遊女の文化史―ハレの女たち
日本の「遊女」について知りたいなら、一度は、本書を読むべきです。
この分野では、古典的な名著です。
「遊女」とは、身も蓋もない言い方をすれば、売春婦ですね。
けれども、古来の「遊女」という言葉には、単なる「売春婦」以上の意味が込められていました。
遊女は、決して、蔑【さげす】まれてばかりいたのではありません。そういう目で見られることも、むろん、ありましたが、「聖なるもの」と見られることも、ありました。
本書は、それを、わかりやすく説いてくれた本です。
本書が出たのは、二〇一三年現在からは、二十五年以上も前です。当時は、遊女の聖性を一般に明らかにした本として、画期的だったと思います。
二十五年以上経っても、その内容は、古びていません。
本書には、日本の古典に登場する和歌が、たくさん引用されています。歌を読んだだけでは、多くの人が、「ふーん」と流してしまうかも知れません。
そこに、本書の著者、佐伯順子さんの解説が付くと、「なるほど」と思います。遊女たちの切ない心情が、身にしみてきます。
本書には、遊女以外の女性も、取り上げられています。和泉式部、松浦佐用姫【まつらさよひめ】、小野小町などです。
彼女たちが取り上げられたのは、「遊女の聖性」に通じるものがあるからです。どんなふうに通じるのかは、ぜひ、本書をお読み下さい(^^)
以下に、本書の目次を書いておきますね。
序章 遊女―その文化史的意義
第一部 色恋と歌舞の女神
I イシュタルの章―古代における性と遊びの位相
1 聖なる性
2 神々の婚姻
3 性と死の遊び
4 共同体験としての性
II ミューズの章―歌舞の菩薩
1 歌姫たち
2 神をよぶ歌
3 遊女菩薩―歌の巫女
4 浄土の遊び―宗教世界の古層
5 神遊びの女
6 他界への転生
III 和泉式部の章―色好みと歌の徳
1 和泉式部と道命阿闍梨【どうみょうあじゃり】
2 衣通姫【そとおりひめ】の流れ―美貌の女流歌人
3 色好みの神々
IV 高尾太夫【たかおだゆう】の章―愛欲の女神
1 太夫の神話
2 多淫なる者、女
V 花子【はなご】の章―「花」の体現
1 扇によせる恋
2 うれいの花
3 老女の花
第二部 薄幸の乙女たち
VI 松浦佐用姫【まつらさよひめ】の章―聖なる花嫁
1 別離の嘆き
2 佐用姫伝説
3 神の花嫁
4 石になる女
5 布を晒【さら】す山姫
VII 妙の章―無常の悟り
1 定めなき契り
2 流れと無常
3 出家と遊女
4 罪業深き身
VIII 小野小町の章―流浪の聖女
1 遊女の栄光と悲惨
2 色好みの果て
3 漂泊の聖者
4 貴種流離の足跡
IX お初の章―愛の殉教者
1 結ばれぬ契りの影
2 地女【じおんな】の恋
3 遊女の恋
4 金銭とエロス
5 女神の招魂
6 死の祝祭における女の主導権
7 ハレの女、ケの女
X お雪の章―慈愛の聖母
1 遊びと遊女の変貌
2 お雪―幻想の妖精
3 娼婦のいる空間
4 堕【おと】しめられた女神―娼婦の性のゆくえ
終章 ハレの女たち
展望―跋【ばつ】にかえて