島の教育に魅了された大学生。「本気の人たち」との出会いから
就職活動中だった、大学生。
「本気の人たち」と出会い、彼が惹かれた島の教育とは…。
R5年度の大人の島留学生として海士町に来島。
隠岐島前教育魅力化プロジェクトに所属し、隠岐國学習センターに勤務する佐藤海斗さんにお話を伺いました。
就職活動中、思い切った休学という選択。
ーー現在大学を休学中という佐藤さん。周りも就職を控える中で、島に来ようと思ったきっかけは何でしたか?
佐藤さん:
大学4年生を1年間休学して、はじめて実家を出て海士町に来ました。
ちょうど大学3年生の時に就活をはじめる頃だったんですど、やりたいこととかつきたい職業があまりない状態で。
その時にたまたまゼミの合宿で海士町に行くことになって、合宿を通じて、学習センターのセンター長や海士町の教育に携わる方々、学習センターに通う隠岐島前高校の高校生たちと話す機会を設けていただきました。
佐藤さん:
話しの中で印象的だったことは「本気の人たち」。
自分の中では「意志ある人たち」と言語化しているんですけど、意志を持って地域の人たちのためにすごく頑張っているとか、この高校で学びたいと思ってきたとか、本気で意志を持っている人たちの多さに衝撃を受けました。
それがゼミの合宿で訪れた海士町から帰ってきてからも忘れられなくて。
佐藤さん:
就活もしていたので、「意志ある人たち」と関わってみれば「これがやりたい!」と自分自身も意志をある人になれるんじゃないかなと思い、ちょうど隠岐國学習センターがインターン生を募集していたので応募しました。
ーー「意志ある人たち」が決め手だったんですね!ちなみに、当時出会った「意志ある人たち」はどんな人でしたか?
佐藤さん:
当時ゼミの合宿では、昼の学習センターと夜の学習センター、2回訪問させていただきました。
佐藤さん:
昼間は大人の話を聞いて、夜は高校生たちが施設案内とかお話をしてくれて、そのときにすごく「大人な高校生だな」って思って。
喋りの場もなれているし、案内をしてくれた高校生も島外から来島している子だったんですけど、島前高校に来た理由とか、しっかり自分の中で言語化して伝えられているし、学習センターがどんな場所かもしっかり説明できている。
そんな高校生をみて、すごいなと思ったことが今でも印象に残っています。
ーー島に来るために休学。不安はありませんでした?
佐藤さん:
正直、休学って僕にとってすごい違和感があって。結構チャレンジでした。
大学に通って普通に授業を受けていた学生だったので、いきなり休学って、自分のなかでは勇気がいることだったように感じます。
ですが、悩んだ末に「行かなかったら後悔するだろうな」という気持ちが芽生えて参画することを決めました。
ーー3か月という選択もある中、大人の島留学生の1年間を選んだわけは?
佐藤さん:
学習センターは、インターン経由の大人の島留学なのでもともと1年契約ですが、やっぱり高校生との関わりや地域にどっぷりつかってみるとなると、3ヵ月では物足りないんじゃないかなって思って。
それなら一回休学して、島での生活にも集中できたほうがいいなと思い、1年間を選びました。
自分も挑戦して、与える。教育の魅力化。
ーーそんな学習センターではどんな仕事をしていますか?
佐藤さん:
大きく分けて2つあります。1つは学習センターでの仕事。
19時から22時の間は、生徒が来るので教科指導と生徒たちと雑談もしています。
一般的な塾と違って「授業します!」みたいなことはないんですけど、定期テスト前には勉強をするので。
この前は「学年末テストはこういう意図でつくってますよ」、「こういう出題傾向がありますよ」というのを島前高校の先生に説明していただいたうえで、高校生たちと一緒に学年末テストの予想問題をつくるというテスト対策を行いました。
佐藤さん:
2つ目は、隠岐島前教育魅力化プロジェクトとして仕事です。
教育魅力化プロジェクトの構想づくりや今年度はSNSを使った広報にも力を入れています。
また、島内に住む高校生に向けた「トライべる」という企画も考えました。挑戦の「トライ」と旅行の「トラベル」をかけて「トライべる」。名前は高校生が付けてくれました。
島前高校に通う島内生を対象に、大阪へ行って「やってみる一歩を踏み出す」というテーマのもと、やりたいことに挑戦する企画を、僕ともう一人のインターン生で考えました。
ーーなぜ「トライべる」を企画しようと思ったのですか?
佐藤さん:
「何でもしていいよ」って挑戦する機会を与えていただいて、インターン生でゼロから考えた企画。
島前地域出身の子たちって「島の外に出る機会が少ないよね」という話しからはじまりました。
これまでアーバン探究という自身の興味関心について、1週間ほど東京のシェアハウスで暮らしながらインターンを行う、島内生限定の取り組みがあるのですが、それより少しハードルを下げた企画をやりたいなと思い、提案しました。
「島の外に出て、がっつり挑戦」というよりかは「ちょっと挑戦したいこと」、「やりたいこと」にチャレンジする機会をつくりたいと思って。
ーーゼロから生み出す大変さもあったのでは?
佐藤さん:
最初は、すごく苦戦しました。本当は、高校生7人が参加してくれたんですけど、進めていくうちに僕らが思っていた企画と高校生が思っていた認識のズレみたいなのがあって、途中で「今回行くのはやめたいです。」って断られてしまった子たちもいて。
それはすごくショックでした。最初は「行きたい!」って応募してくれたのに希望とか理想が叶えられなかったというのはすごく反省したところ。
ですが、参加してくれた子たちからは「楽しかった!!」と言ってもらえたことは嬉しかったです。
佐藤さん:
それこそチャレンジできた子、できなかった子といて、例えば「外国人の方と写真を撮る」という挑戦をして、「会話はできたけど、写真は断られてしまい、へこみました。」とか、でもそれってすごくいい失敗経験だなって思うし、そんな小さな失敗経験をいっぱい提供できたというのは本人たちも学びになるということがわかっただろうし、企画してよかったなと思いました。
ーー話を聞いていると、学習センターは挑戦させてくれる環境のように感じますが?
佐藤さん:
「これやりたいです!」といったことは全面的に応援してくれる。
もちろん「ここはこっちのほうがいいんじゃない?」ってすごいアドバイスもくださって、「やってみなよ!」「いいねそれ!」と何でも後押ししてくれる環境は、すごいありがたいです。
サポートしてくれる環境が整っているから、意見も言いやすいですし、本当に色々チャレンジさせていただきました。
同期と一緒に、島での生活も豊かに
――これまでお仕事の話を聞かせていただいたので、ここからは少し暮らしの部分を聞こうと思うのですが、実家暮らしから島でシェアハウス。心配はなかったですか?
佐藤さん:
学生時代に1度訪れた場所だったから、「こういうところなんだなって」なんとなくわかっていて、不安というよりかは楽しみのほうが大きかったです。
学習センターで働くことを選んで海士町に来ていたので、あんまり暮らしのことを考えたりはしていなかったのですが、想像以上に島暮らしだったり、シェアハウスが楽しかった。そこがいい意味でギャップかなって思います。
ーー想像以上に楽しかったという島での暮らし。特に印象的なことは何でしたか?
佐藤さん:
シェアハウスが楽しかったです。
来島前は、大人の島留学って年下ばっかりだと思っていましたが、来島してみたらシェアハウスで1番下。「まじか!!」って思ったけど、全然年齢なんて関係なく、いちシェアメイトとして、楽しく過ごせています。
大人の島留学はみんなが同期という感じで、4つくらい離れている人でも普通に友達のように飲みに行けるし、遊びにも行ける。
一人で来島していたらまた違ったんだろうなって思います。
それはそれで違う楽しみもあったと思うんですけど、同期がたくさんいて、シェアメイトもいたからこそ楽しめた1年間だったと思います。
心の変化を感じた、来島前と来島後。
ーーもうすぐ1年が経ちますが、来島前はどんな1年にしたいなどテーマはあったんですか?
佐藤さん:
就活しているときにやりたいことがなくて、「やりたいことが見つかったらいいな」という思いを持って来島しました。
まだ明確ではないのですが、なんとなく見えてきている中で、当時はやりたいことがない自分に「もやもや」していましたが、島で約1年間過ごしてみて、「もやもや」がなくなった。
ーー就職活動にも変化が?
佐藤さん:
就活で大切にしたい軸も見つかりました。
1つは、「人と関われる仕事」。
この1年で高校生や大人を含め、いろんな人と関わる楽しさを知ったから、これは1番大事にしたい軸です。
佐藤さん:
2つ目は「大人のキャリアに関わりたい」。
これまで、小中学生や高校生を見てきて、周りの大人から受ける影響って大きいなと思って。
「子どもたちが自分の意志を持って行動するには、どんな大人が必要なんだろう?」って考えたときに、「大人が自分の意志を持って、ちゃんと仕事や生活を楽しめば子どもたちにもいい影響があるんじゃないかな」と思いはじめて。
そのときに、大人のキャリアにアプローチするのってすごい面白そうだなと思い、新たな軸として就活をしています。
子どもと関わることは楽しいですし、いずれ教育現場に戻りたい想いもありますが、まずは大人にアプローチができたらと思っています。
ーー「もやもや」や「就職の軸」に変化が生まれた要因は何だったんでしょうか?
佐藤さん:
教育魅力化プロジェクトの人たちって答えのない問いを話すことが多くて。
自分の意見を話す、発する機会があって、受け止めてくれる機会があるんです。例えば、「今まで自分の人生の中で印象的なこと」を10分間話して、その間は誰も質問をしないで黙って聞くみたいな。
自分の価値観だったリ、経験だったりがどんどんリフレクションされていって、「自分ってこういうことが好きなんだな」、「こういうことを大事にしていきたいな」という自己理解が進んだことが要因だと思います。
佐藤さん:
「僕は私は、こう思う」ってなかなか言いづらくて恥ずかしいじゃないですか。教育魅力化プロジェクトの人たちは普通に成し遂げちゃう。
そんな大人たちをみて、僕が最初に海士町に来た時に思った「意志ある人たち」とつながることができました。
ーー大人の島留学後は、復学して就職を目指すという佐藤さん。1年間を振り返ってどうでしたか?
佐藤さん:
考え方は人それぞれですが、僕は大学を休学して島に来て本当によかったなって思います。
「人と関わる仕事」、「大人のキャリア」に興味を持ったことは、海士町に来てから。
自分のキャリアの考え方も含めて、変えてくれた島暮らしに満足ですね。
ーー最後に参画を検討される方に一言お願いします。
佐藤さん:
島前地域には想像以上に「本気の人」、「意志ある人」たちがたくさんいます。
そんな環境で楽しみたい、挑戦したいという方にはピッタリの場所だと思うので、迷ったらとりあえず来ちゃえば良いと思います!
ーー島ではたらき、暮らしを通して、新しい自分と出会える場所かもしれません。
(R5年度 大人の島留学生:渋谷)
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