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推し活翻訳24冊目。The Queen of Thieves、勝手に邦題「盗みの女王」
原題:The Queen of Thieves (Tjuvdrottningen)
原作者:Johan Rundberg 英訳:A. A. Prime
勝手に邦題:盗みの女王
出版社:Amazon Crossing Kids (Natur & Kultur)
カバーデザインほか:Edward Bettison Ltd.
この作品は、ムーンウインド・ミステリーと名づけられた子ども向けミステリーシリーズの2作目です。主人公は孤児院で暮らす12歳の少女ミカ。はみ出し者の刑事ホフとの凸凹コンビで事件を解決する、ちょっとダークな雰囲気が漂うスウェーデン発の作品です。
1作目の紹介記事はこちら。
概要と感想
ミカは、集合煙突から手を離し、そろりそろりと屋根のはしへ近づきました。煙突掃除のためにルファスと登った孤児院の屋根からは、ストックホルムの街がずっと向こうまで見渡せます。厳しい冬を忘れさせる明るい春の日差しを浴びて立っていると、SSヴェガ号のマストで氷山を見張る乗組員も、こんな気持ちじゃないかと思えてきます。
ヴェガ号には、北極海経由のアジア航路を発見した冒険家が載っていて、施設長のアメリアが読んでくれた新聞記事によると、2年あまりの探検航海を経て、まもなく、ここストックホルムのストロムカイェン港に寄港するのです。
長くつらい冬が終わり、街じゅうの煙突がすすだらけで、高いところが苦手で体の不自由なルファスも、煙突掃除の見習いになることができました。稼げるお金はごくわずかですが、自分で生きるすべを学ばなければいけない孤児にとって、悪いことではありません。
そのとき、ミカの目に、通りを行くオシアンとクリスティーナの姿が留まります。まだ授業を受けているはずの時刻なのに…。二人はこのごろ、午前中の用事を片づけるとどこへともなく姿を消すのです。厳しい冬、息のつまるような孤児院での暮らしを思えば、ちょっと抜け出したくなるのはわかる気もしますが、いったいどこへ向かっているのでしょう。
煙突掃除のあと、ミカがオシアンを注意しに行くと、オシアンは金ぴかの小箱を隠し持っていました。美しい模様を刻んだ蓋つきで、高価なかぎ煙草入れのようなそれを、通りで知らない女の人にもらったと言いはるのですが、ミカは信じません。孤児院の子どもが盗みや物乞いをしたら、本物の刑務所と同じくらいひどい矯正施設へ入れられるのです。
ミカには、ここの子どもたちが道を踏み外して危険な目に合わないよう目を光らせ、みんなを守らなければいけない役目があります。ときには、厳しいと思われることがあっても。
ミカは、かぎ煙草入れをオシアンから取りあげ、アメリアに事情を話しますが、いつもは厳しいアメリアが、なぜかまともに取りあおうとしません。実は、オシアンは、里親が決まったばかりだったのです。
ただ働きをさせるためだけに孤児院から子どもを引き取ることは、この時代、めずらしいことではありませんでした。それを知っているオシアンは、自分を大切に思ってくれる「本当の家族」がいると言い残して、こつぜんと姿を消します。ミカに、金のかぎ煙草入れを残して。
☆ ★ ☆
前作で運命的な出会いを果たし、死んだと思われていた闇烏の第5の殺人事件を解決したミカとホフ刑事。実は、そのために警察の上層部の秘密も暴いてしまい、ホフは仕事や肩書きこそ失わなかったものの、軽犯罪担当に左遷された状態です。
それで、道でスリを働く子どもたちを見つけ、またしてもミカとのつながりができる。うまくできていますね。読んでいただくとわかるのですが、小さな伏線とその回収が、ストーリーのあちこちに埋め込まれていて、それを見つけるのも楽しい。
ホフの捜査に協力しているだけだったミカの気持ちも変化して、この二人、この先もっと温かな絆で結ばれていって欲しいと思ってしまいますし、ホフの過去が、ちらりと見えそうで見えないところがニクイのです。猫のルシファーもいい味を出しています。
今回の敵は、あるときは淑女に、あるときは子どもたちを優しく包む女性に、またあるときはナイフを使う大道芸人にと姿を変える謎の女。ミカももう少しで巧みな話術にとりこまれてしまいそうになり、ハラハラの展開が続きます。
そして、1作目にも登場したミカの知り合いのテクラとその仲間たちがすごい。盗みの容疑で独房に入れられたミカの救出作戦、見どころのひとつですよ。前もぶっ飛んでると思いましたけど、この子たち、ぜひまたミカと組んで活躍してほしい。
ダークエンジェルとミカの出生の秘密は謎のまま。ああ、気を持たせるぁ。3作目も予約してあるので、またいつか、ご紹介しますね!
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