妖精の世界
フランスの妖精学の大家、フロリス・ドラットル氏の著作です。
主に、英国の文学の中に現われる妖精について、解説しています。
ドラットル氏の著作で、日本語訳されているのは、本書だけではないでしょうか。
大家の、妖精に対する考えを知ることができる、唯一の著作といえるでしょう。
本書は、読みごたえがあります。中世に、妖精たちが詩に現われ始めた時代から、シェイクスピア後までの時代を、順を追って、取り上げているからです。
時代的には、そんなに長くはありません。けれども、密度が濃いです。綿密に、妖精たちの「活動」を跡付けています。
最初に、妖精の種類について、語られます。
ドラットル氏は、妖精を、大きく分けて、「エルフ」、「フェアリー」、「フェ」の三種に分類しています。
この分類は、多くの日本人には、馴染みがないでしょう。
二〇一三年現在の日本では、「金髪碧眼でスマートなエルフ」と、「背が低くて髭【ひげ】もじゃのドワーフ」という分類に、馴染みがあるかも知れません。
これらは、トールキンの『指輪物語』で創作された「エルフ」と「ドワーフ」です。伝統的な妖精とは、少し違います。
ドラットル氏の分類による「エルフ」は、トールキンの「エルフ」とは、まるで違います。
エルフとは、ゲルマン系の「妖精」を指す言葉です。エルフの中に、ドワーフも含まれます。ブラウニーやコボルトやトロールと呼ばれる存在も、エルフに入れられます。
フェアリーは、ケルト系の妖精を指す言葉です。ドラットル氏の分類によれば、そうです。
ケルト系の「フェアリー」は、ゲルマン系の「エルフ」と影響を与え合いながら、発展してゆきました。
では、「フェ」は? この言葉は、フランス語で「妖精」を指す言葉です。フランスで発達した「妖精」の概念が、イギリスに取り入れられました。
私は、ドラットル氏の考えのすべてに、賛同はできません。「そこは、違うんじゃないかな?」という部分もあります。
例えば、ドラットル氏は、シェイクスピア以後の文学に現われる妖精を、あまり高く評価していません。とはいえ、実際には、そう捨てたものでもないだろうと思います。
しかし、氏の業績は、紛れもなく素晴らしいものです。妖精が好きな方であれば、一読する価値があります。
巻末に、日本の妖精学の大家、井村君江さんの解説があるのも、嬉しいです(^^)
以下に、本書の目次を書いておきますね。
序論――ドラットル教授とその学風 島田譲二
まえがき
第一章 エルフ、フェアリー、フェ
第二章 初期のフェアリー詩
第三章 エリザベス朝のフェアリーたち
第四章 『夏の夜の夢』
第五章 シェイクスピア後のフェアリーたち
第六章 ドレイトンからヘリックへ
結論
英国妖精流離譚 井村君江
訳者あとがき
引用文出典および訳注
妖精小辞典
参考文献
索引