【推し活翻訳・番外編】地図と星座の少女、原題 The Girl of Ink & Stars
はじめに:バリー・カニンガム氏から読者へのメッセージ
こんにちは。お読みいただきありがとうございます!
さて、これまでnoteでは、未訳(と思われる)作品を紹介してきましたが、本作は、たくさんの方々のお力添えで「推し活」が実り、晴れて邦訳が出版されています。世界20か国以上で翻訳出版され、50万部読まれる話題作で、原書出版社のオーナー兼総編集長バリー・カニンガム氏は、あの「ハリー・ポッター」第1作を世に出した児童書の目利きです。
そのカニンガム氏が、出版に際して本に添えたメッセージをご紹介します。
「“The Girl of Ink & Stars” は、やさしい言葉で綴られた、とある島の、世にも不思議な物語であり、島の伝説のただなかを旅する少女と、少女を導く伝説の物語だ。主人公と旅する読者は、危険や恐怖に直面するだろう——けれど、心が熱くなるような勇気や愛や友情にも出会うはずだ。イサベラは、島の新しい未来を描けるのだろうか?
キラン・ミルウッド・ハーグレイブのデビュー作は、驚くべき着想の数々と独創的な世界観に満ちている。そして、信じられないほど美しい物語でもある」
とても奥行きがあって、児童書ながら大人にも読みごたえ十分。2023年10月のブクログ通信で、プレゼント(ブックサンタ)に人気の本として紹介もされました。
挿し絵付きで試し読みもできますので、ぜひのぞいてみてください。ファンタジーは初体験という方は、ネタバレなしの訳者あとがきから読んでいただくのもおススメです。
読者の方のすてきな感想はこちら。
あらすじ
物語の舞台となるジョヤ島は、かつて海を漂う流れ小島でしたが、千年のむかし海底火山にとらわれて動かなくなりました。このことは、炎の魔物ヨーテと戦い、島を救った少女戦士アリンタの伝説として人々のあいだに伝わっています。
物語好きのイサベラは13歳、地図職人の父と二人で海辺の町グロメラに暮らし、いつか島全体の地図を描きたいと夢見ています。けれど、総督の命により、人々は町から出ることができず、はむかう者は「追われ人」として森の奥へと追放されています。総督は冷徹な独裁者ですが、その娘のループはイサベラの親友です。
ある日、イサベラとループの級友が何者かに殺されます。伝説の秘密を知る総督は、密かに島からの脱出をはかりますが、ループが犯人を追って禁断の「見捨てられた領地」に向かってしまい、捜索隊が組まれます。イサベラは少年に扮して、家に伝わる島の古地図と不思議な光を放つ父の杖のかけら、そしてループから託されたペンダントを手に捜索隊に加わります。
捜索隊は、見捨てられた領地で追われ人に襲われ捕虜となりますが、イサベラはそこで、保護されていたループに再会します。追われ人は、魔物ヨーテの復活を知り、総督の船を奪って島外に逃れようと企てていました。夜を徹してグロメラへ向かう一行に、ヨーテが放った魔獣ティビセナが追いつき、追われ人や総督が決死の覚悟で迎えうちます。
からくもその場を逃れたイサベラとループ。けれど、ティビセナに追われ、火山洞窟の地下迷宮へ落ちてしまいます。ここで威力を発揮するのが家に伝わる古地図、なんとアリンターラ川の水に濡れると地下迷宮の地図が浮かびあがるのです。光る杖のかけらで細く暗い道を照らし、二人は島の奥底——魔物ヨーテが待つ地中の火口——へと向かっていきます。
読みどころ
作者のハーグレイブさんは、もともと詩人として活躍していた方で、独特で美しい言葉選びが魅力のひとつです。インタビューで、みずから 「a very visual writer」とおっしゃっているとおり、物語の場面が鮮やかに目に浮かびます。物語の中で語られる伝説やお話も含めて、まるでアニメ映画を見ているよう。場面展開が早くてぐいぐいと読ませるのに、そのスピード感が作品の美しさを少しも損なわないのには目を見張ります。
そして、主人公のイサベラをはじめとする登場人物は、みなキャラクターが立ち魅力的です。とくにループは、冒頭では支配者の娘らしい無邪気な傲慢ささえ感じさせますが、イサベラと心を通わせる純真さを持ち合わせ、物語が進むにつれて大きな成長を遂げます。
「これはループの成長物語」、「主人公はイサベラだけど、主役はループ」といった感想をくださった「ループ推し」の読者の方も少なくありませんでした。また、冷徹なアドーリ総督の、娘に対する秘めた愛情や、イサベラと父親の深い信頼など、父と娘の関係にも読みどころがあって、男性読者の方からも多くのお声をいただきました。みなさん、本当にありがとうございます!
岩波書店から刊行された邦訳は、原書の初版刊行の6年後、2022年に書き下ろされた特別短編が収録されたスペシャルバージョン、物語の雰囲気を伝える美しい装画や挿し絵は、ウクライナ人のオリア・ムーザさんの手によるものです。お目にとまりましたら、ぜひ手に取って、中の扉絵も楽しんでくださいね。
こちらでカラーの挿し絵がいくつか見られます。
受賞歴
ウォーターストーンズ児童文学賞、ブリティシュブックアワード