吸血鬼伝説
同名の書籍が複数ありますが、本書は、ロシア文学・スラヴ文献学者の栗原成郎【くりはら しげお】さんの著書です。
吸血鬼は、西洋の妖怪として、日本人にも、広く知られていますね。ハリウッド映画や漫画やゲームのキャラクターとして、もはや、吸血鬼は、一般的な存在です。
とはいえ、こんにち見られるような吸血鬼の起源が、どこにあるのかを知る方は、とても少ないでしょう。
ルーマニアの吸血鬼ドラキュラの伝説が、吸血鬼の元祖だと思っている方は、多いと思います。
ところが、調べてゆくと、ドラキュラ伝説は、吸血鬼の元祖とは、言いがたいのです。ドラキュラ伝説が広まる前に、長い「前史」があって、その結果として、ドラキュラが誕生しました。
本書は、その「前史」を取り上げています。
吸血鬼の源流は、スラヴ文化の中にありました。スラヴ文化とは、スラヴ民族の文化です。スラヴ民族は、ロシアやブルガリア、チェコ、スロバキア、ポーランド、セルビアなど、東ヨーロッパに住む人々です。
ある程度、吸血鬼に詳しい方でも、本書を読めば、目から鱗がぼろぼろ落ちるのではないでしょうか。日本では、ほとんど紹介されていない、スラヴ文化が紹介されているからです。
吸血鬼がお好きなら、ぜひとも、本書を一読することを、お勧めします。人狼や夢魔についても載っているので、西洋の妖怪に興味がある方は、本書を読む価値が、大いにあります。
以下に、本書の目次を書いておきますね。
序章 吸血鬼の原郷世界としてのスラヴ世界
第一章 スラヴ吸血鬼信仰
一 ある吸血鬼事件
ニ 吸血鬼とは何か
三 吸血鬼となるのは誰か
四 吸血鬼の肉体
五 吸血鬼の不倶戴天の敵――血の復讐
六 吸血鬼予防法――死者儀礼
七 吸血鬼退治法
八 吸血鬼はなぜ不滅か
第二章 スラヴ吸血鬼説話
一 吸血鬼表象の変遷
ニ 民間説話のなかの吸血鬼
第三章 スラヴ夢魔信仰
一 吸血夢魔モーラ
ニ モーラ発見法――モーラは誰か
三 モーラ防御法
四 妖精キキーモラ
第四章 スラヴ死神幻想
一 吸血病魔――ウーストレルほか
ニ 疫病――「死の舞踏」
三 死神幻想
第五章 スラヴ人狼伝説
一 人狼信仰と人狼説話
ニ 「ネウロイ」伝説
三 「狼の牧者」とびっこの狼の伝説
四 「狼行進」
五 夜の来訪者
六 フセスラフ人狼侯伝説
第六章 文学的吸血鬼
一 文学的吸血鬼とフォークロア的吸血鬼
ニ 吸血鬼小説の源流
終章 一つの結論――吸血鬼バルカン・スラヴ起源説
増補
一 吸血鬼伝説の現実
ニ 贋【にせ】吸血鬼の犯罪
三 南スラヴ吸血鬼譚【たん】管見
「初版」あとがき
「増補新版」あとがき
「文庫版」あとがき
主要参考文献