昆虫機能の秘密
昆虫に関する本です。図鑑でもなければ、普通のエッセイでもありません。
「昆虫の持つ機能を、工業的にどのように利用できるか」を書いた本です。
近年、昆虫に限らず、生き物の構造や行動様式をまねて、工業的に利用することが多くなっています。
生き物の中でも、昆虫は、「工業的に応用できる力を、大いに秘めている」と考えられています。
何しろ、昆虫の適応力は、すごいですからね。陸上生物の中では、ダントツです。
でなければ、こんなに多種多様な昆虫が、栄えているはずがありません。
最近、話題になった具体例を、挙げてみましょう。
モルフォチョウというチョウがいます。このチョウは、青く輝く翅【はね】を持つことで知られます。
ところが、このチョウの翅を調べても、青い色素はありません。
ならば、なぜ、青く見えるのでしょうか?
その秘密は、構造色【こうぞうしょく】です。
モルフォチョウの翅の鱗粉【りんぷん】は、特殊な構造をしています。その構造により、青い波長の光だけが反射されて、私たちの目に映ります。
モルフォチョウの翅の構造を応用すれば、「色あせない素材」ができます。色素で染めなくて済むからです。
このような布地は、実際に、開発されています。
前記のような↑話題が、いっぱい詰まった本です。面白いですよ(^^)
以下に、この本の目次を書いておきますね。
はじめに
第1話 昆虫をまねたロボット
昆虫をまねる/マイクロマシンのお手本はカ(蚊)/さらに驚くカ(蚊)の生理機能/
マイクロマシンを作るには/ガ(蛾)の自由飛行を解析するためのマイクロ電極/
フェロモンロボットとガス漏れ探知機/山火事探査ロボット/
振動で動くアリ型ロボット
第2話 絹が変わる
シルク、太古からのあこがれ/シルクの新たな利用/
バイオマテリアルとしての絹タンパク質の特性/絹を食べる/絹コンタクトレンズ/
「シルクレザー」ボールペンと時計/粒径一ミクロンで一〇〇%絹粉末の化粧品/
人工靭帯、人工腱への利用
第3話 不思議な養蚕国、韓国
カイコの持つ薬理効果―非科学的とは否定できない?/カイコを用いた民間療法/
繭生産のない養蚕国、韓国/カイコ粉末が糖尿病の治療薬に/
カイコ粉末はなぜ血糖を下げるのか/カイコに関連したその他の機能性物質/
スズメバチのスタミナドリンク
第4話 昆虫にはなぜ色がある
昆虫の体色と色素/カイコの卵の色と休眠性/アオムシはなぜ青い/
色素結合タンパク質/幼虫体色とカムフラージュ/
色素結合タンパク質のもう一つの役割/モンシロチョウの配偶行動と翅の色/
モンシロチョウの紫外線色と尿酸/モルフォチョウの構造色とそれを模倣した布素材
第5話 昆虫と微生物の微妙な関係
生物の共生現象/昆虫と微生物の共生/シロアリがセルラーゼを持っていた/
共生微生物ウォルバキア/ウォルバキアによる細胞質不和合性/
ウォルバキアがもたらす雌化/ウォルバキアが水平転位していた
第6話 殺虫剤が効かなくなった虫たち
DDTの栄光と沈黙の春/昆虫は殺虫剤に対し抵抗性を得る/殺虫剤の効き方/
抵抗性のメカニズムが分子レベルでわかってきた/
イエバエにおける遺伝子転写活性の増大/遺伝子の増幅による抵抗性/
標的部位の構造変化による抵抗性/Na+チャンネルタンパク質の構造変化
第7話 眠るカイコの卵
昆虫の休眠/カイコの卵休眠の特殊性/カイコ卵の人工孵化法/
カイコ休眠卵の特性/休眠を誘導するホルモン/
休眠ホルモンが精製されてわかったこと/グリコーゲンがなくても休眠するカイコ卵
第8話 昆虫工場
昆虫工場とは/昆虫工場のツールとしてのカイコ/昆虫工場の出発点/
カイコ体液の効率的な採取法/組換えウイルスの効率的な接種法/
カイコ全自動無人飼育システム/ネコインターフェロンの商品化/
タンパク質受託生産システム/未来の昆虫工場
第9話 カイコゲノムの発信は日本から
ゲノムとは/ゲノム解析研究の進展/わが国主導のイネゲノム研究/
昆虫ゲノム研究の現状/なぜカイコゲノムか/カイコゲノム解析がもたらすもの/
カイコゲノムの推進方策/国際鱗翅目【りんしもく】ゲノムワークショップ
第10話 昆虫機能利用研究の拠点
研究教育拠点の形成/「昆虫機能利用研究」プロジェクト/
昆虫抗菌性タンパク質遺伝子のイネへの導入/
脱皮ホルモンの分泌を制御する新しいペプチド/
植物と昆虫との食うか食われまいか/クワの酵素を利用するカイコ/
昆虫新材料の大量生産/カメムシの遺伝子翻訳開始機構が教科書を書き換えた/
ノックアウトカイコの作出
おわりに
索引
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