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#012 映画「小学校~それは小さな社会~」。で、価値観について考えた。

Cover photo by Annie Spratt

短期集中連載「自己理解 - 「働く」のデザインにおけるインサイド・アウト」 第3回(全6回)

今回のテーマは、価値観。

価値観とは、私たちが大切にしていること、もしくは大切にしたいと願っていること。一貫性有言実行現状に満足しない存在感を示す可能性を信じるなど、大切なことは十人十色。

「価値観を体現する」という言い方があるように、価値観は思考や言動に現われる。意識しているか否かにかかわらず、なんらかの行動を起こすとき、その背景には拠りどころとなる価値観が存在している。


習慣が価値観となり、価値観は運命につながる?

価値観の形成過程について調べていると、次のようなことわざに出会った。

信条が思考となり、思考が言葉になる。言葉が行動に現れ、行動が習慣をつくる。習慣は価値観となり、価値観は運命につながる。

(詠み人知らず)

なるほどと思わせる半面、「うーん、そうかな?」とツッコミを入れたい気分にもなる。

ことわざは、必ずしもものごとの真理を語っているとは限らない。ただ、ものごとの解釈の一端、ひとつの見立てを提供してくれる。ことわざを味わうことで、ものごとの道理を自分なりに理解しようとして、思索が深まったり、思わぬ洞察へと導かれたりすることもある。

ここでもちょっと試してみよう。

信条がはじまりだとすると、では、その信条はどこから来るのか、と少し意地悪く質したくもなる。信条はいくつかの経験を経ることである程度熟成され、自身の内面の核として確立されたもの、という肌感覚もある。

これに対して、価値観はより多様で、確立されているかどうかも曖昧で、身近な存在でありながら、ふだんはあえて言語化しないまま付き合っているような気がする。

両者の関係でいえば、自身の経験やものごとの帰結を内省することによって、思考や行動に現われた自身の価値観が認識され、結果としてより確かな信条がつくられていくのでは、と考えたりもする。

映画「小学校~それは小さな社会~」を観てきた。

先日、気になっていた映画を観た。「小学校~それは小さな社会~」。コロナ禍の一年間、ある公立小学校の一年生と六年生に焦点を当てたドキュメンタリー。宣伝コピーには「私たちは、いつどうやって日本人になったのか?」とある。

なるほど、日本の教育システムは日本人の価値観の形成に大きく影響しているんだろうな。そんな見当をつけて、劇場の扉を押す。

映画『小学校 〜それは小さな 社会 〜 』公式サイト

結論からいうと、その予想は外れた。

価値観は教えられるものではない。自らが選び取っていくものだ。

もちろん、影響はゼロではない。靴を脱いだら揃える、机や椅子も一直線にピシリと揃える・・。「そういうもの」として教えを受け、刷り込まれることによって、日本人独特の美意識が育まれる、という一面は確かにあるだろう。ただ、それと価値観とはちょっと違う。

クラス全員で教室の掃除をする。分担する。協力する。助け合う、なんてこともその過程で学んでいく。他人の役に立つ状況も生まれる。「ありがとう」と感謝したり、されたりする。でも、だからといって、「利他」という価値観が全員に響くわけでもない。そこには、当然のことながら、個人差がある。それを当然のこと思って素通りするか、大切にしたいと心に刻むか、も違う。

図書委員や給食当番など、それぞれに役割が与えられる。自分がやりたい委員には手を挙げる。役割をまっとうしようとする。迷惑をかけちゃいけないと学ぶ。責任の意識が芽生えていく。でも、自分にとっての大事な価値観は「責任感」だ、という子ばかりではない。ないがしろにはできない、という程度の受け止めになるのか、かけがえのないこととして襟を正すのか。向き合い方には濃淡がある。

小学一年生といえば6歳児。自我の発達という意味ではごく初期の段階だろうと思っていたのだが、ところがどっこい。すでに、意思のような「なにか」がある。価値観「らしきもの」が育まれる過程では「揺らぎ」だってあるだろう。ただ、一人ひとりにその時点ですでに形成されている、その「なにか」によって、選んだり、そうはしなかったりしているようにみえる。自然に育まれる、のではなく、自らの意思でつちかっているのだ。

小学校に通っていたのなんて、ずっとずっと昔のこと。生まれる前のことのようにも思える。

家庭外の小さな社会に身を置くことで、はじめて問われることがある。見たり、聞いたり、やったり、やられたりの日常で、あるものごとが正しい、好ましい、もしくはそうでない、と感じ取っていく。

では、どんなことに感じ入ったのか。ストンと腹に落ちたことはあったのか。理不尽と感じたことはなかったのか。おぼろげにも違和感を覚えたことはなにか。なにかをうとむような気持ちにはならなかったのか。強く心を動かされたことは・・。

そんなことを、その頃の自分に聞いてみたくなる。たいした答えは、返ってこないだろうけれど。

価値観の"居場所"を探る

さて、話を本題に戻す。「仕事と学びのデザイン」における自己理解のひとつの要素であるところの、私たちの価値観について考えてみよう。

「あなたはどんな価値観の持ち主ですか?」

唐突にこんなふうに問われて、スラスラと語りはじめることができる人は少ない。日常生活において価値観を意識する機会はそれほど多くないから、それも当然のこと。なんとなく観念的な感じもあって、つい構えてしまいがちにもなる。

でも、それを見つけ出すヒントがいくつかある。 

決断の根拠として存在する

価値観はものごとの判断基準となっていると述べた。まずは手始めに、あなたが大きな決断をしたときのことを振り返ってみよう。「あ~、そういえば・・」と就活でエントリーシートを書いた頃の記憶がよみがえる人もいるかもしれない。
たとえば、進学、就職、結婚、転居など、これまでの人生のイベントにおいて意思決定した状況のことを。その状況での判断基準は、安心感だったのか、冒険心だったのか。はたまた、独自性だったのか、安定志向だったのか。その時のあなたの決断には、あなたが大切にしていたことや大切にしたいと願っていたことが少なからず反映されているはずだ。

日常の「もや感」に頭をもたげる

日常のちょっとしたことにだって、私たちの価値観は現われる。
たとえば、ある地方都市での取り組みとして報じられたニュースがなぜか心から離れないとき。会社からの帰り道、なんだかモヤモヤした気持ちが消えないとき。後輩からのメールの返事になにかひと言添えようとしたとき、など。そこには、未来を拓く機会を逃さないバトンを渡すなど、あなたの価値観が頭をもたげている可能性がある。

ロールモデルに投影される

他者の行動を通じて自身の価値観に気づく、ということもある。
たとえば、ロールモデル。ロールモデルとは、一般的には考え方や行動の規範になる人物を意味する。価値観という視点から捉えると、それは「あなた」が大切にしていることを体現している人のことだ。その行動の背景にある彼ら/彼女らの価値観があなたを魅了する瞬間がある。それは、自分がありたい姿を他人の行動の中に見い出すことであり、そこにはあなたの価値観が投影されている。
「チームメンバーが凹んでいる時に、○○さんのような距離感で向き合うことができたら・・」 「キャリアの停滞期の解釈として、△△さんのような視点には共感できる・・」など、あなたの周囲の人の特定の振る舞いに心を奪われる瞬間があったら、それが自分のどんな価値観に紐づいているのか手繰り寄せてみよう。

「誇り」の感情に潜む

そんな中でも、もっとも効果的と思えるのは、これまでの経験の中であなたが誇りとしていることはなにか?という問いである。「誇り」という感情には、私たちが大切にしていることが克明に現われるからだ。
たとえばそれは、限界をつくらないかもしれないし、持てる力を出し尽くすかもしれない。そこには、相応の熱量を伴うあなたの価値観が見てとれるはずだ。

大切にしたいことを言語化する

自身の価値観を見つめるためには、頭に浮かんだことを言語化することが助けとなる。そのために、既存のツールを利用する手がある。本稿でお薦めしたいのは、価値観を表す言葉のリストやカードを使う方法だ。

リスト形式であれば、リストアップされた価値観の定義を上から順に眺めていく。そして、直感的に「これだ!」と思える言葉に印をつける。たとえば、「差別化」という言葉を目にしたときに、「そうそう。自分は、人と違ったことで貢献する、という点については譲りたくないんだよな。」と思い当たれば、それに印をつけておく。「ビジョン」という言葉をみてピンときたら、それをマークしておく。
それを繰り返してリストの最後までいったら、印をつけた言葉を別紙に書き出してみる。心拍のリズムに耳を澄ませる。どの言葉に心が動かされるだろうかと自問しながら、最終的に5つ程度の言葉に絞り込んでいく。

カード形式の場合も、要領は同じである。カードを一枚ずつめくっていって、ピンとくるカードを取り分けておく。あなたにとっての大切さを天秤にかけるイメージで進めて、最終的に数枚のカードを残す。

リストやカード上の言葉を手掛かりにして、自分にとって大切なことはなにかを詰めていく。
こうして、いくつかのキーワードを頼りに価値観に目星をつける。そのうえで、それらの価値観が思考や行動に現われた経験と、その時の感情について振り返ってみる。
この一連のプロセスは、自身の価値観についての気づきを得ると同時に、深い内省を促すことにもつながる。

動詞を使った表現でワクワク感を高める

大事なポイントは、それらのキーワードを自分なりに翻訳するということ。

特にキーワードが名詞で思い浮かんだ場合は、その名詞を動詞に置き換えることにチャレンジしてみよう。そうすることによって、価値観をより具体的な自身の行動としてイメージすることが可能になる。たとえば、これだと思える言葉が「利他」であったとしたら、それは「チームメンバーの力になる」とした方がしっくりくるだろう。「独自性」であれば、「自分だからこそのやり方を示す」と表現してみることで、ワクワクする気持ちが湧きあがる。

価値観は自分らしく生きるためのコンパス(羅針盤)ともいわれる。一義的には「大切にしたいこと」を意味するが、その捉え方は人によって異なる。特別なこと。切実なこと。かけがえのないこと。そして、当たり前、とさえ思えること。

価値観を知ることは、自身にとってのWHYを見いだすための貴重な手がかりとなる。

参考:


価値観の言語化で、もし行き詰まるようなことがあったら、こんな動画で一息ついてください。




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