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呪われたナターシャ―現代ロシアにおける呪術の民族誌
副題にあるとおり、現代のロシアの呪術について、書かれた本です。
呪術なんて、おどろおどろしいものが、現代のロシアで行なわれているのでしょうか?
この本を読めば、その答えがわかります。
とはいえ、その答えは、一口に「イエス」とか「ノー」とかいうものではありません。
ある人にとっては、答えは「イエス」です。でも、別の人にとっては、「ノー」となるでしょう。
現代のロシアで、呪術が「実在する」とか「効力がある」などと考えている人は、ごく一部です。
けれども、ごく一部の人々には、「実在するもの」と受け取られていることも、確かです。本書によれば。
本書には、「実際に、呪術にかけられた」と称する人の体験談が出てきます。
また、呪術をかける側の人(呪術師)の体験談も登場します。数は少なくても、呪術師と呼ばれる人が、現代ロシアに実在するんですね。
呪術師という呼び方には、古めかしさを感じます。
それは、ロシアの人々も同じなのでしょう。現代ロシアには、呪術師の現代版と言うべき「超能力者」もいるそうです。
そのような「超能力者」たちの様子も、本書で語られます。
「超能力者」と、呪術師との違いは、「超能力者」のほうが、一見、科学的な装いをこらしていることです。
あくまで、「科学的な装い」であって、本当に科学的なわけではありません(^^;
この本が刊行された二〇一〇年現在、ロシアでは、オカルトブームだそうです。「実用呪術書」が次々に発売され、けっこう売れているようです。地方の新聞に、「呪術講座」の連載があったりもするといいます(*o*)
知られざるロシアの一面を、教えてくれる本です。
ロシアに限らず、呪術やオカルトに興味がある方には、一読をお勧めします。とても示唆的です。
以下に、本書の目次を書いておきますね。
序章 呪術の「リアリティ」
1 呪術を信じはじめる人びと
2 ロシアの呪術
3 文化人類学における先行研究
4 本書の構成
5 調査の概要と記述対象
第一章 呪われたナターシャ――「体験」されてしまった呪術の物語
1 ナターシャの生活世界――ロシア連邦カレリア共和国
2 ナターシャとの出会い
3 ナターシャの語り
4 隠されていた「真実」の発見
第二章 世代を超えて伝えられた秘儀
1 北ロシアで呪術師を探す
2 ポリーナの場合
3 ニーナの場合
4 リディヤの場合
5 アンナの場合
6 「効く」からこそ
第三章 呪術の「科学」化と無神論の「克服」
1 超能力者とよばれる人びと
2 力の源泉
3 信仰への目覚め
4 ロシアの呪術と世界のオカルト
5 呪術の「科学」的根拠
6 正教会による呪術との闘い
7 無神論の「克服」
第四章 マスメディアが作りだす新たな呪術ネットワーク
1 実用呪術書の売られ方
2 ベストセラー呪術師ステパーノヴァ
3 地方紙における呪術講座
4 口コミ情報誌における助け合い
5 地縁共同体に代わるネットワーク
第五章 呪術実践を支える学術成果
1 流用される学術書
2 民族学者への非難
3 呪術を信じはじめる民族学者――「カレリア一有名な呪術師」の誕生
4 民族学者への悩み相談――「渇きの呪術」をめぐって
5 オカルト化する学術研究――シャーマニズム研究者らの語りから
6 本書『呪われたナターシャ』の効用
終章 時空を超えて循環する知識
呪術の「体験」/合理化される非合理的信念/循環する知識
注
あとがき
参考文献