茫然と見詰め、ちらりと安楽椅子の前の床へ、視線を移す。
「……砂、そのままにしておいてくれたんですね。……分かっているんです、頭では。こんな死に方を通常の人はしない。……能力者の仕業だって。それに、そうだとしたら生きている可能性もある。……なのに……。」
 ……なのに……独りで待っている間に、怖い想いをさせたのは変わらない。
 白雪が、息子の鸞(らん)が手を離れてきたから、そろそろ現役に戻ろうか……そう、意気込んで話していた日が懐かしかった。
 そうしておけば……昔の様に、何時も現場に連れて行けば安心だったのに。
 何故、後回しにして寂しい想いをさせてしまったのだろうと思うと、過ぎた自分を責めたくもなった。
 ……それに……この砂は一体何だ?消したのか、既に殺したのか、体を砂に変えバラバラにしたのかすら分からない。
 安否が全く分からないのだ。
「……黒影?大丈夫か?」
 暫しの沈黙……。どうやら何か考えている黒影に、風柳はあまり今は悲観し過ぎも良く無いと思い、考えを断ち切らせる為に声を掛ける。
「……ええ……まぁ……。サダノブはまだ事務用品の買い出しかなぁ……。」
 そう言いながら、黒影は上半身を布団から気怠そうに剥がし、嫌々そうにベッドから出た。
「……まだ、寝ていたいんじゃないのか?」
 と、風柳が聞いたが黒影は、
 「白雪がいないなら、探し出すのは僕の仕事だ。昔から迷い子になった時からずっと……変わらない仕事です。」
 そう言って、風柳がアンティークの机に置いてくれたらしい、シルクハットを手にして部屋を出る。
 風柳は黒影に次いで部屋を出る際、安楽椅子前の床の砂をじっと見詰めた。
「白雪……お前の旦那は世界一の名探偵なんだろう?……だったら何とかなる。安心して待っていなさい。」
 と、まるでそこに白雪がいるように話し部屋を後にした。
 ――――――――――――

「あぁ!サダノブ、帰っていたのか。」
 黒影はサダノブの姿を見ると、少しだけ表情を明るくする。
「今、帰って来たところですよ。何ですかぁ〜。何時もは、ああ……いたのかぐらいなのに。……何か良い事でも?」
 と、サダノブは何か怪しいと勘繰りながらも聞いた。
「……逆だ。バッドNEWSだよ。……白雪が砂を使う能力者の襲撃にあった。二階で砂になっている。安否不明だ。」
 黒影はあれだけ悲しんだのに、淡々とそんな大事な事を言うので、サダノブは驚く。
「へっ?白雪さんが?……安否不明って……。心配症の先輩が何でそんな平静保って言えますねぇ?」
 ただでさえ、普段から白雪には過保護で心配症が過ぎるのに、安否の分からない時に限って落ち着いているなんて、何年も黒影についてきたサダノブでさえ理解出来ない。
「全然平気じゃないよ。今さっきまで寝込んでいた。……そして、今は……犯人に腑煮えくりまくっている!……つまり、お使いご苦労様。さっさと犯人探しに行くぞと言いたい訳だ。」
 と、黒影はにんまり笑うのだ。

2砂城へ

「今、帰って来たのにぃ〜。」
 と、サダノブは憤くれる。
「……温度差が違うか。お前は氷点下なら、僕はとっくに火炎放射器振り回したい気分だよっ!丸焦げになりたくなかったら、さっさと動くっ!」
 腰に手を手をあて、黒影が眉間に皺を寄せられて、巫山戯ている場合ではないと叱咤した。
「分かりましたよー。俺、何にも聞いてないんだから、温度差分からなくても仕方無いでしょう?……で、何処行くんですか?」
 と、サダノブは丸焦げが嫌で、渋々聞いた。
「そんなの、「たすか〜る」(マンション一階テナント。防犯専門店。夢探偵社と提携し、敷地内の防犯を担っている。)に決まっているじゃないか。」
 黒影は帽子を被り玄関を開けて行った。
「で?そんな砂にする能力者なんて、どうやって闘うんです?」
 サダノブは黒影からの八つ当たりを回避すべく、先に話しを聞く。
「……分からん。白雪を見つけた時にはもう砂になっていた。情報が少な過ぎる。たすか〜るにあるうち(風柳邸兼、探偵社事務所)の周りの監視カメラを確認させてもらおう。」
 黒影はサダノブを見ずに、カツカツと硬い靴底を鳴らしながら言った。
 ――――――――――
「如何ですか?」
 黒影は、店奥のモニタールームに入り、黒影と風柳が帰って来る前の黒影の部屋前の画像を、涼子(店主で元大泥棒)と観ている。
 サダノブは木製の座卓に、此処の店員でもある穂(みのる。サダノブの婚約者)と、黒猫の「先生」をじゃらし乍(なが)らも、不安そうにモニタールームを見詰めた。
 窓の外から白雪があの安楽椅子に座っている姿が見える。
 如何やら洗濯物を干した後、疲れて一休みでもしていたみたいだ。
 やはりあの崩れた白雪の姿が、同一のものであると判ると、黒影は己の心拍数が上がるのを感じていた。
 それと同時に、動いていた姿が……色鮮やかな姿が、こんなにも愛おしいものだったかと、思わずにはいられない。
 「あの黒影の旦那のお気に入りの窓ねぇ、流石に古くてセキュリティも付けられない。……犯人が下見でもしたのかもよ。」
 と、涼子は今日も真っ赤な着物の袂を、ひらりひらりと蝶の様に揺蕩わせ遊ぶ。
暫く黒影は黙ったまま、モニターをロングコートのポケットに手を入れ、立ち尽くし凝視していた。
 此れでも、黒影にとっては休んでいる立ち姿である。
「……夢と……同じだ。」
 軈て黒影は呟いた。
「……夢?」
 思わず涼子も袂を遊ばせるのを止め、モニターに釘付けになる。
「……ああ、この女性……神社の下で転寝していたら、夢に出てきた。夢ではこの女性が砂になったが……。」
 黒影は窓の下に現れた招かねざる訪問者に興味を持ち、ポケットから手を出すと腕組みし、モニターに前のめりになり釘付けになっている。
「……顔までは夢では見えなかったが……、多分此奴(こいつ)だ。」
ほぼ、背格好や雰囲気で、黒影は間違い無いと言う。
「……黒影の旦那の夢とあっちゃあ、隅に置いておく話しでもなさそうだねぇ。」
 涼子も、分かっているのだ。そう言うと、此れからこの女性が何かしらの能力を使うに違いないと、目を凝らす。
「……それがねぇ。予知夢じゃないんだよ。だから僕にも何が何だか。」
 黒影はそう言うと、夢に出た女性は白雪に何か話し掛けている様だった。
「……黒影の旦那?この先はあたいが見ておこうか?」
 涼子は気を遣いそう聞いた。
 誰だって、愛する人がどうにかなってしまう瞬間なんて、見たくはないだろうから。
「否、構わない。……小さな情報でも、結果白雪の為になるのならば。」
 涼子がそう言った黒影の方を向くと、顔いろ一つ変えずモニターを観ている。
 その瞳が、真実を見ようと澄んだ蒼から赤へと、変貌を遂げ始め、紫水晶の様に光って見えた。
「相変わらず……いい目だねぇ。」
 そう、涼子が言ってモニターに目を戻した時だ。
 窓から下の女性と話していた白雪が、何の攻撃らしい攻撃も受けず、ふらりふらりと後ろに数歩後退りして、倒れるのを防ぐ様にあの安楽椅子へ座ったのだ。
「……黒影の旦那!?今、何があったか見えたかい?」
 涼子は此れではなんの情報にもなりゃしかいんじゃないかと、黒影に聞く。
「少なくとも、物理攻撃では無い。……そのまま白雪の顔を拡大してくれないか。」
 何の焦りもせず黒影がそう言うので、涼子は指示の通りにした。
「……瞬きをしていない。瞳孔は……生きている。この時点では生存は確認出来る。会話中に動きを封じてきたのか……。幻覚……思考読み……。若しくはまだ知らない能力か……。」
 黒影は考えを整理しながら口にする。
 これは書く時に脳が自然に頭を整理する作用と同じで、黒影はメモを省いて頭に書き出しているので、珍しい事ではない。
「……生存って?……まさか、あのお姫様生存確認出来ないのかい!?」
 何時も会えば魔女とお姫様で黒影を取り合うフリをして揶揄う涼子も、流石にそれを聞いては驚きの色を隠せない。
 白雪を揶揄うのも、反応が可愛くて仕方無いからに違いないのだから。
「……ああ、消えた。正しくは砂になった。」
 と、黒影は記録を消すと、他人事の様に言い残しモニター室を去る。
 「あっ……ちょいと!黒影の旦那っ!」
 涼子も慌ててモニター室を出る。
「ん〜?」
 黒影はのんびり振り返っる。
 赤い瞳も、普段の蒼に薄く紫がかった色に戻っていて、涼子は呆気に取られた。
 本気に怒り出すのでは無いかと心配したが、己の在り方は己で定める漢だったと、思い出したからだ。
 激情に呑まれる時、潮が引く様に冷静になり、逆に冷酷にまで静かに闘志を燃やす者が黒影だ。
 犯人をその目で捉えるまで……それは変わりない。
「……ただの夢じゃないんなら、何だろうにゃ〜。」
 と、黒影は微笑みながら足元に戯れついてきた「先生」を持ち上げ、抱っこすると座卓にゆっくり腰かける。
「……ぁあっ!痛いっ!何、何!?」
 サダノブが、急にそんな事を言うので、黒影は「先生」からバッと視界を上げ、サダノブを見た。
「…………。そうか、そう言う事か。」
 黒影はサダノブの頭上を見てそう言うと、笑い出す。
 サダノブの頭には七色の鳴き声の……そう、鳳(鳳の雄。ほう。黒影に力を与えた鳳凰)がいて、髪の毛を弄って遊んでいる。
「……何ですかぁ〜、一体?!」
 まさか自分の主が頭に乗っているとも知らないサダノブは、払い落とそうとした。
「おい!誰を叩き落とそうとしているんだっ!」
 黒影は「先生」を降ろして慌てて言う。
 鳳に怪我でもされたら、黒影も怪我を負うかも知れないのだから、そう言ったのも当然だ。
「へっ?」
 サダノブは、何だか分からないが黒影が注意したので、胡座をかいた足の先に手を置いてじっとしている。
にゃあと「先生」が鳳を見て鳴いた。
「まさか、食べないよなぁ?」
 黒影は「先生」を見て、やや不安気な顔をする。
 鳳がバサッと翼を広げたかと思うと、「先生」の毛を啄いている様に見え、黒影は鳳を抱え上げようとしたが、どうやら違った様なのだ。
 良くみると、鳳が「先生」の毛並みを嘴で撫でているらしい。
「……なんだ、鳳か……。」
 サダノブは安堵に肩を撫で下ろす。
 クスッと穂はその姿を見て笑っていた。
「……あれ?先輩、呼んで無いのに……。」
 と、サダノブは小首を傾げる。
「……ああ、神社の下で寝ていたから、鳳が僕に危機を夢で知らせてくれたみたいだ。……そうだろう?鳳。」
 黒影が聞くと鳳は何とも喩え難い七色の鳴き声を一つにしたような鳴き声で、黒影を見て返事をする様に羽根を広げて見せた。
「……それにしても、猫と鳥が仲良しなんてねぇ。」
 涼子はお茶を出すと、自分も畳にずずいと座る。
「黒田(黒影の本名。黒田 勲。)一族だから、動物は何でも飼い慣らしちゃいますもんねぇ。」
 サダノブはそう笑った。黒田一族は動物が絶滅する前に、影に匿うノアの方舟の様な役割をしてきた一族だ。
 それ故に動物の長たる五神獣が宿るとされ、黒影は鳥類の長である、鳳凰や朱雀を身に宿らせている。
「サダノブが懐くのも狛犬だからじゃなくて、犬だからかも知れないですね。」
 と、穂は何時も黒影に、付いて行くサダノブに、そう言ってまたクスクス笑うのだ。
「勘弁して下さいよ。……周りが全部動物園に見えて来た。」
 黒影は思わず苦笑いを浮かべるのであった。
 実際には、サダノブがついて来た理由は持っている物が逆だからだ。
 黒影の鳳凰付きである限り、サダノブの狛犬の際の物理攻撃や氷……更には普段から身に付いた遺伝性の思考能力は害にはならない。
 お互いにぶつかり合う事なく、自然に選んだのは鳳凰が無い物を補わせた結果なのかも知れないと、黒影は思うのだ。
「……で?危機は惜しくも回避出来なかったたが、夢が鳳の見せた物であれば話は変わってくる。夢で見た場所が実際に在る可能性が高くなった。
 古いよう洋館だが、それなりに大きい。有名な旧邸を探せば出て来る可能性がある。涼子さん、外注も頼みたい。捜索を頼んで大丈夫かな?」
 黒影は出されたお茶を一口頂戴し、茶托にそっと置く。
「……黒影の旦那の仕事なら勿論、喜んで受けるさ。……けどねぇ、この涼子にだって良心はあるんだよ。お姫様の事だったら仕事じゃあないよ。仲間探しって言うんだよ。」
 そう言い放つと、涼子はプイッと外方を向いて扇子を広げ、顔を隠すのだ。
 皆んなそんな涼子を見て微笑む。
 口は悪い時もあれば、男勝りだが、根は優しい事を周りの誰もが気付いていたからだ。
「じゃあ……お言葉に甘えてさせてもらうよ。」
 と、黒影も優しく言う。

 人の顔は目の前の人に移る。
 笑えば笑顔になり、怒れば喧嘩になる。
 優しさは…温かく、優しさで返したくなるものだ。
 まるで鏡の様だと黒影は思う。

「最初っから、素直に甘えりゃ良いんだよ。黒影の旦那には素直が一番。」
 そう言って涼子はパチリと扇子を閉じた。
「……さぁて、何処から手を付けるかねぇ。」
 涼子は大泥棒だった「昼顔の涼子」の目付きに変わり、今にも獲物を見つけて掻っ攫って行く、狐の様だ。
「衛星画像は此方がやろう。」
 と、黒影はサダノブにタブレットを出させ、夢の場所が間違いないか拡大映像で観るつもりである。
「年式は大体わかる。薔薇が咲いていたな。……。」
 出来る限りの詳細情報をたすかーるの常連等に聞き込んで、返事を待った。大概元盗人も多いので、大きな屋敷ならば、下見に行ったりしただろう。

 ――――――1時間経過

 有力情報がやっと入って来た。
 静止画だが画像も添付している。
 黒影はたすかーるのデータを見て、
「……これだ!この建物だよ。」
 と、黒影は何時もの癖で、座卓に置いてあるタブレットで早く確認しろと、爪先で二回カツカツと端を鳴らす。
「分かってますよ。コツコツしないっ!……えっとぉ〜この住所でぇ……はい、見つけましたよ。確認どうぞ。」
 と、くるりと回し黒影の方へ、衛星画像を見せた。
 黒影はその屋敷を多方面からアングルを変え、夢の通りか確認する。
「……玄関らしい扉の上のテラスも同じだ。間違いない。」
 そう真剣な目付きで衛星画像を見詰めて、黒影は言うのだ。
「行くぞ!涼子さん、穂さん、有難う。」
 そうサダノブを急かせ、帽子の鍔を軽く摘み礼を言った。
「着いて行かないで大丈夫かい?」
 涼子は気持ちが滅入っているであろう黒影の背に、声を掛ける。
「問題無い。……何時もと変わらない。何時もと変わらなければ結果オーライだ。」
 と、笑った。

「黒影の旦那……あんなに、見栄張っちゃってさぁ。」
 涼子は「先生」を抱き上げ揺らしながら、黒影の去った後を見詰めて言う。
「それがまた可愛いんでしょう?」
 と、穂は巫山戯てそう笑った。
「そりゃあ、そうさねぇ。たまには強がりしても、お姫様が戻れば魔法の様に箍が外れるよ。」
 涼子も心配しても止められる黒影ではないと、諦めてそう言って笑うのだった。
 ――――――――――――――

「ぅっわぁああ――――――っ!!おかしいですよ!当社比1.5倍のスピードが出てるんですけど――――っ!!」
 真っ黒な社用車こと、スポーツが唸りを上げて高速道路を走り抜け、その過去に無いGの負荷を受けながら、サダノブは黒影に言った。
「はぁ?1.5倍だと?……そんなの甘過ぎるな。俺の可愛いベイビーがやられたんだぞ!2倍でも足りないぐらいだよっ!」
 と、帽子を助手席に置き、サングラスを掛け、また一人称が俺になる豹変っぷりで、やっぱり相当ショックだったんだと、サダノブは今頃知る。
パトランプの音すら、後ろに流れて聞こえない気がする程のエンジン音。
 爆走する悲しみの黒影を、幾ら親友のサダノブでさえ止める事は出来ずに、目的地に着いた頃には後部座席で意識喪失、寸前である。

🔸次の↓「黒影紳士」season5-3幕 第二章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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泪澄  黒烏
お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。