インド密教の仏たち
インドの仏像について、書かれた本です。
日本の仏像だけでは飽き足らなくなった、仏像マニアの方に、お勧めします(^^)
仏教は、インドが起源ですね。しかし、インドの仏教は、事実上、一度滅びてしまいました。現在、インドに残る仏像は、歴史上の貴重な遺産です。
本書では、それらの仏像を取り上げて、解説を加えています。
仏像を語るのに、インドを外すことはできません。遠く離れていても、日本の仏像とインドの仏像には、関係があります。
けれども、これまで、日本でインドの仏像が語られることは、あまりありませんでした。それには、二つの原因が考えられます。
一つは、単純に、調査が進んでいないことです。
もう一つは、マニアックすぎて、一般向けにそのようなことを書いても、仕方ないと思われたことです(^^;
本書は、前記の二つの壁を、打ち破ってくれました(^o^)
著者の森雅秀【もり まさひで】氏は、インドやネパールでのフィールドワークを重ねています。現地での知見をもとに、インドの仏像を読み解いて下さいました。
仏教の中でも、密教には、たくさんの仏さまや神さまが登場しますね。大日如来、文殊菩薩、観音菩薩、摩利支天、鬼子母神、降三世明王【ごうざんぜみょうおう】、大威徳明王【だいいとくみょうおう】などです。
なぜ、こんなにたくさんの仏さまや神さまがいるのか、不思議に思ったことはありませんか?
また、例えば、同じ観音菩薩にも、「○○観音」という変種(?)がたくさんいますよね。十一面観音、青頸【しょうきょう】観音、馬頭観音、白衣【びゃくえ】観音などです。
なぜ、観音菩薩には、こんなに変種が多いのでしょうか?
これらの仏さまや神さまの起源は、インドにあります。みな、もとは、インドの神や魔神でした。
仏教が発展してゆく過程で、さまざまな神や魔神が取り入れられたのです。それは、民衆に馴染みがある存在を味方にすることで、布教に役立てるためだったでしょう。
観音菩薩の変種は、そのほとんどが、元来、観音とは関係のない別の神さまでした。それが、「観音の化身の一つ」として、どんどん取り入れられてしまいました。
なぜかといえば、観音に、とても人気があったからです。
「あれもこれも、観音の化身です。観音さまは、人々を救うために、いろいろな姿で、活躍しておられるのです」という説教に、説得力があったのでしょう。
この辺の事情を含め、本書は、密教に登場する仏さまや神さまの起源を、明らかにしています。マニアには、たまりませんね(^^)
以下に、本書の目次を書いておきますね。
はじめに
序章 密教図像の世界
三蔵法師と密教/パンテオン――密教の神々/イコノグラフィー――図像の体系
など
コラム1 密教の時代区分
第1章 釈迦像の変容――仏伝図から礼拝像へ
大英博物館の宝冠仏立像/パーラ朝の如来像/釈迦八相図と仏伝図
など
コラム2 密教五仏
第2章 大日如来と太陽神の系譜
毘盧遮那【びるしゃな】とアスラ/アスラの神々――ヴァルナとミトラ/
大日如来と太陽神スーリヤ
など
コラム3 胎蔵曼荼羅【たいぞうまんだら】
第3章 文殊――童子神の姿
母と子――七母神/文殊の姿/密教系の文殊
など
第4章 観音と聖地 補陀洛【ふだらく】山
「補陀落【ふだらく】渡海記」/補陀洛山の情景/ウダヤギリ出土の四臂【しひ】観音立像
など
コラム4 金剛界曼荼羅【こんごうかいまんだら】
第5章 変化観音と女尊たち
観音は女性?/『法華経』「普門品【ふもんぼん】」の観音/観音諸難救済図
など
コラム5 陀羅尼【だらに】の女尊
第6章 弥勒【みろく】・金剛手【こんごうしゅ】・八大菩薩
蓮華とマンダラ/三尊形式と弥勒/ヤクシャの王――金剛手
など
コラム6 菩薩のグループ
第7章 財宝の神と忿怒【ふんぬ】の神
アングリマーラ伝説/大元帥【たいげんすい】明王と護国儀礼/鬼子母神は福の神
など
コラム7 ヴィクラマシーラ寺院
註
あとがき
図版目録
参考文献
索引