よみがえる浦島伝説―恋人たちのゆくえ
浦島太郎の伝説を、フェミニズムの視点から、読み解いた本です。
フェミニズムというと、眉をひそめる方もいるかも知れませんね。フェミニズムの研究者には、一部に、偏狭な主張をしたり、ヒステリックな反応をしたりする人がいるからです。
けれども、それは、フェミニズム研究者のうちの、ごく一部です。
この本に登場するフェミニズムは、偏狭でも、ヒステリックでもありません。御安心下さい。
むしろ、フェミニズムという視点を得たことで、お馴染みの浦島太郎伝説が、より生き生きとしたものになります。この本を読むと、そのことに気づきます。
現代に流布している浦島太郎伝説には、乙姫の視点が欠けていますね。
ところが、古代の浦島伝説においては、「乙姫」側の視点が重要です。「乙姫」のほうが、物語の主導権を握っています。
そのような伝説こそが、原初の浦島伝説でした。
本書では、時代により、変遷してゆく浦島伝説の姿を、追っています。古代から近代へと下るにつれ、物語の主導権が、女性から男性へと移ってゆく様子が、わかります。
そして、現代へ至ると、また、変わります。男性と女性とが、対等に渡り合える仲になったことが、物語に反映されます。
本書では、浦島伝説と関連する伝説として、海幸山幸【うみさちやまさち】の神話も取り上げています。「海のもの」と「陸のもの」とが出会い、惹かれ合うという構図が、浦島伝説と共通するからです。
こちらの読み解きも、興味深いです。
以下に、本書の目次を書いておきますね。
まえがき
第一章 浦島太郎の起源
1 古代の浦島子【うらしまこ】伝説を読む
2 美しい恋人たちの世界―『丹後国風土記』
3 愚人の世界―『万葉集』
4 近代の浦島子伝説批評を読む
5 女の恋はなぜ消されたか
6 歴史の書き換え
第二章 海幸山幸神話――二つの海の神話の意味
1 『古事記』と『日本書紀』の海幸山幸神話
2 家長の登場
3 閉ざされた国境
4 律令国家誕生のドラマ
第三章 浦島子伝説の変遷――浦島太郎はいつ登場したか
1 平安時代の浦島子伝説―『古事談』の『浦島子伝』
2 浦島太郎の登場―『御伽草子』
3 江戸の浦島絵本と口承文芸―柳亭種彦【りゅうてい たねひこ】の『むかしばなし浦島ぢぢい』
4 明治国定国語教科書の浦島太郎
5 巌谷小波【いわや さざなみ】の『日本昔噺 浦島太郎』―私たちの浦島太郎
6 森鴎外の『玉篋両浦島【たまくしげ ふたりうらしま】』―家父長浦島の誕生
第四章 浦島絵本のいま
1 子どもたちの読む浦島絵本
2 昭和四十年代の浦島絵本
3 昭和末期から平成の浦島絵本
4 浦島絵本に映し出される家族の変化
第五章 短大生の浦島子伝説―― 一九九五年~二〇〇〇年の浦島太郎と乙姫
1 等身大の浦島
2 二人が別れる理由
3 いじめと援助
4 玉手箱の中身
5 男と女のゆくえ
6 二つの世界をつなぐもの
引用文献・参考文献
あとがき